第20話 初めての魔族領と、カサノヴァの異変

翌朝、アイリスさんとアイラを王宮に残し、私達はラミリアの外に出た。

少し走ったところで脇道に逸れ、ラーラとナーラはドラゴンに変化した。


魔王国ヴィニシウスは馬車で30日、カサノヴァまでは10日、ドラゴンが本気で飛行すれば数時間らしい。


「みんな、今日中に終わらせて、夜は美味しいご飯だよ」

「はい!!」

ラーラ、ナーラ、サーラが元気良く返事をする。


「よし、じゃー、みんな出発ー」

私を乗せたラーラが西に、サーラを乗せたナーラが東に飛び立った。


「魔王国がある西の大陸はどんな所なのかな?」

「魔族か人族かの違いはあれど、国の中枢に城、街が幾つかあり、魔物もいる、東の大陸と変わりません」

「そうなんだ」


う〜ん、少しは旅行気分を味わいたかったんだけど。

この世界のご飯は美味しくないし、西大陸料理、なんてご当地物があっても期待できないだろうな。

けど、塩•胡椒はあるらしいから、それだけは手に入れたい。



2時間程飛行すると、大きな門が見えて来た。


「あれが、ヴィニシウスの入り口、魔門です」

近づくととてつもなく大きい。

形はフランスの凱旋門に似ているが、大きさが遥かに違う。

縦横200メートル、奥行きも100メートルはありそうな大きさだ。


「ここから先は魔族領です。念のため、警戒をお願いします」

魔門を潜り抜けると同時にラーラが言った。


私は探知スキルを使う。

地上にも上空にも魔物の反応が多数存在した。

上空に関しては、目視でも確認できる。

ラーラより圧倒的に小さいが、20メートルはありそうなドラゴンが何体か見える。


探知スキル•判別スキルを使うとワイバーンと表示され、Aランクの魔物だった。


「ワイバーンがいるけど、このまま飛んでいて大丈夫かな?」

「ワイバーン如き、問題ありません。私を見て普通なら逃げる筈です」

流石赤竜、頼もしい。


ワイバーンに近づくと、ラーラが言った通りワイバーンは私達から距離を取った。


ただ、一際大きなワイバーンだけは、私達を睨み、上空で待機している。


戦いになった場合、私は空では動けないし、武器もないし、魔法を使うと素材が手に入らないし。

やっぱりラーラ頼みかな。


ワイバーンの横を通り過ぎようとした時、ワイバーンが鳴き声を上げ、口から炎を吐いてきた。

私は素早くラーラを覆うようにバリアスキルを発動。

炎は消滅した。


更にワイバーンは羽を器用に使い、風を起こしてラーラの飛行を妨げようとしてきた。

しかし、これもバリアに当たると直ぐに消滅した。


攻撃されたことに怒っているのか、ラーラの体から赤いオーラが出ている。


「下等なワイバーン如きが!!我が主人を馬鹿にしよって!!」

ラーラは猛スピードでワイバーンに近づくと、尻尾でワイバーンの頭から背中にかけて激しく攻撃した。


攻撃されたワイバーンはVの字ように体が変形し、なす術もなく地上に叩き落とされた。

私達も後を追って地上に降りると、ワイバーンが白目を剥いて死んでいた。


私はアイテム収納にワイバーンの死体を格納した。


「ラーラ、ワイバーンが私のこと悪く言ったからあんなに怒ったの?」

「はい。主人を虫ケラ呼ばわりしてきましたので」

「ありがとう」

私はドラゴン姿のラーラにお礼を言うと、ジャンプして頭を撫でた。


「あっ、あう」

ラーラが変な声を出す。


「さっ、行くよー」

「はっ、はい」

ラーラは私を乗せて、再び上空に舞い上がった。


しばらく進むと、高い壁に囲まれた城が見えて来た。

壁の中には城のみがあり、壁の外に家屋が見られた。


「普通は壁の中に街があるのに、ここは外にあるんだね」

「魔族を襲う魔物は滅多におりませんので」


なるほど


私達は街から少し離れた場所に降り、ラーラは人型に変化した。


「ねー、人間が街に入っても大丈夫かな?」

「問題ないと思います。最近の魔族は私がドラゴンと言うことも判別できないでしょうし」

「そうなの?匂いとかで分かるんじゃないの?」

「元々は鋭い直感で相手の正体や力の強さが分かったのですが、魔族というだけで魔物も人族も誰も刃向かってこない状態が続き、鈍ったのです」


そういうものなんだね

にしても、ラーラは詳しいな


「流石ドラゴン。何でも知ってるね」

「私の部下が領地毎に管理を行っていますので、情報は直ぐに入ってきます」


当たり前だけど

ラーラ、ナーラ、サーラ以外にも

赤竜はいるんだよね


「それでは、参りましょう」


私達が街に向かって歩き始めた時、私の指輪が光った。

どうやらナーラからのペアリングのようだ。


「ナーラ、何かあった?」

「マリー様。カサノヴァの街を調べているのですが、それが•••」

「どうしたの?何かされた?」

私は慌てて聞く。


「いえ、私とサーラは無事です。ただ、街の状態がおかしいのです。

人が誰もいないのです」

「えっ??」


街に人がいない

どう言うこと?

カサノヴァ王国の王都カサノヴァの街だよ

人口もそれなりにいるはず


「お城の方はどう?」

「城は今確認中ですが、人の気配はします」

「分かった。もうちょっと調べてみて。

でも、危なくなったら逃げてね」

「畏まりました」

私はペアリングを終了した。


「奇怪ですね。私達もこの先、気をつけた方がいいかもしれません」

私は静かに頷くと、街に向かって歩き始めた。


壁も門もないため、家屋や店が見え始めてようやく街に入ったことを確認した。


当たり前だが、魔族がいっぱいいる。

見た目は、私と余り変わらない人間のような魔族、角が生えてる魔族、二足歩行の熊のような魔族、色々いる。


ただ、街にいる魔族は、私達を物珍しそうに見ては来るが、それ以上何もしてこない。


私も物珍しく色々見ていると、塩と胡椒を売っているお店を見つけた。

私は飛びつくようにお店へ駆け寄った。


「珍しいな。旅人か?」

二足歩行の鹿のような見た目をした店主が私に聞いてきた。


「はい、そんなものです」

「うちはいろんなスパイスがあるから、ゆっくり見ていきな」


店主が言うように、塩、胡椒以外にも、ターメリックやレッドチリ、クミン等が売っている。


カレーだ

カレーが作れる


ん?

まさか、あれは

私の目に見慣れた食べ物が入った


「もしかして、それはニンニクでは?」

「よく知ってるな。あんまり人気ないんだが」


ニンニクが人気ない?

何を馬鹿なことを


「ラーラ、ニンニク好きだよね?」

「いえ•••、このように臭く、辛いものは•••」


辛い?

もしかして、こっちの世界では生で食べているのか?

なら、本来の美味しさを教えてあげないとね。


「店主、ここのスパイスとニンニク、あるだけ全部ちょうだい!!」

「本当かい、毎度ー」

私の横で、ラーラの顔が引き攣っている。

それには構わず、お金を払い商品をアイテム収納に仕舞った。


「嬢ちゃん。いっぱい買ってくれたから忠告するけど、城の方には行くなよ」

店主が小声で言ってくる。


「どうしてですか?」

「同じ魔族でもあいつらは異常だ。

城にいるってだけで偉くなったと勘違いして、気に入らないと直ぐに暴力さ」


人間も魔族も、本当に変わらないな


「ありがとう」

私はお礼を言って店を後にした。


店主の優しい忠告は有り難かったが、私達は城を目指した。

城は壁に覆われ、門には角を生やした魔族が6人?6体?いた。


「ラーラ、このまま正面から行くよ」

「畏まりました」


私達が歩いて門の前まで来ると、魔族達が不遜な態度で話しかけてくる。


「バカ共、止まれ」

「何をしに来たんだ?俺たちの妾になりに来たのか?」

ラーラの体から赤いオーラが出始めている。


「私は魔王様に謁見を求めてきました。ここに親書もあります」

「はー?お前らみたいな奴らに謁見させるか、バカか」

「いいからちょっとこっち来いよ」

魔族がラーラの手を捕まえようした時、ラーラのオーラが解放され、辺りが圧迫感で覆われた。


「このクソガキ共!!相手の強さも分からない程愚かになったのか!!」

「な、なんだと!!」


そう言って門番が殴りかかってきたが、ラーラは相手の胸に右手で手刀を叩き込んだ。

門番は数十メートル吹っ飛び、壁に激突した。


それを見て、残り5体の魔族が一斉に襲いかかってきたが、私とラーラは難なく返り討ちにした。


「マリー様。やはり魔族の品位は完全に失われたようです。魔王の所に着くまでバカ共は今のように襲ってくると思います」

「だろうね」

ここまで話が通じないとは•••。

一応、メイズ国王の親書も預かってきたんだけど、まるで意味がないね。


「ですので、魔王の所まで一気に行きましょう」

「場所分かるの?」

「はい。城の最上階です。ここからジャンプを繰り返していけば普通に着けます」

「じゃー、そうしようか」


最初の想定と大分違うけど、しょうがない


私とラーラはジャンプして、最上階に向かった。


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