第5話 過去の兄妹Ⅱ

「何歳?」


 律希が落ち着いた声で聞くと、男の子は少し躊躇ってから短く答えた。


「12」


「小6?」


 男の子はうなずく。


「名前は?」


「あ、東優斗あずまゆうとだけど」


 優斗は律希に、警戒した視線を送る。


「そっちは誰なの?」


 何と言えば良いだろうか。律希は少し迷った後に答えた。


「名前は一ノ瀬律希いちのせりつき警察だよ。制服は着てないけど」


 微妙に違うが、嘘だとは言えない答えだ。「警察」と言う答えを聞いた優斗は、少し安心したように肩の力を抜くが、用心深く聞いた。


「本当? だったら、警察手帳見せてよ」


 小6は、大人しく騙されるほど甘くない。律希は内心溜息をつきつつ、賭けでFTTの社員証をさっと見せた。


「これでいい?」


「……それ、本物なの?」


「見ればわかるでしょう」


「分かんないよ。本物の警察手帳なんて見たことないんだから」


 それでは意味がないじゃないか、と律希は呆れたが、それは彼にとって好都合だった。


「なら、とりあえず信じて」


 律希が言うと、優斗はしぶしぶうなずいた。


「ねえ……一ノ瀬さん、だっけ? その、警察は俺を捜しに来たの? 父さんが通報したの?」


 優斗には、警察と関わるような心当たりがあるらしい。律希はそれを聞き出そうとする。


「いや、僕らは違う事件で動いてて、優斗のことは知らないけど。通報って? 夜の10時近くに公園に居ることと関係してる?」


「してる」


 優斗の表情が曇る。下を向いて語り出す優斗の話を、律希は適度に相槌を打ちながら聞いた。


「俺、家出して来たんだよね。父さんと喧嘩して。だから……もしかしたら探してるかもなぁって」


「何で家出なんかしたの」


「……だって、お父さんが急に、あずまパン継げとか言うから! 俺、サッカー選手になりたいんだよ。だから、こんな潰れかけのパン屋なんか継がないって……酷いこと言っちゃって」


 優斗ははぁ、と溜息をついた。


「そりゃお父さん怒るよ。自分の店を『こんな潰れかけの店』なんて言われたら」


 一気に落ち込み、気力を無くした様子の優斗を見て、律希は、香織と紗奈を振り返った。


「吉崎、片岡さんに連絡取れる?」


「取れるけど……一ノ瀬は優斗君が関係してると思うの?」


 香織が聞くと、律希は、確実じゃ無いけど、と小声で話し出した。


「こんな時間に1人でいる小学生。標的としては最適だ。……犯人は優斗の運命を変える事で、歴史を変えたいのかもしれない。もちろんそうとは言い切れないけど、可能性はある気がする」


「じゃあ、犯人は今、この公園の中で優斗君を探してるわけ?」


「……もしこの仮説が合ってたらだけど」


 香織は、分かった、と短く答えた。

 時間通話は、普通の携帯では出来ない。時間機に付いている通話機能を立ち上げて、香織は皆から少し離れる。


 自分に聞こえないように話し合っていた3人に、優斗は不安感を抱く。


「ねえ、俺、家に帰される?」


 律希が答えないので、優斗の問いは紗奈に向く。


「えーっと……分からない。もしかしたら、それどころじゃ無いかも」


「それどころじゃ無いって? まさか俺、一ノ瀬さんたちの事件に巻き込まれてたりする?」


優斗の発想が一気に飛ぶ。しかし、それが合っているせいで紗奈はたじろいだ。

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