第14話 スパイ777号の冒険

 とらきちの弱みはなかなかみつかりません。

騎士団の仲間は、一人またひとりと倒れていきました。

あるものは大雨で流され、あるものはカラスのエサになり、あるものは溝に落っこちて大切な命を失いました。女に騙されて、というのもありました。

もちろん、情報を得ようと近づいて返り討ちにあったのです。

道々に屍をさらし、騎士団は友の累々たる屍を乗り越えて進んでいきました。


 とらきちの弱みは、ぜんぜんみつかりません。

その間にも、とらきちはどんどんねずみを食べ続けて、どんどんどんどん巨大になりました。

おなかがすくのもすごいもので、いっぺんに、ねずみを500匹も食べちゃうくらいです。なにしろとらきちなものですから。


 とらきちの弱みは、まだみつかりません。

騎士団からの連絡は途絶え、いよいよ、ねずみ国も滅亡かと思われた、その時でした。

ねずみ国から遠くはなれた土地で、スパイねずみ第777号が、あの、くさいくさいにおいのする学校を見つけたのです。

くさいくさいにおいがとらきちのにおいだと、第777号はすぐに気付きました。

「おれさまだって、だてに777号を名乗っているわけじゃないのだぜ。これは、なんと言っても殺しのライセンスだからな。」

なんて言ったかどうかは不明ですが、実は、自分がべべたの777号だということにずっときまりの悪い、残念な思いをしていたのです。。

…なんでべべたなん?そりゃ、少し線の細い所はあるけどべべたって…ちょっとひどすぎるよ。おいらよりへたれなのに、730号とかさ。しかしいっちばんひどいのは、1号だよな。


1号というのはやはり、最大級名誉な感じがしますもので、ねずみの騎士たちは誰もが1号になりたがり、こぞって寄付をしたものでした。1号がどんな寄付をしたのか、本人と担当しか知りえませんが、受け取りのサインがしにくいというか、できないくらいのものではあったようです。ま、差し出す方も差し出す方なら、受け取る方も受け取る方です。せっかく差し上げようというブツを断るのも大人げないといいましょうか、そんなところです。ロンダリングの世界の闇は深く、はるかマリネラという国に地下通路でつながってるらしいのですが、定かではありません。


777号は確かに、少し蒲柳の質ではありましたが、決して根性なしではありませんでしたし、誰よりも自分がそのことを理解していました。自分のことについてよく理解する、これほど心強いことはありません。その意味では1号より上位にきてもなんら不思議ではないのです。

国家が風雲急を告げる事態にこのありさまでは、はじめから先が見えるというもの。でもってこの有様です。可哀そうなのは死んでいった騎士たちです。


 777号は、777匹のスパイねずみの中で自分がもう最後の生き残りとなったこと、騎士団の名誉は今や自分ひとりにかかっていることなど、すべてわかっていました。もはや777号は、巷のうわさでは「伝説の第777号」となっていたのです。


 辺りはとらきちのにおいでプンプンしています。

第777号はたった一人、いやさ一匹で進軍します。それも匍匐前進です。誰もいないので匍匐前進する必要はないのですが、ありえないことが起きるのが世の常です。まあ、そもそもねずみは小さいものですし、かなりよれよれになってもいましたので、傍目にはちょっとかがんだようにしか見えませんでしたけれど。


 とらきちのくさいくさいおしっこのにおいで頭が割れそうでした。でも、これも仲間のみんなのためだと、息を止めたりゆっくり呼吸したりし、「明鏡止水明鏡止水」とか「六根清浄六根清浄」とか、小さく唱えながら、第777号はがんばりました。

「心頭滅却すればとらきちのおしっこもまたかぐわし」です。

息をとめすぎてもうだめか、と思ったとき、向こうから、小さいねこが6匹、やってくるのが見えました。

 第777号は、あわてましたが、ここぞと気配を消しました。最後の力をふりしぼって、結界を張りました。これで、ねこからは第777号は絶対にみえません。

一生に一回使えるか使えないかの、命をかけた大技です。


「とらきちは、どこへいったんだろうねえ。」

「7の段が大きらいだったから、もう戻ってこないよ。」

「そうだね。7の段を言うとき、真っ青になって震えていたって、先生が言ってたよ。」

「7の段が言えなくて泣いてたって、あたし聞いたわ。」

「おいらの先生も言ってた。」

「ちがうよ、ひげをぷるぷるさせたんだよ。」

「ちがうわ、目をぐるぐるさせたのよ。」

スパイねずみは、これはいいことを聞いたと思いました。

この情報は決定的だ。直感的にそう判断した第777号は、走って走って走り続けて母国に帰りつきました。そして夕陽が沈もうとするその瞬間、まさに国境を超えたのです。


※第777号、いい仕事ができてよかった。

ではまた明日!

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