第66話 俺は何も見なかった事にしよう

「うーむ、それは残念だ。 しかしながら婚約破棄をするという訳でもないし、気長に待つとするかね」


 そう言いながら毎回俺に挙式を迫ってくるのは何故でしょうか? という言葉が喉元まででかかったのだが、なんとか俺は阻止することができた。


「それにしたって君は同年代の他の子達と比べるとかなり大人びているし、考え方も柔軟で私達には想像すらできないような事を思いつく。 既に貴族ではなくなったとしても娘を養って余りある財力は確保している、またはその算段ができているのであろう。 君の兄上も神童と呼ばれ、そして今もなおその勢いは衰えておらず『神童、十五過ぎれは才子、二十歳過ぎればただの人』とはよく言うのだが、君の兄上はまごう事なき神童であったと思えるほどの才の持ち主だと思うが、私の見立てが正しければ君の兄上よりもローレンス君の方が将来化ける匂いがするのだよ。 やはり実の娘を嫁に出す所は将来的にも心配いらない殿方のところに嫁がせたいという単なる男親の我儘──」

「あなたっ!! またローレンス君に早く挙式しろと言って迫ってたんでしょうっ!? これ以上しつこいと娘にこの事を伝えますからねっ!!」


 阻止することは出来たのだが、フランのお父さんが俺の事をいかに買っている説明し始めた時に現れたフランのお母さんに有無も言わさず首根っこを掴まれて「うちの主人がすみませんね。 後でしっかりと言い聞かせますから」という言葉とともに引きずられて行く事を俺は阻止できなかった。


 フランのお父さんがこの後に妻かからどんな事を言い聞かせられるのかはあまり考えたくはないのだが、強く生きてほしいとそう思う。


 ただ、フォローするとすればフランとの事になるとちょっと暴走してしまうダニエルさんなのだが、それさえ無ければ優秀な方ではある。


 きっと、それだけフランを愛しているという事でもあるのだろう。


 そのフランはというと、今現在ドリルをギュルギュル回しながらフレイムの指導の元地面から三十センチほど浮いているのが見える。


 うん、俺は何も見なかった事にしよう。


「あの、ご主人様……」

「どうしたの?」


 そんな事を思っているとマリアンヌがモジモジしながら顔を少し赤らめ話しかけてくるではないか?


 尿意だとすればトイレの場所であろうか? だがマリアンヌもここクヴィスト家には幾度となく訪れているのでどこにトイレがあるかは分かるはずなのだが……あぁ、トイレに行きたいからご主人様である俺の許可が欲しいといったところか。


 別にそれくらいであれば──


「わ、私も釣りがしてみたいのですが、ダメでしょうか? や、やはり女性がそのような事を言うのははしたないでしょうか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る