第102話 説教と、色々と




ヘロニモの侵略を阻止してから1週間が経っていた。

私はあれからエルネニーに滞在し、魔王フシアナとの契約のまとめやチョコレート屋さん開店に向けた準備をしていた。


チョコレート屋さんを開店する上で一番大事でいつも問題になる料理人については、色々話し合った結果、エミールさんが担当することになった。


結婚を期に、領主として働くリースさんを本格的に支えることも考えていたようだが、元々平民で料理を趣味としていたエミールさんは、チョコレート屋さんを運営することでリースさんとエルネニーの街の役に立ちたいと私達の前で話し、みんながその気持ちを尊重した。



魔王フシアナへのチョコレート配送に関しては、コカトリスに乗ったフシアナの幹部が直接取りに来ることになり、その際、砂糖も持って来てくれることになった。


街の人からすれば、魔族が街に来ることは怖いことかもしれないが、魔族が出入りしていることで他の街の領主がリースさんとエミールさんを害することに対して牽制ができる。

そのことを話したら、街の人も快諾してくれた。


もっとも、昨日領主のリースさん宛に魔王フシアナから約束の伝令が届いたので、周辺の牽制は必要ないかもしれない。


伝令はリースさんだけに届いた訳ではなく、人間が属する王国宛、つまり各国の国王宛に届けられている。

リースさんは今回契約する当事者であるため、エルネニーにも伝令が届いたのだ。


だけど、もしかするとガーネット、つまりアイリスさんには届いてるかもしれないな。

今日、無事に『マリーラ•チョコレート』が開店したため、ガーネットに帰るのだけど、何か言われそうだ•••。


いや、寧ろ博物館の事について私が強く抗議しなければ。

うん。そうだ。

偶には強気で行かなくちゃ。




そう思っていたのは数時間前。

ガーネットに帰ってきた私は、アイリスさんに説教をされている。




「マリーちゃん。この伝令は何なの!!魔王と契約ですって!?何でガーネットは入ってないの。いや、そうではなくて、契約なんてマリーちゃんは分からないんだから、ちゃんと私を介してくれないと」


「•••」


「分かってるのマリーちゃん!?私がメイズ国王とシャーロット王妃に説明しなければならないのよ!!」


「•••」


「それと博物館を勝手に作った、と言っていたけど、そもそもマリーちゃんの知らない所で毎日毎日毎日、このガーネットにはマリーちゃん目当ての人が押し寄せていたのよ」


「•••」


「冒険者ギルドにも協力してもらってマリーちゃん目当ての人の対応をしてもらっていたけど、もう限界だったの。だから、街の外に博物館を建設しているのよ」


「•••」


「因みに、まだ博物館は完成していないけど、あれだけの大人数で来られて、中には入れないなんて説明はできないから入場を許しているの。まだ、宿泊施設も飲食店も、飲食店も、飲食店も完成していないのに」


「•••」


「マリーちゃん、ちゃんと聞いてるの!?」


「はい。聞いてます!!」

「ちゃんと申し訳ないと思ってるの!?」

「はい。思ってます。ごめんなさい」

「なら、お願い聞いてくれるわよね!?」

「はい。私に出来る事なら」

「よろしい」



約3時間に及ぶアイリスさんの口撃は終わった。

口撃を止めてもらう条件は、マリー博物館改め、マリーランドに飲食店を3店舗出すことだった。


マリーランドに名称が変わったのは、宿泊施設や飲食店の建設の話を聞いた際、私が無意識に発した「レジャーランドでもあるまいし」の言葉だった。

レジャーランドを説明させられた私は、何かしらのアトラクションを1つ用意することも至上命令となった。


しかも、飲食店3つとアトラクション1つを考える期限が明日までだ。

アイリスさんは魔王や魔神より、よっぽど強い•••。




という訳で、私はいつもの神像のある部屋で、地球の友、幼児化したユキと一緒に話し合いをしている。


ただ、お店については、私の方であらかじめ決めていたものがあり、それをユキに話したら二言返事で賛同を得た。


1店舗目は、『マリーラ•クレープ』。

元々、王都ラミリアで出店を考えていたもので、準備もすぐに出来る。

レジャーランドにスウィーツは絶対だしね。


2店舗目は、『マリーラ•ハンバーガー』。

私が出すお店で初めてスウィーツ以外の店舗だ。

ガーネットであれば私もラーラ達もいるし、牛肉(モウモウ:ランクA)と豚肉(キラーピッグ:ランクA)の仕入れ?討伐?も可能。

ポテトともセットで販売する。


3店舗目は、『マリーラ•ステーキ』。

こちらもスウィーツ以外のお店で、牛肉(モウモウ:ランクA)の仕入れが可能なことと、パンに合うという理由から決めた。

個人的には合わせるならご飯の方がいいのだけれど、こればかりは提供が難しい。



「それにしても、肉ばっかりだな」

「いいんじゃない。レジャーランドってジャンクなイメージだし」


ユキとそんな会話をしていると、ふと疑問が浮かんだ。疑問というより、食べたい欲求かもしれない。


「魚、食べてない•••」

「私も魚食べたい。エビフライも」

「この世界に来てから、不思議と魚を見たことないかも」

「えっ、マジッ!?」

「うん。お店にも並んでないし」


ユキはこの家自身なので外の情報には疎いのだが、魚を見たことがないと聞いて、両手を組んで悩み出した。


「私、家のまま移動したことあったでしょ?あの時、川を跨いだんだけど、魚見なかった」

「私も川は何回も見てるけど、魚影すら見たことない」

「「•••」」

「まー、今度海にでも行ってみようよ」

「そうだね。海はあるだろうし、そうしよう」


私達は海に行く事で落ち着き、話をアトラクションに戻した。


「ジェットコースターは無理だよね?」

「危ないし、きっと高い•••」

「観覧車は?」

「危ないし、きっと高い•••」

「マリー、そればっかね」


アトラクションを作るといっても、実際には『地球物品創生スキル』で買うのだ。

ジェットコースターや観覧車は絶対に高い筈だ。


「メリーゴーランドは?」

「メリーゴーランドか。あれなら子供も安全だし、ジェットコースターとかよりは安そう」

「カタログ、見てみれば?」

「う、うん」


『地球物品創生スキル』と『家計簿スキル』を組み合わせると品物と値段が確認できる。

私は恐る恐るメリーゴーランドを選択しようとして、止めた。


私は素早く神像の前に今日のつまみであるフライドポテトとビールを置いて祈り始めた。


「綺麗な綺麗なシン様。何卒、何卒、よきに計らいたまえー」


そして、私は改めてメリーゴーランドを選択し、値段を確認した。ユキも一緒にステータス画面を覗き込む。



メリーゴーランド(馬40、馬車2)

値段:12,000,000G



「「高っ!!けど、安!!」」



そう。高いけど安い。

しかも、馬40、馬車2ということはかなりの規模のメリーゴーランドであり、それから考えると破格の安さだ。

あくまで予想だが、本当は120,000,000Gだったのではないだろうか。



『ふふふ。綺麗な神様が来ましたよー』



御供物をしてから直ぐに、上機嫌なシンが現れた。

うん。予想じゃない。絶対に120,000,000Gだったに違いない。



何はともあれ、明日までのアイリスさんの宿題は終わったので、久々にシンと飲む事にしよう。


私はジュースだけど。




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