カズヤ×部活動

 超反抗期で2年くらい会話のない次男カズヤ(中3)。

 茶の間でテレビを見ているところに行くと消してすぐに出ていく。

「○○食べる?」

「いらない」

「○○買ってやろうか?」

「いらない」

「○○行く?」

「行かない」

 最低限の挨拶のほかは、言うことは聞かない、頼み事も言って来ない。それが学校の保護者面談に行けば、授業中は積極的に質問したり、体育大会を盛り上げたり評価が悪くないらしい?・・・演技しやがってコンチクショウ・・・。

 そのカズヤが泣いた。7月、バドミントンの県中学校選手権、個人ダブルスで優勝、8月上旬、全中※1  をかけた北信越大会、その準々決勝でフルセットにもつれ込んで負けた。試合後、パートナーはみんなの所にもどってきたのに、カズヤは来ない。試合はお昼過ぎに終わったのに、家には夕方6時ころ泣きながら帰ってきたと長男が言っていた。

 例年、8月下旬に3年生の保護者が企画するバーベキューがある。学校の部活動だけでは強くなれない。夜、週3回ほど地元のバドミントンクラブに参加し、高校生、社会人の速いスマッシや、巧みな駆け引きに叩きのめされながら少しづつ成長していく。大会が終わって1週間、その相手をしてくれた地元クラブへの慰労を兼ねたバーベキューに参加しないと友達に宣言しているらしい。

 嫁と相談し、カズヤを呼んだ。

 「行かないよ、オレ。殴りたいなら殴れば!?」

 好戦的な構えの上、大人の挨拶が長いとか、退屈だとか。でも、そんなのは理由にならない。正論×開き直りが繰り返され、道理×言葉尻の攻防が続く。テキは席を立とうとするが曖昧にはできない。…粘る。ついに・・・

「県の強化コーチが『レシーブ上手になったね』って言ってくれたよね。それって、夜の練習で何年間も高校生、社会人の先輩が真剣に相手をしてくれたからじゃない?その人たちにきちんとお礼をいう意味でも・・・」

 その時、硬い殻が割れた。

「でも勝てなかった!・・・あんなに練習したのに・・・・。みんな・・・全中期待して・・・全中・・・・行きたかった・・・・・・・・・それなのに・・・・・・・・・・・・・・・もう思い出したくない・・・・もう・・会いたくない・・・・・。忘れたい・・・・たい・・・」

 自分の頭にありったけの力で爪を立て、うずくまる。嗚咽でも咆哮でもない、何かに押しつぶされ、きしみをあげながらあふれだす葛藤。

 以前から「高校に行ってもバドミントンはしない・・・200%しない!」と明言していた。県選手権優勝の賞状は北信越大会の前にゴミ箱に捨てあった。保護者会に行けば廊下に、1学期の目標『燃えつきる!』と貼ってある。『勝った人はその涙を練習で流しているんだよ』と思ったが喉の出口で詰まる。

 いつも不機嫌で、毎日のように「出ていけ!」と言いたくなる時があるけれど・・・義理を欠くことは褒められたことではないけれど・・・そこまで自分を追い込んで・・・少しずつ成長している・・・。

 一度も「オメデトウ」とか「ガンバッタネ」とか言ったことはない。いつも拒否オーラが出ているし、二人の間では白々しくて口にできない。

 まだ半年残っているが、この夜が親にとってはカズヤの卒業式になったのかなと思う。


 こんな試練が与えられたことを天に感謝したい。

                             

                                 2011年9月


※1 全中

全国中学校体育大会

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る