第32話 絶望の防衛戦①「開戦」
何とか最短時間で『ビーア』に到着することが出来た。
今の時間ならまだ騎士達は眠っているだろうが、起きている者も何人かはいるはずだ。
その証拠に、光る道を造りながらやって来た俺を驚愕の表情で見ている騎士が村の門の前に1人居る。
「すみません、貴方はポティートから来られた騎士の方で間違いないでしょうか?」
「は、はい、そうですが。貴方は? それにあれは一体……?」
「俺は最近伯爵様に雇われる事になったアレンと言います。アレの事は後で説明しますので、急ぎ貴方の隊の隊長さんの所に案内していただけませんか? ウルフマンの件で急用なんです」
「貴方がアレン殿だったんですね! 承知しました! すぐに隊長の下にご案内します!」
俺の名前を聞いてやけにテンションが高くなった騎士を変に思いながらも、それにを聞いている時間が無いのでスルーしてついて行く。すると村のはずれの一角に設置された大きなテントがあった。前には無かったものだ。
まず、ここまで案内してくれた騎士が中に入ると、その直後「中に入って来てくれ」とテントの中から声が掛かる。
「君がアレン君か、伯爵様から話は聞いている。それでウルフマンの件についてという事だったが、何かあったのかね?」
「実は2時間後の夜明けに『ジーン』の町がウルフマンの軍2万に攻め込まれようとしているんです」
「何だと? それは本当なのか?」
「はい、残念ながら。ウルフィンを捕まえて聞き出した情報でジーンの北にある森の中にウルフマンの軍が隠れていると分かったので確認に行ったところ、本当にウルフマンの軍が森の中に潜んでいました。ウルフィンは自ら作り出したウルフマンの女王個体に命令を与えているため、夜明けの朝6時頃まで軍は動かないと思われますが、急がなければこのままでは『ジーン』の町は壊滅です」
「なるほど、それで少しでも戦力が居ると判断してアレン殿はここに来たという事なんだな?」
「いえ、それが『ジーン』の町の騎士団支部には俺の事がまだ伝わっていないのか、言っていることを信じてもらえなくて。なのでこちらの騎士の方を連れて来て信用してもらおうかと。アリスは今ウルフィンの屋敷で奴を見張っていて動けませんし」
「そう言う事か。分かった、ではすぐに出発の準備をする。君はここで待機していてくれ」
「ありがとうございます!」
良かった。やっぱりポティートから来た騎士団の人は俺の事を知ってくれていた。
準備があるそうだが、そこは流石にいつも訓練しているだけあってテキパキとしているので、すぐに出発出来そうだ。
だが、それでは時間がもったいないのも事実。誰か『ジーン』に顔が利く立場の人を1人だけでも連れて行かせてくれないかと隊長さんに言ったら、あっさりとOKしてくれた。
隊長さんの選出で俺と一緒に来てくれるのは副隊長さんとさっき門を見張っていた騎士の人という事になったので、俺、隊長さん、副隊長さん、門の騎士さんの4人と馬2頭で『
「これが君のスキルで作った物なのか。凄いな、何か光っているし」
「光ってるのは気にしないでください。今だけですから」
そう言って3人と馬2頭を連れて道路へのスロープを上って行く。
「これが俺の能力で作った『
「意外と簡単なんだな。それでこれに乗るとどれぐらいで『ジーン』に到着出来る?」
「大体30分ぐらいです」
「30分!? は、早いな」
「カードは全員分をお渡しするので、人数を教えていただけますか?」
「あ、ああ、2人抜けるので騎士と兵士を合わせて98名だ」
98か、とてもウルフマンたちに対抗できる数じゃないな。しかし居ないよりはずっといい。
「これが98人分のカードです。『
「承知した。では君たちはもう行くといい、こっちの準備はまだかかるからな。だが時間までには必ずそちらに向かう」
「よろしくお願いします。では副隊長さん、門の騎士さん、同タイミングで行く時は同時にかざせばいいので、これは『ジーン』へ着いたら渡します。準備が出来たら一番前の待機エリアに入って下さい」
そう言うと副隊長さんと門の騎士さんはそのまま馬を連れて待機エリアに向かって行った。
随分持ち物が少ないが、馬に積んであるという事か? まあいい、早速出発しよう。
「それでは隊長さん、また後で」
手に持ったカード3枚を待機エリア1の端末に同時にかざすと、透明な箱のようなものに俺たち3人と2頭の馬が囲われ、ゆっくりと滑るように動き出す。
そして待機エリアから本道路へと合流すると徐々にスピードを上げ、あっという間に最高速度の200kmへと到達した。
後は待つだけだ。
移動の30分間で副隊長の『ヘイグス』さん、二等騎士の『エドワード』さんと情報共有をし、ヘイグスさんが持っていた地図を使ってどの辺りに敵が潜んでいるかや、敵のボスの大まかな強さなどを教えた。
そして30分後、『ジーン』へと到着した俺たちは急ぎ騎士団支部へと向かい、ヘイグスさん、エドワードさんの口から俺の言っていることが真実だという事が語られると、すぐに町へ緊急警報が発令。
冒険者ギルドへは支部の騎士の人が向かい、エドワードさんは支部の騎士数人と一緒にウルフィンの屋敷へと奴を連行しに行った。
それから町は大混乱だ。市民は災害時用に作られていた町の地下シェルターへ避難したり、急いで『ポティート』方面へと脱出を図ったりと、とにかく急いで逃げるか隠れるかしなければと動き回っていた。
そうこうしている内に『
町の北門から出て少し行った所にこちら側の戦力が集まる。
ポティートからの騎士隊及び兵士が99名。ジーンの騎士と兵士が300名、冒険者が54名、そして俺とアリスの計455名がこちら側の最終戦力となった。
対する敵戦力は2万。
地平線を埋め尽くす程の魔物の軍が今、酒と踊りの町『ジーン』へと牙をむこうと迫ってきているのが見える。
そして、6月12日午前6時28分。
この国の歴史に残るであろう絶望の防衛戦の火ぶたが今、切られた。
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