第106話 ▪️▪️▪️▪️▪️
ガーネットに転移した私達は、直ぐにその悍しい力を感知し、上空を見上げる。
そこには先ほどより深い三日月の目を作り、愉快そうにこちらを見下ろしているアセルピシアがいた。
こちらと言うより、私達の少し後ろの方を見ている。
「ま、マリー、ど、どうしたの?」
「ピーピー」
私が後ろを振り向くと、そけにはヒナとサクラがいた。
そして、最悪なことに、今いる場所は人が一番集まっているマリーランドだった。
ヒナとサクラは、マリーランドの運営の手伝いに来ていたのかもしれない。
こんなことになるなら、ヒナもサクラも、そしてここにいるみんなを遠くに避難させておくんだった。
「ヒナ、お願い。今すぐここから離れて。サクラは私が守るから」
「•••、ど、どうした、ま、マリー??」
「あれ、聖女様じゃないか?」
「間違いないわ。聖女の羽衣は着ていないけど、あのお顔はマリー様よ」
「やっと会えたぞー」
突然現れた私に、マリーランドに来ていた人々は騒めき出す。
そして、私に向かって走り出した瞬間、全員が消えた。
『大丈夫だ。見える限りの全員、別の場所に転移させたからのー』
ユーティフル様は先程までのアセルピシアとの戦いでかなりの神力を使っていたのか、数千人を同時転移させ苦しそうな表情を浮かべた。
『ただ、そやつらは転移しきれなかった•••』
私の後ろには、まだヒナとサクラがいた。
「ま、マリー、これは一体何事だ!?」
「マリー様。またお会いできましたね。私は新人冒険者の•••」
ゴンっ
「お前は黙ってろ!!」
マリーランドの警備を買って出てくれていたラドさんと新人冒険者が駆け寄ってきた。
これは最悪な状況だ。
どうにかしないと•••。
しかし、考える間も無く上空から赤い光が広がり、私は空を見上げた。
アセルピシアの右手部分の竜の目が赤く光った次の瞬間、その光が一直線にこちらに向かって放たれた。
その光は地球で言う赤外線ライトのような細い光線で、明らかに広範囲ではなく、特定の誰かを狙い撃ちしたような、スナイパーのような攻撃だった。
私は瞬時に魔力を全て体に集め、数百に及ぶ結界を張った。
バリンッ
バリンッ
バリンッ
バリンッ
私の張った結界は虚しく次々と破壊されて行く。
広範囲の攻撃なら負荷を分散できたかもしれないが、あの一点を集中させた攻撃の所為で結界は簡単に壊されて行く。
「ヒナ、サクラ、良い子だからここから逃げて」
「に、逃げる•••」
「ピー?」
ヒナは少し考えてから覚悟を決めた顔をして、サクラの背中を押しながらこの場から離れようとする。
「これでいい」
私は再び両手を前に出し、張られている結界に残りの魔力を込める。
前を見据えた私は、赤外線のような攻撃の変化に気付いた。
動いてる•••
私は後ろを向き、ヒナとサクラの位置を確認した。
間違いない。
アセルピシアの攻撃は、離れていくサクラを追っている。
どうしたら、どうしたら
守れるの
バリンッ
バリンッ
バリンッ
焦る私に攻撃は待ってくれる訳もなく、容赦なく結界を破壊して進んでくる。
結界は残り数枚。
私がこの場から離れれば瞬時に結界は消える。
どうする、どうする
「マリー、しけたツラするな!!」
「マリー様には笑顔が1番です」
私の横をラドさんと名前も知らない新人冒険者が通り過ぎて行く。
「ラドさん!!」
最後の結界が破られると同時に、ラドさんはヒナを突き飛ばし、新人冒険者はサクラを突き飛ばした。
赤外線のような攻撃はラドさんと新人冒険者の左胸を貫通した。
私は直ぐに駆け寄り、ヒールを唱える。
「ま、マリー。俺だって、この街を守る、冒険者なんだぜ•••。カッコよかったろ•••」
「カッコいいから、もう喋らないで」
魔力が少ないからか、アセルピシアの攻撃の所為なのか、ヒールがうまく効かない。
ダメだ
ダメだ
ラドさんは、私に初めて親切にしてくれた冒険者だ。
私のことを心配して、何かあったら何でも言って来いと、力強く言ってくれた人だ•••。
「ま、マリー様。わ、私は、新人冒険者の、アーク、と申します」
「アーク、分かったから。あなたも喋っちゃダメ」
「やっと•••、自己紹介、で、できました、ね」
「アーク、アーク!!」
アークは、笑顔のまま目を閉じた。
もう目覚めることはない、永遠の眠りについたのだ。
「ははっ、師匠より、先に逝きやがって•••。ま、マリー。悔やむな。悔やむ暇があるなら、ゴフッ」
ラドさんは大量の血を吐く。
ユーティフル様もシンも離れた場所からヒールを放ってくれているが、回復の兆しはない。
「悔やむ暇が、あ、あるなら」
「もう喋らないで!!」
「生きろ!!」
ラドさんの両目から涙が流れていた。
けど、アークと同じように表情は笑顔だった。
ラドさんも、死んだ•••
私の体が、怒りで震え出す。
これまでにない強い怒り、そして怨み、様々な感情が体を巡る。
私の目の前には、いつも私を気にかけてくれていたラドさんの遺体と、大切な家族を守ってくれた、さっきまで名前も知らなかったアークの遺体がある。
自分自身の体に、2人の赤い血がブレザーに着いていた。
ブレザーも既に擦り切れ、穴が開き、ボロボロだった。
何が聖女様だ•••
大切な人達を、守ることもできない•••
救うこともできない•••
憧れのブレザーを着て、高校に通う
たったそれっぽちの自分の夢も、叶えることができない•••
うあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!
ゾワッ
私の怒りの叫びと同時に
【大魔王の威圧】が発動した
そして、【大魔王の威圧】とは別に、私の体に大きな力が湧き上がった。
後ろを振り向くと、突き飛ばされた時にできたのか、顔と手に擦り傷をつけたヒナが私に向けて手を伸ばし、スキル《愛されし者》を発動してくれていた。
これはヒナのスキルで、発動中は声を失うが、スキルを付与された者はレベルが2倍になる。
【ありがとう】
ヒナは涙を流しながら、黙って頷く。
その隣で、サクラも泣いていた。
どうしてこんなことになっているのか、どうして目の前で人が殺されなければいけないのか、理解できずに泣いているのかもしれない。
それでも、倒すべき敵がいることを把握したヒナは、悲しみに暮れる暇もないまま、私にスキルを付与してくれたのだ。
ラドさん、アーク、ヒナ、サクラ•••
私は全てを懸けて戦うからね
私は体中に黒い魔力を纏い出す。
それを見たユーティフル様とシンは、残りわずかな神力を私に向けて放ち、譲渡してくれた。
うおぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!
黒い魔力を纏った私は右手を上空に掲げ、不敵な三日月を作るその目を睨んだ。
お前だけは、許さない
★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★
本作に登場する眩耀神様を主人公にした作品を8月10日にアップ予定です。
テイストは違いますが、「チート」や「ざまぁ」要素も盛り込んでいますので、読んでもらえたら嬉しいです⭐︎
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