第24話 子供たちの行方
それは衝撃の事実だった。
酒屋のおっさんによると、孤児院は数か月前に前のオーナーが亡くなってから別の人間が管理するようになり、それからしばらく経った後に子供全員の引き取り先が見つかったという事で廃院になってしまったのだという。
子供は何人居たのかと聞くと10人は居たんじゃないかとの回答だったので、その全員が一斉に誰かに貰われて行ったというのは些か不自然過ぎるような気がするが、今の段階では何とも言えないな。
この事実を知ってしまった以上、アリスを追いかけて知らせに行くべきだろう。
俺は完全な部外者でもあるし踏み込んでしまっていいのか正直迷っていたが、アリスをここまで見て来て感情の振れ方が激しいのは分かっている。廃院になった孤児院を見て暴走しないとも限らない。
「お酒の積み込みをお願いして良いですか?」
「ああいいぞ! 孤児院に行くのか? 行くんだったら場所はこの大通りを来た方と逆の方向にまっすぐ行って突き当たった壁の近くだ」
「ありがとうございます。ちょっと行ってきます」
聞いた限り孤児院はかなり見つけやすい場所にあるようだ。これなら万が一アリスが暴走していてもすぐに分かるだろう。
それにしても、数か月前に新しく孤児院の院長になったとか言う人物は最初から子供を捌く算段があったんじゃないだろうか。
確か孤児院の運営には領主から税金の一部が割り与えられるはずだ。そこまで大きな金額では無いだろうが、それでも子供10人と孤児院の経営維持費なども含めると引継ぎ時に金貨100枚以上は入るだろう。金貨1枚が1万円と考えれば、100万円以上の収入がポンと入って来て、そのうえ子供は引き取り先がもう決まっているならいい儲けになる。
そんな憶測を考えながら真っ直ぐ走って行くと、やがて町を囲う街壁が見えて来た。酒屋のおっさの言う通りなら、この近くに孤児院があるはずだ。
確か特徴は教会のような見た目をしていて結構大きな建物だったか。
子供が書いた落書きを消すペンキ代がもったいなくてそのまま残してあるとも言っていたな。
「あった。門が開いてるという事はあいつは中か」
おそらくまだ中に居るだろうと判断して、少し開いている門をさらに押し開け中に入る。すると目の前に木製で両開きの大きな扉が現れた。本当に教会のようだ。
扉を押すと、長年使われてきて建付けが悪くなっているのか、少しだけ地面に引っかかるような感覚がある。少し力を込めて押し込めば「キィ」という音と共に扉が開いた。中は広々とした空間になっていて、奥に祭壇らしきものも見える。
「なるほど、ただの孤児院じゃなくて教会も兼ねてるのか」
しばらく使われていない事を思わせるように埃っぽい空気が充満した礼拝堂。一歩踏み出せば埃がブワッと舞い上がりそうで嫌だが渋々一歩踏み出す。するとその時、首元に何か固く冷たい物が当てられた。刀だ。
「落ち着け。俺だ、アレンだ」
「何だお前か。なぜ追いかけて来た」
「酒屋のおっさんに孤児院の事を色々聞いてな。お前に伝えた方がいいと思って追いかけて来たんだ」
「なに?」
ここに来るまでに俺とアリスでは少し時間に差があったので、たぶんその間に中を一通り見て回ったんだろう。何か孤児院の様子がおかしいと思っていたところに俺が入って来たんで、刀を抜いて警戒していたという所だろうか。。
「取り敢えず刀をしまって座れ。話はそれからだ」
「別に立ったままでも話は出来るだろう?」
「じゃあ話さん」
「わかった。座るから話せ」
よし、これでひとまず話を聞かせても抑えられる体勢にはなった。立ったままでは飛び出して行きかねないからな。
「まず結論から言うが、この孤児院はすでに廃院になっている」
「何だと!? いつだ! いつ廃院になった!」
「落ち着けって、ちゃんと話す。酒屋のおっさんに聞いた話しでは正確な時期は分からないらしいが、少なくとも数ヶ月は経ってるそうだ。と言うかこの孤児院の出身なのに知らなかったのか?」
「この町を出てからは極力近づかないようにしていた。だが町の状況は逐一聞いていたんだ! なのにッ……!」
なるほど、こいつは長いことこの町に帰ってなかったのか。
「話を続けるぞ。廃院になった理由だが、前院長が亡くなって新しい院長が就任した後、すぐに子供たち全員の引き取り先が見つかったかららしい。子供が居なければ孤児院の意味が無いと新院長が独断で廃院を決めたようだ」
「そんな! 院長が亡くなっていたなんて、そんな話聞いてなかったぞ!?」
こいつがいつも町の状況を聞いていたのは、おそらく前回まで調達に行っていた人物だろう。そして、そいつの話では孤児院の院長が亡くなったことは伝えられなかった。毎回調達の度に話を聞かれるのであればそういうことは言いそうなもんだが、何故こいつに伝えていない?
……これは思ったより根が深いかもしれないぞ。
「これは俺の考えだが、新院長は最初からこうなることを計画していたのではないかと思う。でなければ子供の引き取り先がそんな一気に決まるとは思えんからな」
「という事はそいつが院長を殺したということか!?」
「いや、そこまでは分からないが、少なくともそいつが院長になってからの事については違和感を感じる。あの子の事もあるし、子供たちの引き取り先ってのを調べた方がいいんじゃないか?」
これは俺の推測だが、十中八九新しい院長と子供の引き取り先はグルだ。それから前回までこの町に調達に来ていた人間も怪しい。
計画としては杜撰なように見えるが、孤児院の事など殆どの人間は気にもしない。特にここは酒飲みが集まる町だから余計にだろう。
子供は殺したわけでもなく引き取られたのだから寧ろ良い事だし、孤児院が税金で運営されていることを知っている大人たちからすれば無くなるのに反対などするわけがない。
まったく上手くやったものだ。
「この町の冒険者ギルドの横に国の住民管理局の建物がある! 行くぞアレン!」
「あ、ちょっと待て!」
そしてこの後俺たちは、住民管理局で驚きの内容を耳にすることになる。
なんと孤児院に居た子供たちはそれぞれ別の家族のもとに行ったわけではなく、全員がある1つの家に引き取られていたのだ。
その家の家主の名は『ウルフィン』。
かつてウルフマンやウルフウーマンについて研究し、貴族たちから拒絶された男の名だった。
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