第19話 本物の料理と、一抹の不安

私は今、パンと云われるものを握って固まっている。



====


昼食の準備が整い、私達は大食堂に案内された。

大食堂は長方形の大きなテーブルが並び、窓から日差しが綺麗に差し込む部屋だった。


先程のメンバーが揃うと食事が始まった。

テーブルにはスープとパン?、メインと思われるお肉が並んでいる。


そして、冒頭のパンに至る。

パンを手にした私は固まってしまった。

あまりにもパンが硬いからだ。


周りを見ると、スープに浸けて食べようとする者や、ナイフで切ろうとしている者もいる。

だが、食べれた者は今のところいない。


いや、食べれる人いないでしょ•••

これ、野球ボールより硬いし

無理に食べようとしたら歯が折れる


「これは、嫌がらせとかではないんですよね?」

私は隣にいるアイリスさんに小声で聞く。

アイリスさんは意図が分からないのか、首を傾げる。


「パン、硬くないですか?」

「パンとはこう言う物よ」

質問の意図が分かったアイリスさんは答えてくれる。


「それにスープを見て。塩と胡椒が使われているわ。お肉も大きいし、これは最大限のもてなしよ」


えっ•••

う、うん

パンはたまたまだ、きっと


私はスープを飲む

微かに塩•胡椒の味がするが、基本お湯だ


私はお肉を食べる

部位という事を気にしてないらしく、筋がいっぱいで切れない

しかも、油で揚げている?だけのようにベトベトで味はない

いや、塩•胡椒使うのここでしょ


私は手を止めて周りを見る。

みんな、殆ど食べてない。



「少し早いが、カサノヴァの魔王国ヴィニシウスへの献上品、菓子なるものを皆に配ってくれ」

メイズ国王が給仕に指示を出す。


いや、絶対この食事から逃げたでしょ


しばらくして、私の前に黒いクッキーのような物が運ばれてきた。


「ほう、これが菓子か」

メイズ国王がクッキー?を眺めながら言うと、口へ運んだ。


「こ、これはうまい!!」

メイズ国王の声を発端にみんなが食べ始める。


「確かに、これは美味です•••」

メレディスさんが言う。


アイリスさん、アイラ、ラーラ達のガーネット組は先程の食事よりは反応しているが、メイズ国王、メレディスさん程ではない。


私もクッキー?を口に入れる。

こ、これは•••

黒いのはほぼ焦げてるだけだし、蜂蜜は最後に少し感じるだけ•••



「くそ不味い•••」



皆が一斉に私の方を向く。

心の声は私の口から漏れていたみたいだ。

こうなったらヤケクソです。


私はアイテム収納から机、ガスコンロ、フライパン、お皿、材料、空間収納からホームベーカリーを取り出した。


「ちょっと、ここで料理をしてもいいですか?」

ガーネット組が目を輝かせる一方、メイズ国王、メレディスさんは戸惑っているようだ。


「魔王国ヴィニシウス、私の料理で何とかなるかもしれません」

「それは誠か?」

「はい!!」

「魔王国ヴィニシウスを抑えることができれば情勢は大きく変わる。

マリー嬢、よろしく頼む!!」



私はまず、モウモウのサーロインの部位を出し、ステーキ用に切った。

「すいません。塩と胡椒をお借りできますか?」


私の要望にメイズ国王が給仕に指示し、直ぐに塩と胡椒が届いた。


私はサーロインに塩、胡椒を振りかけ、フライパンで焼き始める。

焼いてる間にホームベーカリーから完成しているパンを取り出した。

部屋中に焼き立てのパンの香りが広がる。


サーロインが焼き終わると皿に盛り(材料がないので付け合わせはなし)、パンと一緒に出した。


「まずは、食事からです。どうぞ食べて下さい」

「いただきます」

ガーネット組が素早く食べ始める。


「や、柔らかい。これがパンなの??」

「すごいわ。穀物の心地よい香りが広がるわ」

「お肉もナイフで簡単に切れます!!」

「口に入れたらとろけました」

ガーネット組の怒涛の絶賛に、メイズ国王とメレディスさんも食べ始める。


「な、なんだこれはーーー!!」

「美味しい•••。美味しいなんてものじゃないです。死んでも構わないくらい美味しいです」


私はみんなが食べてる間に醤油ベースのソースを作り、ステーキ丼を用意した。

ステーキ丼は更にみんなの胃袋を掴んだ。



ふふふ

これが本物の料理

素材を生かすのと、素材のまま使うのは違う


そしていよいよスウィーツ



私は朝お預けをくらったパンケーキを出し、半分に切り(6人分しか作っていないため)、上から蜂蜜をかけてみんなの前に置いた。


「これよ。朝からこのパンケーキが頭から離れなかったの」

「ああー、ようやく食べられます」

アイリスさんとアイラがそう言ってる間に、ラーラ、ナーラ、サーラは食べ始めていた。


「私達は、マリー様の眷属であることを誇りに思います」

3人は泣いていた。


もしかしたら、朝のお預けの所為で、王様に突っかかったのかな?


メイズ国王とメレディスさんはと言うと、パンケーキを食べ、そのまま固まり、涙を流していた。


「これでいける!!

魔王国ヴィニシウスはこちらについたも同然だ」

泣きながら、メイズ国王が言う。




私はカサノヴァが用意した黒焦げクッキー風を手に取り考える。

つい調子に乗って料理をしてしまったが、冷静に考えると引っかかる。


だって、このクッキー風は不味すぎる。


いくら普段の食事が不味すぎるからと言って、こんな物で魔王を買収できるのか。



「サーラ、パンにお肉を挟んでるの?」

ラーラの声で現実に戻る。


「ラーラもやってみろ。これはかなり行けるぞ」

「本当だ。美味しい。こんな食べ方を考えるとは、サーラも悪よのう〜」


悪よのう〜

お主も悪よのう〜

お代官様

お菓子の下に小判

何かの番組で、こんな昔のシーンを見た気がする。


この黒焦げクッキー風はただのカムフラージュ?



その夜、私とアイリスさん、アイラ、ラーラ、サーラ、ナーラで今後の作戦について相談した。

その時に、私は自分が抱いた疑問も話した。


「確かにそうね」

「メイズ国王とメレディス様は美味しいと言ってましたけど、私にはそこまで感じませんでした」

アイリスさん、アイラが言う。


「私達は今朝、マリー様に作っていただいたホットケーキの甘い豊かな香りを嗅いでいた影響もあったのかもしれませんが、あの菓子は美味しいとは思いませんでした」

ラーラの言葉に、サーラ、ナーラが頷く。


「もしかすると、急激に奴隷を増やしているのと関係があるのかしら?」

「奴隷を遣って何かをさせている•••。ありえるかもしれない」

私はアイリスさん、ラーラの言葉を聞いて、素直に納得した。


「カサノヴァ王国も気になるけど、やっぱり魔王国ヴィニシウスが優先かな」

私の言葉にみんなが頷く。


明日の朝、私とラーラで魔王国ヴィニシウスへ向かい、ナーラとサーラでカサノヴァ王国の偵察をすることに決めた。


「あっ、そうだ。これ渡しとくね」

私は1人づつ指輪を渡した。

なぜかみんな、顔を赤くして指輪を見つめている。


「わ、私達はマリー様の眷属ですから、主人様が望むのであれば、この身をいつでも•••」

「子供がいるのだけれど、構わないかしら?」

「お姉様とは言え、血の繋がりはありませんから•••」



おーい

みんなー



「この指輪には私のペアリングスキルが付与してあるんだよ」

「ペアリング?」

「遠くにいても、いつでも連絡が取れるんだよ。ラーラ達ドラゴン間のテレパシーみたいなやつと一緒だよ」


私はラーラに部屋の外に出てもらい、少し距離を取ってもらった。


「ラーラ、聞こえる?」

「き、聞こえます」

「凄い。ラーラさんの声が聞こえます」

アイラが驚いて、自分の指輪に向かって話しかける。


「ただし、これは1対1でしか話せないの。

だから、今みたいに私がラーラと話している時は、アイラは話せない」

アイラは頷いた。


「それと、私とのペアリングだから、私としか話せないの」

それは問題ないと言わんばかりに、みんな軽く受け流した。


「この指輪で連絡を取りながら、明日から頑張ろう。みんな、よろしくお願いします」



みんなで意識を合わせ終わると、明日に備えて就寝した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る