第12話 私的な謁見 後編

「その魔紙と魔道具とはどうやって作るのだ? 必要な材料は分かるか?」

「はい。魔紙はエルノタという名前の木の幹から作られる紙のことで、その紙を自分の魔力を溶け込ませた魔力水に漬け込み、完全に乾いたら完成です。その紙に先ほど宙に描いたように指先に魔力を集めて魔法陣を描けば、紙が破れない限りは何度も使えます」


 最初の頃は魔紙を作り出しては魔法陣を描くのに失敗して、何枚紙を無駄にしたのか思い出せないほどだ。


「魔道具は魔鉱石というものに魔法陣を刻み込み、その刻み込んだ部分にミルネリスという花の蜜を流し込んで作られます。そうすることで、誰の魔力でも魔法陣が発動するようになるそうです。魔鉱石の大きさや形などはどんなものでも大丈夫です」


 このミルネリスって花の蜜が大量に手に入らなくて、一時は魔道具がかなりの高値になったんだ。でも結局はミルネリスが栽培可能だとなってそれも落ち着いたんだけど。


「エルノタとミルネリスはこの街の周りにある森にもあるな。ただ魔鉱石は聞いたことがないのだが……」


 え、魔鉱石がないの!? 一番どこにでもある素材なのに。その辺を掘ればいくらでも出てくるよね?


「魔鉱石はとても綺麗な青い鉱石なのですが」

「綺麗な青い鉱石……もしかして、青石のことか?」


 陛下のその言葉に従者が一歩前に出た。そして首から下げていたペンダントを外して見せてくれる。


「こちらは青石で作られております」


 そのペンダントトップは、まさに魔鉱石だった。


「それです。それは魔鉱石というらしいです」

「そうだったのか……では材料は全て揃うようだな」


 これで魔紙も魔道具も作れることが分かったし、どっちも量産したい。でも俺だけじゃ限度があるから、まずは魔法陣のことをこの国の人に教えるところからかな。先は長いな……


「フィリップ、この他にも得た知識はあるのか?」

「はい。数日では話しきれないほどです」

「そうか……ではフィリップに提案がある。まだ成人もしていないから断ってくれても構わないが、もし良ければ宰相補佐となってくれないだろうか?」


 宰相補佐って……かなり地位高いよね? え、俺で良いの? 


「私はまだ十歳で、宰相補佐など務まるとは思えないのですが……」


 実際は二十七歳まで生きた知識もあるからそこそこは頑張れるだろうけど、今の俺は十歳だから。まだ成長期が来てないのかそこまで体も大きくないし。


「こうして話している限り務まると思うぞ。それに私の息子もフィリップほどの歳の頃から徐々に仕事を手伝わせている」

「そうなのですね」


 確か第一王子殿下が俺より五つ年上だった筈だ。そして第二王子殿下は俺より二つ上で騎士学校に通ってるんだったな。あと王女殿下がお二人と、第三王子殿下がいらっしゃるという話を聞いたことがある。

 でもどのお方ともほとんどお会いしたことがなくて、フィリップの記憶にはこの五人のことはあまり残ってない。

 

 この世界ではとにかく皆が必死に働かないと生きていくのが難しいから、子供でも遊ぶということが少ないんだろうな。


「宰相はとても信頼できる男で有能な人物だ。宰相補佐となればたくさん学ぶことができるだろう。どうだ、引き受けてはもらえないだろうか」

「……前向きに考えたいとは思っているのですが、私が宰相補佐を拝命した暁にはどのような仕事をするのでしょうか。今お話しした知識を広めるのですか?」

「気が急いてしまってその説明をしていなかったな。すまない。フィリップが言うように、宰相補佐となってその知識を国のために役立ててもらいたいと思っている」


 この知識を国のために広めるのに否やはない。なんなら俺から広めさせて欲しいってお願いしたいぐらいだ。だから後の問題は……俺が知識を得たという事実がどう影響するのか、そこだけかな。


「その場合は私がティータビア様から知識を得たと公表するのでしょうか?」

「そうだな。知識の出所は必ず聞かれるだろうし、ティータビア様のお力だろうと宣言する」

「……それを公表した場合、どのような事態が予想されますか?」

「まずは教会の一部がフィリップを寄越せと言ってくるだろうな。ただティータビア教の大司教はとても聡明なお方であり、ティータビア様から知識を授かったフィリップの意に背くことはしないはずだ。だから教会へはたまに礼拝へ行くことになる程度だろう。それよりも厄介なのはやはり一部の貴族達だ。ティータビア様から選ばれたフィリップこそ次代の王にふさわしいと言い始めるだろう。そしてあわよくば自分も利益を得ようと画策してくる」


 意外にも教会は健全に運営されてるんだ。それならあまり心配はいらなそうだね。そしてやっぱり問題は貴族なのか……どの世界でも馬鹿な貴族っているんだな。


「しかし宰相補佐という立場に就けば王家を支えていくという意思表示にもなるので、煩わしい声を少しは減らせるだろう。さらに王太子であるファビアンと共に執務をすることで、次代の王とも懇意にしているという意思表示にもなる」


 第一王子殿下は既に立太子してるのか。それなら王位継承の問題もほとんどないし平和で良いね。俺がその平和を乱さないように気をつけよう。そしてここは宰相補佐を受けるべきかな。


「説明していただきありがとうございます。では宰相補佐の任、謹んでお受けいたします」

「本当か! フィリップ、これからよろしく頼む。早速ファビアンとも顔合わせをしなければいけないな」

「よろしくお願いいたします」


 これで宰相補佐という立場でこの国の改革ができそうだ。予想以上にスムーズに話が進んでるよね。やっぱりさすが王弟の息子で公爵家嫡男だ。身分って強い。


「後は宰相も紹介しなければ。フィリップは宰相が誰だか知っているか?」

「確か……クライナート侯爵様かと」

「そうだ。ダスティンにも話を通しておく。……では仕事はいつからにするか」

「兄上、フィリップはまだ十歳なんですから、そこを考慮した上で仕事の予定を立ててください。兄上の基準で仕事をするのは無理です」


 今まであまり口を挟まなかった父上が口を開いた。その言葉が俺を心配したものというのが凄く嬉しい。


「父上ありがとうございます」

「当然だ。無理しすぎて体を壊してしまっては、後悔してもしきれないからな。できる範囲で少しずつやれば良い。ティータビア様もそのぐらいは許してくださるだろう」

「はい。気をつけます」


 俺達がそんな会話をしている間にも陛下は従者の方と話し合い、いくつかの紙を確認して顔を上げた。


 そういえばこの国の紙ってあまり整ってないし質も悪いよね。できれば紙の改良もやりたいけど……とりあえずは後回しかな。質が低くても紙はあるんだからこれを使ってれば良いだろう。他に手をつけるべきところがありすぎて、紙の改良にまで手が回りそうもない。


「ではフィリップ。ちょうど二日後から月が変わるのでその日から働いてもらいたい。そしてまだ子供ということに考慮をして、週に一度は休みとしよう」


 この国は前の世界と同じで一週間は五日だから、五日に一度は休めるってことだ。それならこの小さな体でも大丈夫だろう。


「それから体調が悪い時などは週に一度でなくとも休んで構わないので、そこはしっかりと申告するように」

「かしこまりました」

「ではその予定でこれからよろしく頼む。後は働きながら臨機応変に調節していこう」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いいたします」


 そこまでで話が一区切りすると、陛下は俺に向かって優しく微笑んでくれた。うん、微笑むと凄く優しい顔になる。やっぱり父上と兄弟だね。


 それからは俺の給金についてや職場の雰囲気などについて話をして、その日はそのまま王宮を後にした。二日後から仕事をするのが楽しみだ。




〜あとがき〜

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