第11話 冒険者ギルドに行こう

 調子に乗って食い過ぎた。


 翌日、俺は部屋のベッドで胃を抑えながら寝そべっていた。

 起こしに来たおやじさんには馬鹿だろお前と言われ笑われた。食べ過ぎによく効く薬を置いて行ってくれなかったら、俺もう人としての尊厳が終わってたね。


 さて、午前中しっかり休んで午後、今日は待望の冒険者ギルドに突撃しようと思っている。そもそも村を出た理由は冒険者になる為であって、屋台で買い食いを楽しむためじゃない。止めないけどね、買い食い。


 冒険者ギルドは町の一番大きな通りにある目立つ建物だ。ここは領主の居る町と言うだけあってかなり大きな支部が設けられている。何かデカい牛みたいなやつの顔が建物から突き出してるのが特徴的だ。


「何回見ても目立つなぁ」


 この町には小さい頃に何度か父さんと母さんに連れて来てもらっていたので、この建物は見たことがあった。だけど入るのはこれが初めてなので、少し緊張している。


 基本的に冒険者ギルドが忙しいのは朝方と夕方だ。それは依頼を受けるのと、依頼の達成報告がその辺りの時間帯になることが多いことが要因となっている。

 つまり、今のようなお昼の時間帯は人は少ないので、面倒な輩にも絡まれにくいと言うわけだ。


 中に入ると思ったとおり人の姿は少なかった。見回してみれば想像していたより綺麗で片付いている。そして何より天井が高い。解放感あるなぁ。


 受付にはいくつも窓口があるが、今は一人しかいないようだ。俺はスタスタとその人の前まで行くと冒険者登録をするために話しかけた。


「すみません」

「はい! 冒険者ギルドにようこそ! 依頼の報告ですか?」

「いえ、冒険者登録をしたいのですが」

「あ、登録の方ですね。失礼いたしました。では登録の条件としていくつか確認させていただきます。まず登録には銀貨1枚が必要となりますが、よろしいですか?」

「はい。大丈夫です」


 そう言いながら俺は袋から銀貨1枚を取り出して渡す。

 

「ありがとうございます。次に登録に際して登録者様の情報をギルドに提示していただく必要があります。必要な情報は『お名前』と『スキル』と『レベル』になりますが、こちらもよろしいでしょうか?」

「はい、問題ありません」

「ではこちらにご記入をお願いします」


 渡された紙には空欄が3つ空いており、その左側にこの世界の文字で『名前』、『スキル』、『レベル』と書かれている。

 俺はサラサラと自分の名前とスキルを書くのだが、レベルはどう考えてもおかしいのでどうするべきか迷った。

 嘘をついてレベル2とかにしておいてもいいのだが、それをしてしまうと後でバレた時に冒険者資格をはく奪という事になりかねない。しかし、本当の事を書けば登録すらさせてもらえない気がする。


 数分迷った後、受付の女性が「もしかして字が書けないのですか? それでしたら私が代筆させていただきますが」と言って来たので、もうどうにでもなれと本当のレベルを書いて渡した。


「確認させていただきますね。では、お名前は『アレン』様でお間違え無いですか?」

「はい」

「はい、では次にスキルは『ロード』でお間違え無いですか?」

「はい」

「最後にレベルは……すみません、レベルの記入が間違っているようです。横の部分で良いので再度書いていただけますでしょうか?」

「……間違ってないです」

「へ?」


 俺が間違っていないと言った瞬間、受付の女性は目に見えたように焦った表情をし始めた。

 恐らくこういうどう見ても嘘のような情報で登録してこようとする人間に今まで出会ったことが無かったのだろう。


 そこへ奥からその様子を見ていた別の女性が現れた。眼鏡をかけていてちょっとおっかない感じの仕事ができる女性といった雰囲気の人だ。


「どうしたのミア? 何か問題?」

「あ、先輩。あの、その、こちらの方の登録を行っていたんですが、レベルが……」

「見せてみなさい」


 目の前に居る俺の事をそっちのけで会話する2人。先輩と呼ばれた女性は俺の受付をしてくれていた女性から俺が書いた紙を受け取ると、内容を読み始めた。


「すみません、こちらにレベルが202と書かれているのですが、間違いありませんか?」

「はい。間違いありません」

「本当ですか? 虚偽の申告であれば今のうちに訂正することをお勧めいたしますが」

「本当です」

「これは明確な違反行為です。貴方は罰金を払って憲兵に突き出される事になりますが、それでも訂正しませんか? 私としてはさっさと訂正してもらった方が面倒な手続きが無くて済むのですが」

「……」


 なんだコイツ。めちゃくちゃ態度悪いんですけど。嘘じゃないって言ってるのに調べもせずさっさと書き直せとか、いくら何でも酷過ぎるわ。こんな奴がギルド職員とか大丈夫かここ?


「黙りましたね。分かったら早く書き直してください。時間の無駄ですから」

「ふむ、虚偽だったら俺に罰金を払わせて憲兵に突き出すと?」

「さっきからそう言ってるでしょ。面倒なので何度も言わせないでください」


 さっきまで俺の担当をしてくれていた人は俺たちの様子を見ながらオロオロしている。もしかして新人さんだったのだろうか。

 たまたまギルドに居た他の冒険者たちも何だ何だと集まって来ている。それを見て俺が益々追い込まれていると思っているのかニヤニヤ笑っているクソ職員。


「ではもし俺が嘘をついていなければ名誉棄損という事で、貴女はこのギルドを辞めて罰金を払うんですね?」

「はぁ? 何でそうなるのよ。大体、貴方みたいな将来性の無さそうな人間の言う事なんて嘘に決まっているんだから、罰金を払うのも捕まるのもあんたでしょ。頭おかしいんじゃないの?」


 だんだん騒ぎが大きくなってきた。この女が騒ぎたてるからだ。わざとだろ絶対。

 後ろから冒険者の「やれ、サンディ! いつも通りやっちまえ」という声が聞こえてくる。それを聞いて益々得意げになるゴミ。こいつもしかして何時もこんなことやってるんじゃないのか? それで気持ち良くなってんだ。イカレ女が!


「何の騒ぎだ!」

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