第25話 母は強し
ウェストガフ家のメイドに連れられて夫婦二人が客間へと入ってくる。
この男性はウェストガフ家の収める領地の右隣の領地を収めているクヴィスト家の当主である、ダニエル・クヴィストであり、フランの父親その人である。
「いえ、それについては先に早馬まで出していただいたみたいでフランお嬢さんが来る前にちゃんと把握していましたからな。 そちらの落ち度は何も無いよ」
「ありがとうございます。 しかしながらあのフランが我儘を言うのはかなり珍しく、しかもそれが今回のような事を望んでいたとは。 いやはや女の子は成長が早いとは言いますけど、少しばかり早すぎる気もするします。 もう少しだけ長く親元にいてほしいと思うのは親のエゴだとは思っているのですけれども、どうにもあの二人の様子ですと学園の高等部を卒業と同時に私の元から飛び去ってしまいそうですね」
そう言うとダニエルは嬉しさと寂しさが入り混じった器用な笑い方をするではないか。
しかしながらそれを言うならあのローレンスもいつかは我がウェストガフ家を出ていかなければならない身であるため、同じ父親としてダニエルの抱いている感情が良く分かる。
「その件に関してはお互い様ですよ。 ウチのローレンスも優秀すぎるが故に早くに独立して私の元から飛び去って行きそうなくらいだからね」
お互い、そう思える位には目の前に見える庭で二人手を繋いで楽しそうに歩くその姿はお似合いの二人に見える。
「あらあらまあまあ。 この調子だとフランちゃんが私の義理の娘になるのかしら? 今の時点であんな可愛らしい彼女なら大人になるともっと美人で愛らしい魅力的な女性になる事でしょうね。 そう、リーシャさんのように。 私、今からとっても楽しみだわっ」
「あら、ペニー様ったら。 お世辞だとしても嬉しいですわ。 でも、確かに親ばかな発言かもしれませんがフランはわたくしが見ても将来とても美しくなる事だけは間違いないと思っておりますの。 そしてそれはペニー様の息子であるローレンス様もフランに負けずとも劣らない程整った容姿になると思いますわ。 なんせ、あのフランを一撃で射止めて見せたんですもの」
そしてそんな二人を女性陣がお互いにお世辞を言いながら「あらあら」「まあまあ」と楽しげに会話しているのが聞こえてくるのだが、その内容は私たち父親サイドとは少し違い、息子や娘が離れていく事の寂しさ等ではなくただ純粋にあの二人を見て楽しんでいるようである。
おそらくきっとあの二人はとうの昔に二人が巣立つ時の覚悟はできていたのであろう。
母は強しとよく言うのだが本当にそうだな、と男性陣二人はそう思うのであった。
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