第12話 君と交わした約束。その2
(俺の病気について……?)
口火を切ると、蓮司さんは続ける。
「君のその身体の腫れ具合……『
「え!?
蓮司さんの言葉に千絵理は驚いていた。
俺の身体が病気だなんて言ったことはないからクラスの誰も知らないだろう。
俺が病気だと知られると、妹の
蓮司さんは千絵理と共に向かいのソファーに腰かけた。
「失礼、病気のことは隠していたのか」
「いえ、お二人にでしたら知られても問題ありません」
「それなら良かった。ここからは提案なんだが……私は医学界ではちょっとした有名人でね。アメリカの医者にもツテがあるんだ」
お手伝いさんが僕たちの前のテーブルにお菓子と紅茶を置き、蓮司さんは話を続ける。
「君さえよければ、『
「――え?」
突然の振って湧いた話に俺は戸惑う。
「アメリカで『
「え? え?」
まだ理解が追いついていない俺を置いてけぼりに、蓮司さんは頭を下げた。
「もちろん、君の意思を尊重する。新薬だから強い副作用が出ないとも限らないからね。だが、できればお願いしたい」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺は少し考えて頭を整理した後に返答した。
「俺に都合が良すぎます! かかる費用だって、かなりの額になるはずですし……」
「先ほども言ったが、君は被験者なんだ。これくらいの支援は当たり前さ」
「そんなはずは……」
「君は娘が成長するキッカケをくれた友人だ、それは何物にも代えがたい。それに医者として、君の身体も治って欲しいと思っている」
蓮司さんの瞳からは真っすぐな想いが伝わった。
俺もいっぱい勉強してこんな立派な大人になりたい。
そんな風に思った。
「……じゃあ、分かりました。お金は僕が働いて後から返しますから、建て替えていただく……ということでどうでしょうか?」
「ふむ、強情だな。ますます気に入った。それでいいだろう。返す当てがなかったら千絵理の世話係にでもなってもらおうか、重労働だから金額は弾むぞ」
「――ちょっと、お父様? どういう意味です?」
千絵理は蓮司さんを睨んだが、蓮司さんは愉快そうに笑っている。
どうやら親子関係は良好なようだ。
「妹とかとも相談しますが、治療については前向きに考えさせていただきます」
「そうか、よかった! 飛行機や受け入れ先の準備はすぐに整えさせてもらうから、意思が固まったら連絡をくれたまえ」
蓮司さんはそう言うと、俺に携帯の電話番号を渡してくれた。
「じゃあ、後は若いお二人で」
「ちょっと、お父様? 変な言い方はやめてくれる?」
蓮司さんはすぐに動いてくれるつもりなのだろう。
電話を取り出して誰かに英語で話しながら、やや足早に部屋を出て行った。
二人きりになると、千絵理は俺に語りかける。
「私からも治療を受けることオススメするわ。お父様の提案はきっと流伽の為になる」
「う~ん、でもなぁ」
「あら? 何を迷っているの?」
「ほら、俺が居なくなったら別の奴が標的になっちまうかもしれないだろ? 今の状態だと千絵理が俺の代わりに学校でイジメられちゃうんじゃないかなって……」
俺がそう言うと、千絵理は噴き出した。
「ぷっ、あはは! なにそれ、そんなことを考えていたの?」
「わ、笑うなよ! 俺は真剣だ!」
「あはは! じゃあ、その時はさ――」
千絵理は優しく微笑みながら俺の瞳を真っすぐに見つめる。
「流伽が私を助けに来てよ」
「――え?」
「流伽が助けに来てくれるなら、私は待っているわ」
千絵理はそう言うと、再びクスクスと笑った。
「ふふふ、なんて冗談。大丈夫よ、私は強いお母様の子だもの。もう簡単にはイジメられたりなんてしないわ。心配しないで行ってらっしゃい」
冗談だとは分かっていても、千恵里がイジメを受けている状況を想像すると俺は笑えなかった。
そのせいで、俺はつい本気の声色で千絵理に返答をしてしまっていた。
「――約束するよ。その時は必ず千絵理を助けに行く」
「……へ?」
俺の一言のせいで、まるで時間が止まったかのように部屋の中が静まり返ってしまった。
これは……黒歴史確定だ。
とんでもない空気に千絵理も狼狽える。
「だ、だから冗談だってばぁ……! あはは! じゃ、じゃあ私もお風呂に入らせてもらうから、流伽は服が乾いたら着替えて帰ってね! き、気を付けて!」
俺が恥ずかしい事を言ったせいだろう。
共感性羞恥で顔を赤くしてしまった千絵理は逃げるようにして部屋を出て行った。
(やっちまったぁ~!!!)
全てをキッチンから見ていたらしいお手伝いさんが「とっても素敵でしたよ!」なんてフォローをしてくれたが、その優しさが逆に辛い。
乾燥機のおかげでホカホカに温まった服を着た俺は、多少なりとも冷え切った心を温めつつ家へと帰った。
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