第146話 つまみ食いは禁止です

 アウトランダーとの一件が解決した、翌日の昼休み。

 俺は柏木さんと一緒に辻堂高校の音楽室で千絵理のピアノ演奏を聞いていた。


 ~~~♪♪♪


 日に照らされた千絵理の綺麗な指がピアノの鍵盤の上を滑るように踊る。

 千絵理の優しい気持ちが音に込められているような心地よいメロディー。

 聞いているだけで心が軽くなっていくようだった。 


 ピアノを弾き終えると、千絵理はペコリと頭を下げる。

 聴いていた他の生徒たちと一緒に、俺と柏木さんは笑顔で拍手を送った。


       ◇◇◇


「千絵理、凄く素敵な演奏だったよ!」

「あぁ、蓮司が聞き惚れるのも納得だな」


 中庭のベンチに移動した俺は柏木さんと千絵理に両隣を挟まれる形で座っていた。

 演奏の感想を伝えると、千絵理は嬉しそうに身体を揺らす。


「ありがとうございます! まさか流伽だけじゃなくて"お姉様"までウチの高校に編入されるなんて、ビックリしすぎて心臓が飛び出るかと思いました!」


 千絵理は柏木さんを『お姉さま』と呼んでいる。

 2人は幼い頃からの知り合いで、千絵理のお母さんが亡くなってからずっと支えてくれたのが柏木さんらしい。

 話をする度に目を輝かせて、物凄く慕っているのが伺える。


 そんな柏木さんは綺麗な長い黒髪を揺らして、千絵理に微笑みかける。


「ふふっ、千絵理を驚かせたくて黙っていたんだ。でも、まさか私の方が驚かされるなんてな……。悪い不良たちに捕まって、怪我などはしてないか?」

「はい! 流伽がすぐに助けに来てくれたから……」

「あはは、それに心強過ぎる味方もいましたからね」


 アウトランダーは間抜けな事に、千絵理を攫うところからカメラを回していた上にそのカメラを置いて逃げて行っていた。

 このことや周囲の証言が決め手となり、現在は警察に任せている。

 周囲の不良チーマー達の間では、『悪事を働くと、ゴリラみたいな怪力の化け物じみた強さの男に襲われる』との噂が流れているらしい。

 あの場から逃げ出したアウトランダーの構成員が周囲に言いふらして回ったんだろう。

 そんなに怖がられていると思うと、少し複雑な気持ちだけど。


「千絵理は毎日お昼にピアノを弾いてるの?」

「うん。ほら、私のお父様がイジメを無くしてくれたけどそれでも独りぼっちの子っているじゃない? だから居場所を作ってあげたかったの」


 柏木さんは千絵理の話を聞いて、感嘆のため息を吐く。


「千絵理がとても立派になってくれて、私も鼻が高いよ」

「お、お姉さまに比べたら、私なんて全然ですっ!」

「いいや、大したものだ。さてせっかくだ、ここで一緒にご飯を食べよう」

「はい、柏木さんの分のお弁当です!」

「よしよし、私はコレを食べる為に学校に来ていると言っても過言じゃないな」

「あはは、大げさですよ!」


 俺が作った柏木さんの分のお弁当箱を渡す。

 ちなみに、柏木さんはこう見えて食いしん坊なのでお弁当箱も俺の分より大きい。

 柏木さんが待ちきれない様子でフタを開くと、それを見て千絵理はゴクリと唾を飲んだ。


「流伽のお料理……相変わらず凄いわね」

「アメリカでも料理を学んだんだー。そうだ! 千絵理、またお弁当を交換しようよ! 千絵理の料理が食べたいな!」

「えぇ!? い、いや……でも今の私なら……!」


 千絵理は何やら強く心の中で葛藤した様子をみせた後、思い切った様子で自分のお弁当を取り出した。


「分かったわ! 受けて立つわ!」

「そんなに身構えなくても……」


 妙に気合が入った様子の千絵理と俺のお弁当を交換する。

 フタを開いてみると、1年前とはうって変わって千絵理が全部を一人で一生懸命作った様子が伺えた。


「じゃあ、いただくね!」

「ど、どうぞっ!」


 千絵理にじーっと見つめられながらお弁当の卵焼きに手を付ける。

 1年前は焦がしちゃってたけれど、今日のは綺麗に焼きあがっていた。

 ただ、そんなに見られてると少し食べづらいんだけど……。


「――っ! 美味しい! 千絵理、すっごく美味しいよ!」

「本当に!? 良かったぁ~」


 千絵理は心の底から安心した様子でため息を吐く。

 すると、食べるのが大好きな柏木さんも興味を示す。


「千絵理は料理も出来るのか、流石だな」

「練習したんです! 沢山っ! 『美味しい』って言ってもらいたくて……」

「どれどれ? 失礼するぞ」


 そう言いながら、柏木さんは俺が持っている千絵理のお弁当からオカズを2,3品口に運んだ。


「ちょっと、柏木さん。勝手につまみ食いしないでくださいよ、言えば分けてあげますから!」

「何を言う。勝手に奪うのがつまみ食いの醍醐味だろう。うん、確かに美味しいな!」


 満足そうな表情で無邪気に笑う柏木さん。

 こっちに来てから、普通の女子高生みたいに年相応に笑うことが多くなった気がする。

 ようやく、柏木さんも俺と一緒に青春を味わうことが出来ているのかもしれない。


 そんな柏木さんは、釘を刺すように千絵理に微笑みかける。


「だが、千絵理よ。"私のモノ"をつまみ食いしようとしたら承知しないぞ?」


 そう言いながら、俺の肩に手を載せる柏木さん。

 千絵理はそんな様子を見て、顔を真っ赤にする。


「だ、大丈夫です! お姉さま! お姉さまのモノをつまみ食いなんてしませんから! 絶対にっ!」

「あはは、冗談だよ。千絵理、山本とはこれからも仲良くしてやってくれ」


 柏木さんは笑い、千絵理は頬に一筋の汗を垂らしながら笑う。


(全く、柏木さんの食い意地は凄いなぁ……)


 俺は能天気にそんなことを考えていた。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

 ちゃんと楽しませられているでしょうか?

 少し不安ですが、引き続き頑張ります!

あと4話で完結です!


 ☆評価があともう少しで目標の『1万』に到達します!

 もし、まだ評価を入れずに読んでいる方がいらっしゃいましたらお手数ですが何卒よろしくお願いいたします…!

 <(_ _)>ペコッ

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