第38話 鼻口を刺激してくる


 そして俺はオークスへと件の隣国の国王との婚姻関係を破棄された元王妃に会わせて欲しいと伝えてみる。


「それは構わないのですが、先ほど申しました通り王妃様は顔に熱した油をかけられており、とても人様に見せられるような容姿ではございません。 できれば、顔が見えないようにかけているレースはそのままで素顔は見ないようにしていただけるとありがたいのですが……」

「わかりました。 それで構いませんので案内してもらえませんか?」


 しかし、俺が元王妃を見せてほしいと言うとオークスの表情は曇り、できれば顔だけは見ないで欲しいとお願いしてくるではないか。


 それ程までに元王妃の顔は見るに耐えないものになっているのか、それとも元王妃は見られたくないと思っているのか、はたまたその両方なのか。


 レースで隠していると言うくらいなのだから、もしかしたら火傷の跡が綺麗に治らず膿んで来ているのかもしれない。


 貴族であり買う側の俺へ不利益になるような事(この場合は俺に、元王妃を見てみたいという要求を断られたと思われかねない行動)を取るのは相手を不快に思わせてしま可能性があるため、本来であれば取らないはずであるにも関わらずあえてそのような行動を取ると言うことはそれを見越した上で『見た方が引かれてしまう』と思えるほどに元王妃の顔は見るに耐えないレベルで崩れてしまっているのかもしれない。


 想像すれば想像するほど元王妃の今現在の素顔が酷い物へとイメージされて行くのだが、どんなに想像したところでそれは俺の想像に過ぎないので考えても仕方がないと、とりあえず元王妃がいる部屋にまで案内してもらう事にする。


「こちらでございます」


 そして、オークスに案内された部屋へと入るとすえた匂いが俺の鼻口を刺激してくる。


 これは間違いなく王妃様の顔は膿んでいるという事が見なくても分かってしまうレベルである。


 そして、俺たちがこの部屋に入って来た事に気づいたのか元王妃様はベッドに横になっていた所をなんとか上半身だけベッドの上で起こして、俺たちがいる方向とは少しだけズレた方角へ軽く頭を下げる。


「御免なさいね。 火傷のせいで目が見えなくなってしまったものですからもしかしたらおかしな方向へ頭を下げてしまっているかもしれません。 あと、既にそちらにいるオークスさんから聞いていらっしゃるかもしれませんが顔は火傷で爛れて膿もあり悪臭を放っておりますし、年齢もそんなに若くありません。 むしろ世間では娘がいて孫がそろそろできてもおかしくない年齢でございます」

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