第151話 二回目

「そ、それはそうですけれども……ですがこれは殺し合いではなくて模擬戦ですっ!! 模擬戦だからこそ自らの過ちに気づいて修正する事ができるというものですっ!! そしてそれこそが、失敗に気づき、対処法を自分なりに練るというのが模擬戦の利点でもあると私は思うのですがっ!!」

「…………………一回だけだぞ?」


 そしてアーロン先生は何か言い返えそうと口をモゴモゴとするのだが何も思いつかなかったのか悔しそうにしながらスフィアに一回だけではあるが模擬戦のやり直しを許可するではないか。


 ダサいというか、何というか、まだ何かしら言い返す事はできなかったのかと思わず思ってしまう。


 歳を取ってしまって頭の回転が、咄嗟に次の言い返せる言葉が思いつかないほどには回らなくなってしまったのだと思いたい。


 流石に若い頃から頭の回転数は変わらないような、脳筋で突っ走るタイプのような気もするがきっと気のせいだろう。


 これはきっとあれだ。 逆にアーロ先生は野生の勘が物凄くすごい脳筋なのかもしれない。


「ありがとうございますっ!!」

「まったく、最近の若者は口が達者で困るな……」


 しかしながら、スフィアのおかげで今までうるさかったアーロン先生が静かになったのでこれはこれで喜ぶべき事なのだろうが、せめて模擬戦をするにしても俺ではない誰かに相手を変更するなどして欲しかったと思ってしまう。


「聞きましたか? ローレンス。 アーロン先生のご厚意によりもう一度模擬戦をする事になりました。 だからここへ戻って来なさい」

「えぇ……面倒くさい」

「つべこべ言わずにこっちまで来るのですっ」


 そしてスフィアはスフィアで先ほどの汚名を返上すべくやる気満々と言った感じで俺に声をかけてくるではないか。


 そんなスフィアを見て『お前がつべこべ言ったからもう一度模擬戦やらなければならなくなったんだろうが』と思わず口から出そうになってしまうが、何とか寸前のところで抑える事ができた俺を誰か褒めて欲しい。


「はいはい、わかりましたよ。 そっちに行けば良いんだろ? 行けば」

「初めからそうすれば良かったんですよ」


 何だろうか? スフィアの我儘に付き合わされてもう一度模擬戦をやる羽目になった俺に対して謝罪か感謝の一言でもあっても良いものではなかろうか?


 しかしながら子供相手にそれを言うのも大人気ないような気がするのでここはあえてスルーする。


「では、アーロン先生。 開始の合図をお願いします」

「よかろうっ!! では両者構えっ!! …………初めっ!!」


 そして、テンションが元に戻ったアーロン先生の開始の合図と共にスフィアとの本日二回目となる模擬戦が始まる。

 

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