第19話 ウルフマンの巣
で、探すと言っても
「おい、どうやって子供たちを探すつもりなんだ?」
「森に入って探す」
「いやだから、森の中に入ってどうすんだって聞いてんだよ」
「五月蠅い奴だな。貴様は1人で先に行けと言っただろ!」
こいつ考えなしか。おおかた森に入って適当に探し回ればそのうち見つかるとでも思ってんだろう。バカかよ、そんな事やってたら何カ月かかるか分からんぞ。
「やみくもに探しても無駄だ。それじゃあ仮に今生きてても見つけた時には死んでる」
「ではどうするというのだ!」
何がこいつの感情を揺さぶったのかは分からないが、やけに突っかかって来るな。
こんな天然のアホがそのうえ怒りで我を忘れてたんじゃ、一生森で迷ってアウトだ。やっぱり俺が付いておかないとダメだなこりゃ。
「まずは情報収集だ。一度馬車を取って来て、その後この村の村長の所に行くぞ」
「そんな事をしている間に子供が!」
「だから今のままじゃ助けられないんだよ! いいから行くぞ!」
「お、おい!」
言った通り馬車を取って来ると、雑貨屋のおっさんに村長の家の場所を聞いて向かう。
たぶん村長なら村とその周辺地域の情報はある程度知っているはずだ。
ウルフマンが出るのは毎年の事だろうし、何かしらは分かるだろう。
扉をノックしようとすると、そこでちょうど先ほどの守衛の男が飛び出して来た。
「うわっとと。あぶねえだろ!」
「よう、さっきぶりだな」
「え、あっ! これは領主様の使いの方! 度々失礼いたしやした」
「別にいいよ。それよりさっきの件を村長に報告して来たのか?」
「はい! これから俺が馬でひとっ走りして『ポティート』に行く予定です!」
という事は村長は家に居るな。おそらくこれから捜索隊を組んで森に入るだろうから、その前に話を聞いておくか。
守衛を見送って中に入ると、何かの花を活けた花瓶と床に敷かれた大きな獣の皮が俺たちを出迎える。この皮で出来るだけ靴の泥を落とせという事だろう。
今だに俺が掴んでいる手を外そうとしているアリスを引っ張って奥の部屋に向かう。するとそこには広い円卓が置かれており、その中の椅子の1つに老婆が座っていた。
「何じゃお主らは。ワシは今忙しいんじゃ、用があるなら後日また聞くから今日は帰ってくれ」
「俺たちは伯爵様の使いの者です。俺はアレン、こっちは騎士のアリスと申します」
「なんと、伯爵様の使いとな。して何の用じゃろうか?」
貴族の使いと分かって聞く気になったか、話が早くて助かる。
「では単刀直入に聞きます。この辺り一帯のウルフマンの情報を教えていただきたい」
「なに? ウルフマンじゃと? なぜ今そのような事を……まさか、あなた方も子供の救出に加わっていただけるのですか?」
「ええ、まあそんなところです。ただし俺たち2人は先に先行して森に入り、ウルフマンの動向を探ろうと思っています。なので聞きたいのはこの辺りの森でウルフマンがよく巣を作っている場所の情報です」
ウルフマンはゴブリンのように常に発情している種族と言う訳ではないが、それでも爆発的に数を増やす厄介な魔物だと聞いたことがある。そういう魔物の場合だいたいは知能が低く、毎回同じ場所に巣を形成することが多い。
つまり長年この土地に住んでいてウルフマンの駆除を行って来たであろう村人なら、巣の場所の見当がつくはずなのだ。
「場所は分かるが口で説明するのは難しいので、猟師である息子に案内させましょう」
そう言って立ち上がると部屋を出て行く村長。5分ほど待っていると後ろに40代ぐらいの大ナタを担いだ男を連れて来た。
かなり鍛えているようで、その身長の高さも相まってどうにも圧迫感がある。
「こちらが次男で猟師をしている『ルヴィク』と申します」
「ルヴィクです。よろしくお願いします」
「事情はあらかた説明しました。後はこやつが巣まで案内いたします。装備など必要なものがあれば村から出せる分は出しますので、何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます。装備は自分たちが持っている物で大丈夫ですので、早速案内をお願いします。これ以上は横に居る猛獣を抑えてられないので」
俺達3人は村長の家から出ると、道具屋で携帯食料を買ってそのまま村の外の森へと向かう。
村からすぐのところにある森の入り口付近は伐採しているからか木と木の間隔が広く、太陽光が届いていて明るい。見たところ地面に生えた草も伸び放題ではなく綺麗に切り揃えられていた。
ルヴィクによると動物や魔物は人間の手の入った場所には近づきにくくなる為、村から近い場所はどこも定期的に猟師と木こりで整えているらしい。
そんな魔物も近づかない森の淵に臆病なウルフマンが現れることは年に一度の繁殖期でもめったにないらしく、長年この辺りに住んできて初めての異常事態だという。
「俺たち猟師は普段は動物を狩るのですが、ウルフマンが繁殖期に入る少し前からはウルフマンを積極的に狩るようにしています。なぜだか分かりますか?」
「繁殖期のウルフマンの肉が美味いからとか?」
「馬鹿か貴様。ウルフマンの繁殖は一度に数十匹から数百匹は増えるといわれている。それを放置すればあっという間に森の動物たちを食い殺す、そうなれば次に狙われるのは人間だぞ」
チッ、アホに馬鹿と言われてしまった。まあでも確かにそこまでの繁殖力となれば脅威だ。一度にそれだけ増えるならコミュニティが複数あればそれだけさらに増えるという事だろうし、まさか1つの森に1コミュニティしか無い訳でもないだろうからな。
「ははっ、確かにそれも脅威ではありますが本当に防ぎたい事は別にあるんですよ。俺たちがウルフマンを狩るのは、ある怪物をこの地に呼ばない為なんです」
「怪物?」
「はい。そいつはウルフマンを主食とし、ウルフマンの多い場所を嗅ぎつけて現れる巨獣、その名も『ムー』。伝承ではこの怪物が通った後には何も残らないと言われています」
巨獣ムーか、通った後に何も残らないという事は、少なくとも巨人以上の大きさはありそうだ。そんなものが来てしまったらもう誰にも止められないだろうな。
「お2人とも、もうすぐウルフマンの巣に着きます。ここからはこの臭い袋を持って音を立てないように慎重について来て下さい」
どうやらもう巣が近いらしい。
俺とアリスは言われた通りウルフマンの毛が詰まった臭い袋を受け取り慎重に後をついて行く。するとある所でふと森の木々が消え視界が開けた。
目の前に現れたのは大きな岩山だ。そこにこれまた大きな洞窟の口がぽっかりと開いている。
ここは予想通りウルフマンの巣となっているようだった。少し顔を上げて様子を見てみれば、多くのウルフマンが何かしらの肉やら木の実やらをせっせと洞窟に運んでいる姿が見える。だが、それよりも気になることが1つあった。
「何だあの化け物は」
そこには通常のウルフマンの3倍はあろうかという巨大な化け物が闊歩していたのである。
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