第125話 神のお告げ





《シントプリースト共和国》





神官長をトップとする神を信仰する国。

人口30万人が暮らすこの国の首都では、全ての人が神を信じ、神を崇め、神を頼っている。




この国の代表である神官長のイオセシルは、神殿にある自室で親書を読み終えると、苦虫を噛み砕いたような表情をし、親書を破った。


彼の両腕には、次の聖女を狙っている神官の女2人が腕を絡ませ、背中からは別の女が抱きついている。


イオセシルは苛立ち隠すことなく乱暴に女の体を弄り、汚い言葉を浴びせた。


それでも女達は我慢し、耐える。




「生意気な小娘だ•••」

「!?」

「お前らではない!!」



「生意気な小娘」という言葉にビクッと怯えた女達に対し、イオセシルは余計に苛立ちを募らせ、女達を蹴り飛ばした。



「マリー•アントワネットめ。この高貴の僕ちんの結婚話を断るとは、なんと生意気な小娘だ!!」



イオセシルは45歳になった今も、自身のことを「僕ちん」と呼ぶ。

「僕ちん」呼びに対し、女達は嫌悪感を抱くが、ぐっと我慢する。



「どうしてくれようか。僕ちんをコケにしたのだ。辱めを与えねばならん」



イオセシルは蹴飛ばされたことで床でうつ伏せの状態になった女に自分の足を乗せる。



「まぁ、僕ちんは優しいからな。もう一度チャンスをやるか。おい、タスクはいるか」

「はい、イオセシル様」


神官長であるイオセシルの補佐兼執事のタスクが部屋の奥から現れる。



「マリー•アントワネットが住んでいるのは小汚いガーネットであったな」

「左様です」

「なら、神のお告げがあり、僕ちんと結婚しなければ街が滅ぶと便りをだせ」

「畏まりました」

「小さなあの街のことだ。小娘1人を差し出すことで街が助かるんなら喜んで差し出してくるだろう」






なぜ、イオセシルのような男が神官長となり、誰も彼に逆らわないのか•••



それは彼がスキル『神のお告げ』持ちだからである。


彼が『神のお告げ』を持っていることは、シントプリースト共和国の人なら知っている。




ただ、『神のお告げ』のスキルを理解している者は1人もいなかった。



この世界で『神のお告げ』は、神からの言葉を代弁する者と言われているが、実際は違う。



そのことを知っている者が誰もいなかったのだ。




ついこの前までは•••










《ラミリア王国•ガーネット》





魔王国ブレイスワイトから戻った私は、ラドさんとアークのお墓参りや、イーラ、ターラ、フローレンスの様子を見に行ったり、ミアの養鶏場を手伝ったり、普段の暮らしに戻っていた。



マリーラのお店もマリー•ランドも連日大行列だし、神盤の利用者もかなり増え、予約が数ヶ月先までいっぱいらしい。


そんな訳で、街には人が大勢いるため、出掛けるときは毎回『認識阻害スキル』を解除し、オッドアイの悪神の姿で歩いているのだけれど、顔はマリーのままなのでジロジロとみんなに見られる。




ふぅー


人に見られるのに疲れた私は、今、気分転換に料理をしていた。



メニューは豚の角煮だ。



電気圧力鍋を『地球物品創生スキル』で出し、絶賛煮込み中。

電気圧力鍋は目を離していても勝手に調理をしてくれるから本当に便利だ。



私が家の1階で料理をしている今、ラーラ、ナーラ、サーラがリビングテーブルにいて、いつもは書斎で作業しているアイリスさん、アイラ、ヒナもダイニングにあるローテーブルにいる。


ユキとサクラはカウンターキッチンに乗って、私の調理を見ている。


因みに、アリサはお店に出勤中。






ティロティロン♪





「おっ、できた!!」




ダダダダダダダダダダダダ



元々キッチン近くにいたユキとサクラ以外のみんなが一斉に走り出し、電気圧力鍋を覗き混む。



「こ、これは!!」

「この香りは、うん、絶対に酒が合うはず!!」

「いや、お米よ」

「ま、マリー、た、食べたい」

「「「マリー様」」」



私はお皿に豚の角煮をよそい、お茶碗にご飯を盛り、大人には生ビールを用意した。



みんなでテーブルに着き、



「いただきま•••」



まで言った時、



部屋の中が光に包まれ、神のユーティフル様とシンが現れた。



「「ただいまー」」



2人はスムーズな流れで空いている席に着くと、目線で料理を催促してくる。



「はいはい」



2人分の料理をテーブルに置くと、今度こそ「いただきます」と言って食べ始めた。

それにしても、みんな神様の存在に随分慣れたよね。




「おぃひぃーーーー!!」

「とろとろーーーー!!」

「お米が止まらなーい!!」

「ビール、お代わりー!!」



キラーピッグのお肉は日本のブランド肉にも負けない、寧ろそれ以上かもしれない美味しさだけど、脂身をたくさん食べても平気なんて、みんななかなか若いね。胃袋が•••。


豚の角煮を数回お代わりした頃、ようやく落ち着いてきたユーティフル様とシンが話し始めた。



「やっとアセルピシアの報告が終わったぞ」

「これでまた、ここに住めるわ」

「神界はいいんですか?」

「「大丈夫、大丈夫」」



何が大丈夫なのかは分からないけど、ユーティフル様とシンは楽しそうにビールを飲みながら笑っている。



「あのー、ユーティフル様、シン様。少しお聞きしてもよろしいですか?」


アイリスさんが2人にビールをお酌しながら話しかける。



「何でも聞くがいいぞ」

「ありがとうございます。その、スキルのことについて聞きたいのですが」

「うむ」

「神のお告げというスキルは、やはりユーティフル様やシン様が人間に宛てたメッセージを代弁するスキルなんでしょうか?」


「「んっ!?」



ユーティフル様とシンは2人で顔を合わせると、笑いを必死に堪え、肩をプルプル震わせていた。



「すまぬ。あまりに可笑しなことを言うから」

「では、違うのですか?」

「ええ、違いますよ」



シンはきっぱり否定すると、続けてこう言った。



「神のお告げは、スキル付与されたその者に向けられた忠告よ」





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