第27話 赤い瞳の男
あれから一日経った。
現在の時刻は18時、今日も宿で連絡を待つ時間が続いている。
俺とアリスは食事や風呂等のどちらかが離れる時は、片方が宿の部屋で伝達紙を見ておく事に決めて、今は俺が食事の時間だ。
昨日、屋敷から酒屋に戻ったあと酒屋のおっさんに宿の場所を聞いたら、酒屋の横に併設されている宿を紹介されたので今はその宿を利用している。その為もっぱら食事を摂るのは酒場の食事スペースだ。
「ダンデさん。今日のおすすめは?」
「おう! アレンか! 何だ、また今日も飯だけか? 酒は?」
「俺は酒は苦手なんだよ! 飯食って売り上げに貢献してんだから良いだろうが!」
「ははは! まあな! 今日のおすすめは黄金マスの塩焼き定食だ。ゆっくり食っていけ!」
「じゃあそれ! って言う前にもう居ねぇし」
酒屋のダンデさんとどうしてこんなに気安い感じになっているかというと、実はダンデさんが『ポティート』でお世話になっている宿屋のおやっさんの弟だったからだ。その事を話していたら、だったら俺にも気安く話してくれと言われて、その方が俺も楽でいいってことでこうなった。
やっぱ兄弟だからかどことなく性格が似てる。打ち解けるの殆ど一瞬だったからね。
「そういや、お前らいつまでこの町に居るんだ?」
「むん? いったろ、ちょっと別件で用があって、んぐ、この町に居なきゃなんないんだよ。ぷはっ! 水が美味ぇ!」
「へえ、それじゃあそれまで俺の飯が食えてラッキーだったな!」
「はいはい」
酒の町と言えど本格的に酒飲みどもが集まるのは夜からだ。だからか、この時間暇なダンデさんは俺に絡んで来る。昨日の同じ時間に俺が食ってたら本人が暇だって言ってたからな。
それにしてもこの人の作る飯はお世辞抜きにしてもめっちゃ美味い。宿屋のおやっさんの飯も美味かったが、僅差でダンデさんの勝ちだなこりゃ。
飯食ってる時うるさいから結果トントンだけど。
「がはははは!」
「俺じゃなくて他の客の方が楽しそうだぞ。ダンデさんもそっち混ざって来たら?」
「なんだなんだ。つれねぇなアレンは。……仕方ねぇ、おーい! 俺も混ぜろ!」
何だよ行きたかったんじゃねえかよ。だったら最初からそっち行っとけばいいのに。
暫く一人で黙々と飯を食っていたら、酒場の入り口の扉が開いてチリンチリンと鈴が鳴って男が1人入って来た。
1人で来るなんて中々珍しいな。ここで飯を使うようになってから初めて一人で来る人見たかも。つってもまだ昨日今日しか使ってないけど。
「ダンデさんは……ああ、気づいてないな。仕方ねぇ。お客さん、お酒ですか? お食事ですか?」
「ん? 君はこの店の人かい?」
「いや、この店の人はあそこでバカ騒ぎしてるダンデさん。俺は客だよ」
「この店はお客さんがお客さんの対応をするのか。珍しいな」
「いやいや、そんなわけ無いですよ。今日はウエイトレスの女の子がお休みなのにあの調子なんで、俺が代わりに席案内ぐらいはしようかなと」
ウエイトレスの子がめちゃくちゃ優秀で、いつも客対応は全部ひとりでやってるらしいから、飯作って酒出して客対応もってのが普段と違うってんで調子出てないんだろうな、ダンデさん。まあ、今の時間でこんな調子じゃ後が大変だろうが、そこまでは知らん。
「へえ、じゃあ君は店主さんと仲が良いんだな。付き合いが長いのかい?」
「いえ、昨日知り合いました」
「え? あっははははは! 面白いな君! 良ければ君と相席させてくれないか?」
「いいですけど、開いてる席もありますよ?」
「いや、どうせご飯を食べるなら楽しい方が良いからな」
「分かりました。じゃあちょっとダンデさん呼んできます!」
変な人だけど、何か雰囲気があるな。赤い髪に赤い目、カッコいいおじさん冒険者って感じだ。背も高いし。
相席したいって何話すんだよって感じだけど、不思議とすんなり話せそうな気もしてる。まあ、とにかくダンデさん呼んで来るか。
バカ騒ぎしているダンデさんから大ジョッキを奪って客が来たことを伝えると、ダンデさんは慌てて赤髪のおじさんの所に走って行った。
「注文出来ました?」
「ああ、おかげさまでね。君は酒は飲まないのかい?」
「酒あんまり飲んだことなくて、後ちょっと用事が入るかもしれないので」
「そうか。君と酒を飲むのは楽しそうだと思ったんだが、そう言う事ならまた今度だな」
また今度っていつだよって思ったけど、何となくこの人とはまた会えそうな気がするから不思議だ。
「それはそうと、俺はアレンって言います」
「おお、自己紹介がまだだったな。俺はムラマサ、冒険者をやっている!」
その赤い宝石の様なキラキラした目で俺を見ながら、ムラマサさんは力強くそう言い放った。
ムラマサ? 何か日本っぽい名前だな。
飲み食いしながら話を聞けば、ムラマサさんはやっぱりとある島国から大陸に渡って来たらしい。強くなるために冒険者をしながら各地を回っているんだそうだ。どうりで強そうな訳だな。どことなくオーラがある。
見た目は日本人とはかけ離れてるけど、なんか名前で親近感湧く人だ。
「それにしても、装備はその刀だけなんだな。鎧とか着けないの?」
「あれは駄目だ。昔は着けて事もあったんだけどな、動きづらくてすぐ脱いじまった」
「あ、俺もそれ分かるかも。剣使う時邪魔だよな」
「お、もしかしてアレンも冒険者か?」
「いや、俺は冒険者じゃないんだ。だけど色んな所を旅する予定だよ。今度は海のが見えるところに行ってみたいと思ってる」
いやー、話が弾む弾む! ムラマサさんがこれまで旅して来たところの話とか、聞いててスゲー面白いわ。ずっと話を聞いてたいけど、これ以上待たせると後でアリスが怖い。残念だけど今日はここまでだな。
「じゃあそろそろ俺は宿に戻るよ」
「なんだアレン、まだいいじゃないか!」
「だめだめ、ツレが怖いから。約束破ったらぶっ飛ばされる」
「がはは! 何だアレン、お前尻に敷かれてんのか!」
そんなバカな話をしていると、酒場のドアが「バンッ!」とたたきつけるように勢いよく開かれた。
入って来たのはアリスだ。やばっ、時間過ぎてたか?
「おい、アレン! 連絡が来た!」
「了解! 今行く! ごめんムラマサさん、用事が入ったみたいだ。また今度一緒に飯食おう。その時は酒にも付き合うよ!」
「ああ、その時は是非そっちのお嬢さんも一緒にな!」
「それじゃあ!」
いよいよ作戦開始だ。気を引き締めないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます