第49話 八歳



 あれから二年の月日が経っち、俺も早八歳となった。


 初めはどうなる事かと不安ではあった醤油、味噌、みりん、日本酒、ヨーグルトにチーズもマリアンヌのお陰で無事試作品第二号まで完成できている。


 あとは生産性の向上と販売できるレベルまで味の向上を目指して試作を繰り返していくだけである。


 それ以外は特にこれと言って語るような事も無い日常を過ごしている位には平和である。


 強いて言うとするならばお兄様の恋がライバルもろとも破れてしまい、一週間くらい鬱状態になっていた事くらいであろう。


 しかしながら畜産系を主軸にしていない領地の後継者相手に『チーズを作って来い』と言うのは普通に考えれば遠回しにお断り案件だよなぁーと思っていたので、俺からすれば『やっぱりな』といった感じである。


 お兄様、男というのはそうやって大人になっていくのだよ。 


 そんなお兄様に引き換え俺はというと、堕落しきっていた。


 日々の武術と魔術の鍛錬こそ怠らないものの、それ以外は家でのんべんだらりと過ごすだけである。


 これが家督を継ぐという肩書きが増えただけで月最低でも二回以上はお父様についていって今日はあそこのパーティーへ、次はどこそこのパーティーへと顔見せと婚約者探しの為に付き添わなければならないのである。


 考えただけでも胃が痛くなる案件だ。


 そんなお兄様も既に十三歳と帝都にある帝国立魔術学園へと去年の春から実家を離れて寮から通い始めている。


 そのため平日は学業、唯一の休日はパーティーと実に大変そうだ。


「ご主人様、風が気持ちいですね」

「ご主人様ご主人様っ、早く庭に行きましょうっ!! 今日は『やきう?』という遊びをしてみたいですっ!」


 そして俺は今何をしているかというと、フレイムに後ろから抱き抱えられその大きなお胸様を堪能しながら大きめのソファーに座り、今日も元気いっぱいお転婆娘のマリアンヌを孫を愛でる老人のスタンスで眺めている。


 そろそろマリアンヌの相手をしてあげないといけないとは思うものの肩に感じるお胸様と、背中全体に感じる女性特有の柔らかさという超重力から抜け出せずにいる。


 これぞまさにグラビティーバインド。 禁止にもなる訳である。


 これだよこれ、これこそが俺が求めている日常だと思うものの、所詮は俺が成人するまでという期間限定のスローライフである事は分かっている為、成人して独り立ちする時の為に奴隷を増やさなければなぁ、とは思うものの思うだけで面倒臭い事は明日でも良いか、と先延ばしにする日々である。


 そんな俺にも例外というものは当然あり、それは嵐も嵐、台風と言っても良いレベルで奴は両家公認という関係を利用してアポも無しに突然やって来る。


「こんな所にいたのねローレンスッ!! 今日はどんな遊び、ではなくてデートをしてくださるのかしらッ!?」

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