第104話 亜空間アセルピシア、現る
『あ、明日•••』
「「•••」」
あらゆる物質等を飲み込むブラックホールから稀に誕生する生物。
亜空間アセルピシア
その力は神をも超え、過去には地球の恐竜を滅亡に追いやった存在。
『それで、悪神様は一緒に戦っていただけるのでしょうか??』
『晦冥神かいめいしん様も眩耀神げんようしん様も明日は不在なのだ。不在でなくても、参戦してくれるとは思わんがのー』
『そう、ですか•••』
『だがな、私は一緒に戦うのだ』
『ユーティフル様が??』
『ここに通うと決めたからには、守らないといかんしのー』
神様同士そこまで話すと、ユーティフル様は私の目を真っ直ぐに見つめ、大きく息を吐いた。
『大丈夫だ。何とかなるわー』
「はい。神様がいれば百人力です!!」
正直に言えば怖い。
神様同士の反応から、きっとアセルピシアはユーティフル様より強いのだと思う。
けれど、この世界には私の好きな人がいっぱいいる。
そう考えた時、恐怖よりも守りたい気持ちが強かった。
やるしかないんだ。
「あのー、ひとつ聞いてもいいですか?」
『よいぞ』
「悪神って、悪ですよね?悪い神様じゃないんですか?」
この状況にも物応じしないユキは、私も気にしていた質問をしてくれる。
さすがはユキだ。
『悪い神様とな?そもそもだが、この世の始まりは悪なのだぞ』
「始まりが悪??」
『左様。この世に初めて生物を配置した際、初めの行動は殺生。生きるため、殺生するのだ。動物でも植物でも、生きいてるものを殺して生きるのだ』
「「•••」」
私とユキは何も言えなかった。
生きるため、生きているものを殺すことが『悪』ならば、動物を殺し、植物を殺して生きている私達は、悪そのものだ。
『全ては悪から始まった。だからな、悪神様は悪い神ではなのだ。少なくとも、私の知っている2人はのー』
「言いたいことは分かった、かな」
『ふむ。よろしい』
「もう一つ、いいですか?」
『好奇心旺盛な幼女じゃのー。嫌いではないがの』
ユーティフル様は、優しい表情で幼女のユキの頭を撫でる。
元は29歳の女性で、今は家だけど、まー、神様だからその辺は分かってるよね。
「悪神様は人間一人一人のレコードを作って、神様は人間を星に配置するのが役割なんですよね?」
『ざっくり言えば、そうじゃな』
「何で人間を配置するんですか?」
『ほう、良い観点ではないか』
「てへぺろ」
調子に乗ったユキは、いつものように戯ける。
『てへぺろ•••。良いではないか。少し練習をせねば。シン、人族の神なのだからお主から説明するのだ』
『わ、分かりました』
シンの後ろでユーティフル様は舌を出し、てへぺろの練習をしている。
今のところ、舌を出すたびに顔が引き攣り、美人が残念な顔になっている。
『それで、私が人を配置している理由よね』
「うん」
『それは、私達の後継者を育てるためよ。まぁー、同僚とも言えるかしら』
「神様を育てる!?」
『そうよ。前にも言ったけど、私は生きているしベースは人間。地球人が思っているよう存在じゃないの』
「う〜ん」
『ようは、地球の会社で例えると、あなた達人間は平社員で私は課長。ユーティフル様のような上位神が部長で悪神様が社長かしら。その上に私も知らない会長がいるって感じよ』
すごい例えだけど、少し分かった気がした。
平社員の人間から、課長に出世できる神様を探しているということだ。
「なるほど。じゃーさ、どうやって神様になる人を見極めてるの?」
『ユキは神に興味があるの?』
「いや、ない、訳でもないか、な」
『ふふふ。大丈夫。ユキは神様候補だから。もちろんマリーもね』
「「うそーー!?」」
お父さん、私出世しちゃうかもしれない。
課長だよ、課長。
マリー課長、この件ですが•••。
みたいな。
「おい、マリー。妄想から戻ってこい。候補って言われてもね。私達の今までの行いがよかったってこと?だとしたらおかしくない?」
「何が?」
「だって、私達のレコードないのよ」
「あっ!!」
レコード
悪神が人間1人1人に付与し、どのように生きて、どのように死んでいくかプログラムされているもの。
そのレコードが、私と、私に関わった人はないのだ。
『大丈夫よ。確かに今のレコードはないけれど、良い行いをすればちゃんと記憶庫に保存されるわ。因みに、今までの輪廻分もちゃんと記憶されてるからね』
シンが言うには、人はレコードを元に生きて、死んだ後は、もう一度レコードが付与されて基本、人間を何度も続けるそうだ。
その際、記憶庫に蓄積された善によってプログラム内容が変わるらしい。
それと、基本人間を続けるという意味深な言い回しは、蓄積された善によって魔物等になることもあるということだった。
「シンと真面目な話しをすると毎回疲れるわー」
「確かに」
『何よそれ、私が悪いみたいじゃないの』
『まあまあ、落ち着くのだ』
ユーティフル様は、すました表情で会話に入ってくると、自身ありげにあれをやった。
『てへぺろ』
見事に顔が引き攣り、練習の成果は出ていなかった。
『てへぺろ』で冷静さを取り戻した私達は、明日の戦いに備えて就寝することにした。
そそくさと解散した私達にユーティフル様は『あれ、あれ』と慌てていて少しだけ可愛かった。
そして次の日、私はシンとユーティフル様と共に禁断の地に来ていた。
ブラックホールで誕生したものは必ずワームホールから出てくるからだ。
ピンクホール、地球で言うホワイトホールで誕生したサクラもワームホールから出てきたしね。
家を出る前に、アイリスさんにマリーランドで開店する3つのお店の情報とメリーゴーランドの説明をしてきた。
お店やメリーゴーランドの準備は明日からすることになった。
「明日、ね」
私は普段と変わらない様子でそう言って、家を出てきた。
私がブレザーを着ていたため、可愛いと褒められたり、質問されたり、同じ物を用意して欲しいと色々あったけどね。
そんな中、ユキだけは不安そうに私を見つめながらも、みんなに悟られないように親指を立てて見送ってくれた。
禁断の地を歩いていると、会いたくない人物が現れた。
「変わったお客人だな。今日は何用か?」
私の天敵、神の遣いが現れたのだ。
相変わらず形は人だが、中央部分が透明、体の左側が漆黒の闇、右側は白く輝く、何とも言えない姿をしている。
『神の遣い』とは言われているが、ワームホール誕生と共に必ず生み出される生物で、神や魔神の眷属という訳ではない。
そのため、2人の神様を前にしても不遜な態度はそのままだ。
『亜空間アセルピシア。これだけ言えば分かるわね』
「•••」
神の遣いの表情は透明で分からないが、それでも今までにない焦燥を感じたような気がした。
「では、失礼する」
『賢明ね』
ワームホールの番人ともいえる神の遣いがあっさりと退避を始める。
亜空間アセルピシアの存在がますます恐ろしく感じた。
神の遣いは空中に浮遊すると、そのまま飛び立って行った。
飛び立った神の遣いを見ていると、不意に閃光が走り、空中にいた神の遣いの体が中央から真っ二つに切られた。
その閃光は私の直ぐ横を通り過ぎ、地面に亀裂が入った。
閃光を放った正体。
私の目の前には、空に浮かんだ女のような、それでいて魑魅魍魎な姿をした亜空間アセルピシアがいた。
★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★
本作に登場する眩耀神様を主人公にした作品を近々にアップ予定です。
読んでもらえたら嬉しいです⭐︎
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