第47話 属性調べ

 ポティートへの移動中、『テンケン』のジジイに槍の修行をつけてもらえることになった。修行をつけてもらう以上ジジイなんて呼び方は失礼だが、まあすぐに切り替えるのも難しいのでその内ゆっくり切り替えて行こうと思ってる。


 移動はスムーズに進んでいる。トンネルもスキルで作っているので崩落の心配は無いし、照明もちゃんと付いているので明るい。


「じっ、師匠、槍の修行をしてもらうのは良いけど、俺槍なんて持って無いですよ」

「それは心配いらん。予めさっきの町で買っておいたからな。ほれ」


 さっきの町というのは『ランドシータウン』の事だろうか、いつの間にそんな買い物をしたんだ? そんな事を考えていると、師匠は腰に着けていたポーチを何やらごそごそし始めた。そして、何かをつかんだかと思うと思いっきり腕を引き抜く。


「うわっ、小さいポーチから長い棒が出て来た!?」

「なんじゃお前、マジカルバッグを見るのは初めてか? まあ、こりゃ貴重品だからな、そんなもんか」

「マジカルバッグ? 魔法が掛かってるバッグってことですか?」

「そんなようなもんじゃな。この中は領域拡大呪文が掛かっておってな、ちょっとした物置ぐらいの広さがあるのだ」


 スゲーな、ファンタジー小説なんかではよくあるけど、まさか本当にそんなものが見れるとは。あれ? でもこんなものがあるんだったら馬車で酒を運んだりしなくてもいいのでは?


「さて、この槍じゃが、まず言っておくとこいつは本物の槍ではない。あの町の土産物屋で売っていたトライデントのレプリカじゃ」

「トライデントか、三つ又だし実際には使いにくそうな槍ですね」

「どうじゃろうな、実際に使ってみんと分からんぞ。では早速突きの訓練からじゃ。槍に大事なのは踏み込みと腕の力を合わせることにある。これをこうしてスムーズに流れるように行う事で、槍の先端に最大限の力を発生させるんじゃ。ほれ、やってみぃ」

「はい!」


 槍を持ち、構えて突き出す、それを師匠に指導されながら繰り返す。結局何をやるにしてもまずは基本だ。この2時間で簡単に技を覚えられるとは思っていないが、槍の基本動作の初歩の初歩ぐらいは出来るようになっておきたい。


「よし、だいぶ様になって来たな。お前は槍の扱いは中々よさそうじゃ。では技を一つ授けようかの」

「えっ、もうですか? もっと基本動作を学んだ方が良いのでは?」

「それは追々だな。今はこの基本動作1つで出来る技を1つだけでも覚えておいた方がええじゃろ。状況が状況じゃからな」

「確かに使える技が1つあるのと無いのとじゃ大違いですが、こんな短時間で俺に出来ますかね?」

「まあ一番簡単な技じゃからな。問題ないだろう」


 一番簡単という事は一番弱いという事だろうか。と言うかこの人、刀も槍も教えられるなんてどんな人生送ってんだ? 何か他にも出来そうだし。


「まず技を教えるに当たってやらねばならぬことがある。それは、お前の属性を調べる事じゃ」

「属性?」

「そう、属性じゃ。アリスの技を見たじゃろ? あれはアリスの体内にある魔元素、その属性によって発生させている魔装現象で発現させておるのだ」


 魔元素? 魔装現象? 聞いたこともない単語が色々と出て来て混乱して来た。

 確かにアリスの技は派手に燃えたり爆発したりしていたのでただの剣技ではないと思っていたが、それが魔元素とか魔装現象によって出されてたってことか? じゃあれは魔法?


「魔元素とはこの世に生きるありとあらゆる者の中に存在するものであり、主に魔法を使う際に使用されるものじゃ。そしてこれを、我々武人は古来よりこれを技として使いこなして来た。この魔元素を用い剣や槍や果ては己の体にまとう事、それすなわち魔装と呼ばれ、これによって強大な獣どもと戦ってきたのじゃ」

「なるほど、ではその魔元素を使って上手く魔装現象を起こすことが出来れば、それが技になると?」

「そいう言う事じゃ。お前も『ムー』と戦った時にアリスの剣術奥義を見たと思うが、魔装で出来ることは本来あんな程度のものではない」

「なっ、師匠! あんな程度とは何ですか! あんな程度とは!」


 師匠にあんな程度の技と言われて黙って聞いていたアリスが抗議している。だが、師匠はそれに対して謝ったりすることもなく話を続けた。


「お前たち、あの後ムーがどうなったか知っておるか?」

「? あの後も何も、ムーは湖の底に沈んで死んだはずですが」

「実はな、お前たちが町を去った後すぐに『ジーン』の騎士たちが湖の様子を見に行ったそうだ。ムーが沈んだ湖の様子を見るためにな。だが湖に到着した騎士たちが見た物は予想を大きく超えるものじゃった。そこには湖のほとりで真っ二つになって死んでいるムーの死骸があったのじゃ」

「なっ!? で、ではムーはあの後も……」

「死んではおらんかった。そしてそのまま再び町を襲いに行こうとしたところで何者かに切られて死んだんじゃ。それもたった一度の斬撃でな」

「そ、それも魔装の力だと?」

「そう言う事じゃな。まあわしは誰がやったのか大体検討はついたがの、あやつも成長したもんじゃ」


 あのアリスの技でも隊長が居なければ穴を開けることが出来なかった、それを一撃で真っ二つにするなんて、どんな技を使ったのか想像もつかない。化け物かそいつ。


 しかしながら、その可能性を知れたのは良かった。俺も槍で技を磨けばそれが出来るかもしれないというのだから、俄然やる気が出てくる。

 いつかまたあの巨大なムーのような化け物に出会った時、その体を貫通するほどの技を使えるようになる。これもまた俺の目標に追加だ。


「話はここらでええじゃろう、早速お前の属性を調べるぞ。まずはこれを見よ」


 師匠が見せて来たのは、手のひらに収まるぐらいの水晶の玉のような物だった。

 しかしよく見ると、これは水晶ではなくガラス玉の中に水が入っているようにも見える。


「師匠、これは?」

「これは龍水晶といって、龍の棲むごく限られた地域からしか産出されない貴重なものだ。中には龍水が溜まっておって、触ると属性ごとに様々な変化が起こる。例えばわしの場合属性は地と水じゃから、こうして半分が土色に濁り、半分は澄んだ透明の水になる」

「おおっ!」

「アリスの場合は半分の水がまるで海底火山の上にあるように真っ赤に変色し沸騰、半分は水が小規模の爆発を起こし水面から水柱が上がる」


 師匠がアリスに持たせると、龍水晶の中で何本もの小さな水柱が上がり、その隣ではもうもうと白い煙が上がっていた。これで割れないとはとてつもなく頑丈な水晶らしい。


「ではお前も持ってみるといい」

「はい!」


 アリスから龍水晶を受け取った師匠が今度は俺の方に差し出してくる。俺はそれを水を掬うように手を置いて受け取った。


 俺が初めてだからなのか何なのか2人と違って1、2秒間は何の変化も無かった。だがそれを過ぎると徐々に変化が始まり、そして……。


「ほうこれは、半分は氷、半分は雷か、中々ええ属性を受け継いでおるのぉ。槍にもピッタリの属性じゃ。しかし、これは雷属性の方がちと強いようだな」


 雷属性。あの時、俺たちが憧れたあの冒険者と同じ雷。

 あの時持っていた夢や希望は全て失くしてしまったけど、あの憧れはまだ心の奥に少しだけ残っていた。そして今、俺は自分の属性を見てあの時の事を思い出す。

 俺はあの人のように冒険者にはならなかったけど、なんだか憧れた存在に一歩近づけたような気がする。


 あの時の冒険者が今どこで何をしているのか分からないが、俺と同じ様な凄い奴になるかもなと言ってくれたのは今でも忘れられない思い出だ。


 これから俺があの人の様になれるかは、俺の頑張り次第。いつかあの人と再会した時に、俺もこれだけ強くなりましたとそう言って笑えるようになりたい。

 青い空の中にゆっくりと動く雲を見ながら俺はそう思った。

 

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