第105話 強襲アセルピシア




亜空間アセルピシア




その姿を目の当たりにして、私の体に悪寒が走る。

全体の見た目は髪の長い大人の女性だ。

だが、右手が竜の頭になっていて、右足はすらっと延びた綺麗な形ではあるが、透明な鉱石で作られていた。


そして、体の左側部分は形こそあるものの、漆黒の闇に覆われ、確認することができない。


見えている右側部分の顔は、大きな瞳と眉は普通にあるが、鼻と口は確認できなかった。

その大きな瞳は、少し細くなり、こちらを凝視しているようにも見える。




『あの足、売ったら儲かりそうだのー』

「足??透明なやつ??」

『マリー、あれはダイヤモンドよ』

「だ、ダイヤモンド!!」

『にしても、変だのー。完成形じゃない気がするわい。何かが足りてないのー』

『確かに、今までのアセルピシアとは違うような•••』

「•••」



あれで完成形ではない。

アニメでありがちな変身したり、何かが合わさると完全体になったりするのだろうか。

私は既にその禍々しさに圧倒されそうになっているというのに•••。


無意識に額から汗が流れた。




『しかし、良い機会でもあるのー』

『ええ。今倒してしまえば、足りない部分が補われてもこれ以上の力は出せないはずです』

『シン、お主は周りに被害が出ぬよう結界とバリアを頼むぞ』

『はい』


そこまで話すと、ユーティフル様は私の隣まで歩いてきた。

そして、私の手を握り魔力に近い何かを流し込みながら語りかけてきた。


『マリー。私の神力を付与したのでそなたも少しの間、これで飛べるはずだ。あと、絶対に死ぬでないぞ。アセルピシアは自然災害扱いだからな、神の力では蘇らすことはできんのだ』


私は静かに頷く。


『それは、私達でも同じでのー。神といえ、死んだらそれまでだ』

「なら、死ねないですね」

『その通りだ』

「分かりました」

『では行くかの。アセルピシアもこの世界の大気分析が終わったようじゃ』


私は上空で上下左右に浮遊しているアセルピシアを見た。

アセルピシアの右目の大きな瞳が確実にこちらを睨んでいた。


『行くぞ!!』

『はい!!』

「はい!!」




シン•アントワネットの名の元に、この世の源、悪よ、光を、闇を、我に力を与えたまえ。


『究極結界•究極バリア!!』


シンの体から放たれた眩い光は目に見えない速さで広範囲を覆った。




マリー•ユーティフルの名の元に、世界に広がる全ての精霊達を集い、我に力を与えよ。


『究極獄炎砲!!』



ユーティフル様は胸の前で両手を組み、詠唱終了と同時にその手を前に突き出した。

近くにいた私が溶けてしまいそうな程の灼熱の炎がアセルピシアに向かって放たれる。



究極獄炎砲は見事にアセルピシアの右足、ダイヤモンド部分に当たり、激しい衝撃音と煙と共にダイヤモンドが溶けていく。


ダイヤモンドの右足は20センチほどの半円の形で抉られていた。




いける

ユーティフル様の攻撃は通じている




そう思った瞬間、決して油断をしたつもりはない、ましてやアセルピシアから目を離してもいなかったが、私の側にいたユーティフル様は禁断の地に広がる木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされていた。



動きが、見えなかった•••



私は慌てて上空に飛ぶと、アセルピシアはゆっくりと私を見上げ、同じように上空に浮かび上がってきた。


浮遊している私の20メートル程先に、アセルピシアも浮かんでいる。



アセルピシアが攻撃に移れば、その動きは私には見えない。なら、先制あるのみだ。

私は全身の魔力を全て右手に集め、攻撃を開始する。




『アタミ(最大)』




最大火力のアタミを、広範囲に広がらないよう範囲を絞って放った。


真っ直ぐに凄まじい光を放ちながら進む『アタミ(最大)』を前に、アセルピシアは右手の竜を構え、同じような光線を放ってきた。


ふたつの光線が重なると同時に大地が震える程の爆発が起き、その衝撃で空中にいた私は数百メートル吹き飛ばされた。


私の全力のアタミに対し、アセルピシアはそれと同等の攻撃を一瞬で放ったのだ。

私の他の攻撃は通じるのか•••。



そう考えていた私の目の前に、あと1センチで顔が接触しそうな位置にアセルピシアの顔があった。



「やばい!!」



私は両手で防御の体制を取るが間に合わず、アセルピシアは右手を上から振り下ろし、直撃した私は凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。


地面は数メートルの深さ分、抉られており、私は口から血を噴いた。

自分自身に直ぐにヒールをかけるが、ダメージは治っても大幅に削られた体力までは回復しきれなかった。


一撃を受けただけで、激しい筋肉痛に襲われているような感じだ。


大の字で横たわる私の上では、先程吹き飛ばされたユーティフル様が打撃でアセルピシアに攻撃していた。



私の目でも霞むようにしか見えないユーティフル様のパンチ、キックといった両手から繰り出される打撃をアセルピシアは全て右手、右足で受け止めている。


しかし、アセルピシアは一瞬の隙を突き、私の時と同じように右手を振り下ろすとユーティフル様は地面に向かって打ち付けられた。


私は体を起こし、素早く移動すると、地面に向かって垂直落下しているユーティフル様を受け止めた。



『す、すまぬ。マリーよ』

「大丈夫です。それより•••」

『うむ。かなり強いの。余程高質量のブラックホールで誕生したのかもしれん』



2人で話していると、同時に体をビクッと震わせた。

大気と大地が震えている。


私達が上空を見上げると、アセルピシアは右手を上に掲げ、黒く渦巻く球を作り出していた。


『あれはまずいのー。シン、耐えられるか!?』

『恐らく、難しいかと•••』


先程から結界とバリアを張り続けているシンは、悔しそうな表情でそう言うと、首を横に振った。


『マリー、私達も結界を張るぞ』

「はい!!」


アセルピシアの右目がニヤリと三日月になったと同時に、右手を振り下ろし、黒く渦巻く球状のものを放った。


その黒い球は私達3人が張った何十もの結界とバリアを打ち破って進む。



バリンッ

バリンッ

バリンッ



『ここまでとはのー』

『神力が持たない•••』

「う、くっ」



3人が絶望を感じた刹那、黒い球は消え去った。


『な、なんなのだ?』

『はぁはぁはぁ』

「ぐぅ、はぁ••」


シンと私は、神力と魔力の限界からその場に仰向けに倒れ込んだ。



すると上空にいるアセルピシアが自然と視界に入ったのだが、アセルピシアは私達ではなく、違う方向、具体的には右側を向いている。



アセルピシアの右目が再び三日月に笑うと、一瞬でその場から消えた。



『ま、まずい!!やつめ、ピンクホールの元に向かいおった』

『何ですって!?』

「さ、サクラ!!」

『直ぐに追うぞ!!』



ユーティフル様はシンと私の手を掴むと、サクラのいるガーネットに転移をした。








★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



本作に登場する眩耀神様を主人公にした作品を近々にアップ予定です。

読んでもらえたら嬉しいです⭐︎



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