第22話 思わず思ってしまう

「何そんな所で突っ立って呆けているのかしら? こんな美しいレディーがいるのですから…………ふむ、成程ですわ。 そういう事ですのねっ!!」


 何が成程なのか、フランは俺が呆けている事に納得したようである。 できればこのままお帰りいただければ尚嬉しい。


「それならそうと『あの時一目惚れした女性が目の前に現れて呆けてしまっている』と、その思いの丈を口にすればいいですのに。 ですがわたくしは、なかなか口に出して言えないという殿方のお気持ちを察する事ができる大人なレディーなんですもの。 言って欲しいからとついせがんでしまうお子様とは違うのですわ」


 うーん、全くもって一ミリたりとも掠ってすらいないんだが。


 むしろ何故そこまで自意識過剰になれるのか分からないと初めは思ったのだが、俺が前世で彼女くらいの年頃も思い返せば『正義のヒーローになるんだっ!!』と本気で思っていたので似たようなものだろう。


 そう思えば子供らしくあの頃の俺がヒーローに憧れていたように、彼女もまた大人の女性に憧れを抱く年頃なのだろう。


 そう思えば多少失礼な言動もなんだか可愛く思えてきた。


 だからと言って恋愛対象になるかどうかはまた別問題であり、流石に子供すぎるので無理がある。


 あくまでも子供を愛でる感情という意味であるので、俺がそういう趣味であるなどという勘違いだけはやめていただきたい限りだ。


「それにしても、フランは初めて出会った時も思ったんですけれども、とても美しいですね。 まるで美の女神が僕の目の前に現れてしまったかと思いましたよっ!!」


 なのでここは前世と合わせると三十をとうに超えている俺が、かわいいお姫様の要望に応えてあげるとしよう。


 まるで前世時代に姪と遊んでいた相手をさせられていた時を思い出して少しだけ懐かしく思ってしまう。


「まっ! なっ! そっ! そうですわっ!! わたくしはあなたの言う通り女神のように美しいのですわ…………」


 そして細工無しの歯が浮きまくる弩直球火の玉ストレートを全力でぶん投げてみると、最初はまさか俺が本当にフランにそのような事を言うとは思っていなかったのか金魚のようにパクパクと口を動かした後、返事をしないといけないという事は理解したのか普段の口調で話し始めるのだが、徐々に顔が真っ赤になっていき、最後方はいつもの勢いが無くなってしまっていた。


「は、恥ずかしいですわっ。 だってこんな事言われたの初めてなんですもの」


 そして彼女は俺に聞こえていないと思っているのだろうが、小声でヒソヒソと呟くもバッチリ俺は聞こえている。


 彼女は小声で呟いているつもりなのだろうが、所詮はまだ六歳、ダダ漏れである。


 うん、かわいいなからかいがいがあるなと思わず思ってしまう。

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