　当然スフィアは先ほどのような過ちを犯すわけもなく、開始早々バックステップを踏みながら俺から距離を取りつつ身体強化の魔術を行使しているのが分かる。

　そして身体強化を終えたスフィアは、今度は一転俺へと一気に駆けて来ると、木剣が当たる間合いに入った瞬間に攻撃をしてくる。

　流石に女性といえども身体強化している状態で放たれる攻撃は一撃一撃が重く、何も付与していない俺はスフィアの攻撃を受け止め切れるわけもなくスフィアの攻撃を流す事で精一杯である。

　それでも太刀筋が単調であり、そして速さよりも威力を重視しているのか身体強化をしているにもかかわらずスフィアの攻撃は俺の目で追えるくらいの速さであった為、俺にスフィアの攻撃が当たる事は無い。

　そして拮抗した状態が続き、ついにスフィアは痺れを切らしたのかさらに力でゴリ押しして来るではないか。

　ここらへん、スフィアの幼さが出てしまったのだろう。

　しかしながらこの好機を逃す訳もなく、俺は一気に単調になったスフィアの攻撃を横に身体ごとずれる事で避けると、まさか避けられるとは思っていなかったスフィアは空振りしたことによりバランスを崩しており、そこへすかさず足を引っ掛けてスフィアを転倒させる。

　そして俺は転倒して起きあがろうとしているスフィアへ、自分の持っている木剣をスフィアの首筋に当てる。

「そこまでっ！！　勝者ローレンスっ！！」

　その瞬間アーロン先生が俺の勝利を声高々に叫び、クラスメイト達はまさか俺が、それも身体強化すらしていないにもかかわらず身体強化をしているスフィアに勝利するとは思ってすらいなかったんかシンと静まり返っている。

「流石ローレンス様ですわっ！！　わたくしは絶対ローレンス様が勝利すると思っておりましたわっ！！」

　そんな中フランだけは俺が勝利した事を素直に喜びの声をかけてくれ、そしてフレイムとキースは『ローレンス様が勝つのは当たり前です』といった表情で『うんうん』と頷いているのが見える。

　当初、俺はスフィアとの二回目の模擬戦は、今度こそ適当に流した後で負けようかと思っていたのだが、フレイムやキース、そしてフレイムたちの『ローレンスが勝って当たり前』というような表情を見ると、わざと負けるというのは俺の中で無くなっていた。

　それは単純にひっそりと目立たずに暮らしたいという欲求よりも、あいつらの期待を裏切りたくないと思ってしまったのである。

　しかしながら目立ちたくないというのも本心ではある為当然一方的にボコって勝利するよりもある程度苦戦しているように見せた後なんか勝てたという流れにすることで『ローレンスがスフィアに勝てたのはたまたまでありまぐれである』と思わせるという方法を取ったわけである。

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