第13話 文化の継承と消滅に関する考察
とらきちはとらにゃあごでご機嫌でしたが、ご機嫌でない人がいました。
ねずみランドの元・校長先生です。
ネズミ算でねずみはどんどん増えるのですが、とらきちがどんどん食べてしまうのです。このままでは、学校の経営にも差しさわりがでます。
いまや、「ごちそうランド」でしたけどね。
ネズミの数はどんどん減っていきました。
いよいよ、このままでは学校の灯が消えてしまいます。
学校がなくなるということは、その地域の文化が消滅するも同じだ、というのが校長先生の考えでした。
校長先生によれば、文化は継承されてはじめて、文化としての価値を維持できるのだそうです。
ねずみとしての種の持つ意義が失われたら、再生のしようがありません。再生されたとしても、それは模倣にすぎず、純粋な意味での価値は失われてしまっている。校長先生のお考えは、そういう感じでした。
「これは困った。とらきちをやっつけよう!」
校長先生は、一命をかけてもとらきちをやっつけなければならないと思いました。
でも、とらきちはおおきなねこです。どうやって、やっつけることができるでしょう?
志願してとらきちを退治にいったねずみは、みんなとらきちに食べられてしまいました。
幾晩も幾晩も、校長先生は考えました。ちいさい脳みそをしぼれるだけしぼって、考えに考えました。あんまりしぼりすぎて座布団がぐっしょり濡れるほどでした。
「よし、これだ。もうこれしかない。」
とらきちの弱点を調べるために、777匹のスパイねずみが放たれて、ねこの国へ偵察に出かけました。
誰が考えても、それは全く途方もない旅です。ねこの国がどこにあるかなんて、ねずみが知るはずもありません。たとえわかったにしても、どうやって入国するのでしょう?
あな一つあいてない、高い高い塀があったら?
やっとでみつけた小さいあなの向こうにネズミ捕り器があったら?
ハーメルンの笛の音がきこえてきたら?
考えれば考えるほど、思考はどつぼにはまります。ほんと、小さい脳みそなものですし。よし、これはでたとこ勝負でいくっきゃない。
「幸運を!」
ねずみたちはしっぽを結んで誓いをたてました。騎士の誓いです。これから先は、この誓いが最重要優先事項となり、すべての行動はこの誓いに規定されます。
勇敢な777匹のねずみたちに、幸運あれ!
ねずみランド、いやさ今やねずみ国と改名した我が国の命運をになう騎士に、幸運あれ!
元校長先生、いやさ大統領は騎士団の全員が見えなくなるまで直立し、そのしっぽをピン!とたてていつまでも見送りました。あまりに長い時間直立したものですから、体が固まってしまって、溶けるのに時間がかかり、それはそれでかなり難儀をしたということです。
ここだけの話、大統領は後期高齢者と言ってもいいお年頃なんです。実はね。
本人は隠していますが、若かったら、しっぽなんて固まったりしません。
本人以外はみーんな知ってるのに。
特にお教えしますと、この騎士団の777という数は、偶然の上にも偶然が重なった最上の数でした。ねこにとっても、ねずみにとっても、です。偶然というものは、時々、大きなプレゼントを与えてくれるものです。
特に、無私のものには、ね。
※それではまた、明日22時きっかりに。
タイガースに幸あれ!
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