第103話 ●●がないのと、もう1人のマリー様




『それで、神盤の方はどうなのかしら?』



シンはフライドポテトを摘みながら、神盤のその後を聞いてきた。

神盤は愛し合う二人が生命を授ける者として相応しいと認められれば、女性でも男性でも1人まで子供を授かることができるものだ。



「神盤を設置してから約2週間、徐々に利用者が増えてますよ」

「利用者が増えすぎて、神盤を運用する職員も探してるんだよね?」

『そうなのね。それは何よりだわ』

「来た人は、みんな幸せそうに帰って行くよ。シンのお陰だね」

『あら、私は何もしてないわよ』



そう言ったシンは、空のグラスを持ち上げてビールのお代わりを催促する。

私は缶ビールの蓋を開けてグラスに注ぐと、試作用というか自分用というか、こっそり作っておいたハンバーグを差し出す。


シンは注がれたビールは飲まず、グラスを床に置くと、直ぐにハンバーグを口に運んだ。



『はふっ、うん。美味しいわー。とてもジューシーね』

「私もー。これよこれ、地球の味!!」



ユキとシンはハンバーグの美味しさに高揚し、乾杯をしてビールを一気飲みする。

ビールを美味しそうに一気飲みする二人を何度か見て、私もビールに再挑戦したことがあるが、やはり、何が美味しいのか分からなかった。


「お肉もいいけど、やっぱり魚が食べたいな」

ハンバーグを一口食べ、その美味しさを噛み締めつつ、私は魚に想いを馳せる。


『さかな?』

「地球では海とか川にいてさ、刺身だったり焼いたり、とっても美味しいんだから」

『海。あー、水生のことね』

「多分それ」

「ねーシン。この世界の海はどこにあるの?」


『ないわよ』


「「へっ!?」」


私とユキは、マグロ?カツオ?さんま?と、何が食べたいかと揚々と話していたのだが、一瞬にして思考が止まった。


「ないって、海が?」

『そうよ』

「じゃー、川に魚は?鮭とかさ?」

『いないわよ』

「「なんでーーー!!」」


詰め寄る私達に動じる事なく、シンはハンバーグを一口食べる。


『この世界は、海もないしまだ水生のレベルじゃないのよ。海がなければ、川にも水生は生まれないわ』

「「そ、そんな•••」」

『マリーは、この大陸の境目に行ったことがある?』

「ない。それに、色々な人に聞いてもこの大陸の外がどうなってるか知らないって言ってた」

『そうでしょうね』

「だから、大陸の外は海が広がってて、船とかないから誰も知らないのかなって勝手に思ってた」

『ふ〜ん』


シンは腕組みをして、言うべきかどうか考えているようだった。


『まっ、今度自分で確認してみなさい。ひとつだけ教えておくと、この大陸の外にも生物はいるわよ』

「いけずー。そこまで話してー」

「このこのこのー」


ユキは幼女の体型を活かし、シンを擽る。


『こら、おやめなさい』


シンも負けじと擽り返す。


「平和だなー」

私は神様と幼女の擽り合いを眺めて呟く。



その時


神像が激しく揺れ出し、いつもの温かい光りてばなく、赤色の光が放たれた。


『これは、まさか!?』

「どうしたの、これ!?」

『跪くのよ!!』

「「えっ??」」

『いいから早く!!』


シンの慌てた様子に、私とユキは急いで神像の前に跪いた。


やがて、赤色の光が神像に吸収されると同時に、神像から眩い光を放ちながら1人の女性が現れた。


その女性はシン同様、神特有のオーラを纏っているため直ぐに神様だと分かった。

腰まで延びたシルバーの真っ直ぐな髪、絶世の美女の中に愛見える少女の面影、そして何よりお胸が大きかった。


ただ、一番目を引いたのは、美人なところでもお胸でもない、なぜか、私が行きたかった高校のブレザーを着ていたことだ。



『ごきげんよう』

『ようこそ、マリー•ユーティフル様』


マリー•ユーティフル?

あれ、聞き覚えが•••

前に私に加護をくれた上位神だっけ?


『堅苦しくするでないわ』

『はい』


マリー様•••、ややこしいのでユーティフル様はスカートの端を持ち、左右に揺らして私の前にやって来た。


『このブレザーなるもの、よいじゃろう?』

「正直•••、すごく羨ましいです」

『さすがは私と同じ名前のマリー。素直だのー』


お披露目できて満足気なのか、ニコニコしながらユーティフル様はその場で回り出す。


「この人、履いてないよ」

ふわりと舞い上がったスカートの中身を確認したユキは、小声で言ってくる。



『パンツとは?何なのかの?』

「ユキ、神様は人の心、読めるから」

「マジ!?」

『ほう〜。パンツとはそういったものか。次回からは履くとしよう』

「それで、ユーティフル様は何でブレザー姿何ですか?」

『なぜと言われても、そなたを見ていたらこのブレザーが浮かんでのー、かわいかったので取り寄せたのだ』


と、取り寄せた?

神の力とかで作ったのでなく?

ということは、本物の高校指定のブレザー•••

『地球物品創生スキル』で取り寄せできるかな•••


『それより、先程からこの良き香りはなんなのだ?』

「ハンバーグとビールです」

『ほう、こちらの食べ物かー。実に興味深いのー』

「ブレザーくれたら、奢りますよ」

『こら、マリー!!』


私の申し出に、シンが慌てて止めに入る。


『よかろう。何着かあるからな、1着くれてやろう』


ユーティフル様がそう言ったのと同時に、私の前に憧れのブレザーが現れた。


嬉しい。

これを着たいがために受験勉強していたのだ。明日から気分は高校生。



「ユーティフル様」

私はユーティフル様を見つめながら力強く親指を立てた。


それから光の速さで、ハンバーグ、ミルフィーユカツ、ステーキ、ガーリックライスを用意し、缶ビールをグラスに注いだ。

まぁー、『アイテム収納』から出しただけだけど。


『マリー、私の時と何か違わないかしら?』

「気のせいだよ」

『おぉー、これは壮観じゃのー。では、早速』


ユーティフル様は一口ハンバーグを食べると、カッ!!と目を見開き、次々と食べ始めた。

あっという間に全てを平らげると、ビールを一気に飲み干し、ぷはぁーっと、大きな声を上げた。


『うまい!!』

「ブレザーに比べればこれくらい」


私は上司に擦り寄る部下のように手をにぎにぎしながら言う。


『うむ、決めた。私もここに通うぞー!!だから、私の神像も作ってくれると助かるのー。苦労したのだ、他の神像から出てくるのわ』

「まぁー、神像なら直ぐに作れるので、それ位なら」

『それよりもマリー様•••、今日は言いづらいわね』


シンは私を見ながらぶつぶつと呟く。


『ユーティフル様。無理矢理私の像から来たからには、何か急用だったのではないのですか!?』

『そうだった。悪神様からの伝言で、この世界に亜空間アセルピシアが間も無く現れるそうだ』

『アセルピシアが!!』

「「悪神!!」」


私とユキは、シンとは違う反応をする。

アセルピシアが現れるのは聞いていたし、それよりも何よりも、『悪神』から伝言とはどういうことなんだ。

悪神はシンが私を殺すきっかけを与えた後、私を探していると言っていたではないか。



「悪神からって•••。悪神は私の所に来るの!?」

『???、来ないぞ???』

「うん??」

『シン。悪神様について、お主詳しく話してないのだろー??』

『そうでなかったとも、そうとも、言えると言いますか•••』

『まったくのー•••』


ユーティフル様は私を見ると、悪神について説明をしてくれた。


『悪神様は、今のところ3人だな』


今回、亜空間アセルピシアの出現を教えてくれた闇を司る晦冥神かいめいしん様。

闇とは逆に光を司る眩耀神げんようしん様。


そして、ユーティフル様が会ったことも、声を聞いたこともない、名前も知らないもう1人の悪神様。私を死ぬきっかけとなった悪神だ。



『色々聞きたいことはあるだろうが、さほど答えてあげられんし、今は亜空間アセルピシアに集中するがよい』

『それでユーティフル様。アセルピシアはいつ現れるのでしょうか?』



シンの質問に、初めてユーティフル様は険しい表情を浮かべた。



『明日だ』










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



今回登場した眩耀神様を主人公にした作品を近々にアップ予定です。

読んでもらえたら嬉しいです⭐︎




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