第18話 再会と、魔王国

馬車が王宮の入り口に着くと、両脇に兵士を30人位配列させた道ができていた。

まるでレッドカーペットみたいだ。


私達が馬車を降りると、1人の女性が迎えてくれた。


「私は王宮執事の1人、ユラと申します」

ユラさんは薄いピンク色の髪を纏めていて、いかにも仕事が出来そうな格好、雰囲気を醸し出している。


「この度は、遠路遥々、ありがとうございました。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

私達はユラさんの後に続いてレッドカーペット(風)を歩いて行く。

両脇にいる兵士を良く見ると、女性が多かった。


こっちでも男女雇用機会均等法なのかな?


変な事を考えながら歩いてると、門のように大きな扉の前に着いた。

両脇にいた兵士が扉を開けると、体育館より広いエントランスがあり、正面には上階へと繋がる階段と壁画があった。


外から見た王城もかなり大きかったけど、中に入ると一層大きさを感じる。


私達は階段を2つ分上がり、3階の一室に通された。

その部屋は大きな円卓があり、窓からは王都の景色を一望できた。


私達が着席すると、メイドさん6人でお茶を用意してくれた。


1人に対してメイドさん1人だよ

メイドカフェだってそんなにサービスしてくれないよね?

行ったことはないけれど


「もう少々、お待ち下さい」

ユラさんがそう言って部屋を出て行く。

メイドさん6人はそのまま部屋の隅に待機している。


苦手な雰囲気

早く帰りたい


しばらくすると、部屋の扉が勢いよく開いた。


おっ、敵襲か

と思ったが、そこにはどこか見覚えのある顔が並んでいた。


「マリー•アントワネット様」

見事にドレスアップされた綺麗な女性がそう言って私の元まで走り出してきた。

驚いた私も席を立ち挨拶をする準備をした。


が、何故かそのまま抱きつかれてしまった。


んっ?

なんだこの展開は


私が困っていると、一緒に部屋に入ってきた騎士が女性に話しかける。


「メレディス様。マリー様が困っていますので、どうか離れて下さい」

女性が離れるのと同時に、アイリスさんとアイラの顔色が変わり、直ぐに席を立ち、その場に跪いた。


女性が正面を向くと、今度は部屋に入ってきた騎士5名とユラさん、メイドさん達が跪いた。


部屋の中で立っているのは、その女性と私で、ラーラ、ナーラ、サーラはそのまま席に座っている。


「失礼しました。

改めまして、マリー•アントワネット様。

ラミリア王国第一王女、メレディス•エル・ラミリアでございます」


この顔

この名前

あっ!!

確か、青龍退治に行く途中で野盗に襲われていた•••


「あーー!!あの時のメレディスさん?」

「そうです。あの時のメレディスです」

メレディスさんは思い出してくれたのが嬉しいのか、目を輝かせている。


「マリーお姉様、早く跪いて下さい。お姫様ですよ」

「ラーラ達も早く」

アイラとアイリスさんが小声で言ってくる。


「マリー様以外の人族に跪くなど、ありえん」

ラーラが言う。


「どうか皆様、顔を上げて下さい。

私に敬語や殊勝な態度は必要ありません」


跪いていた全員が顔を上げる。

すると、女性騎士2人が私に近づいてくる。


「マリー様。私のことは憶えておりますか?カルラです。あの時は助けていただき、ありがとうございました」


おおー

今、思い出した

と言うのは黙っておこう


「マリー様。私はイグニスと申します。あの時は、瀕死の状態の私を救っていただき、ありがとうございました」

イグニスさんは私に跪いてくる。


「いやいや、止めて下さい。

元気な姿を見れて、私も嬉しいですから」


「ちょっとマリーさん。先程からあの時とは何なんですか?メレディス様とはどこで?」

痺れを切らしたアイリスさんが会話に割り込む。


私達は円卓に座り、「あの時」のことを全員に話した。


「青龍退治の途中、そのようなことが」

「寧ろ、青龍を退治したとは」

アイリスさんとカリムさんが異なる感想を言う。


「それでマリー様、今回書状を送ったのにはお礼をさせていただきたいことと、もう一つ、お願いがございまして」

メレディスさんがそう言った時、扉がノックされ、護衛を連れた40歳位の男性が入ってきた。


姫様の次に来るのは

大抵決まってるよね


「お父様」


うん、やっぱり

王様だ


みんなが王様に跪こうとした時、ラーラ、ナーラ、サーラが素早く動き、王様の前に位置した。


王様の護衛が怯みながらも武器を構えた。


「こちらにいるマリー様は赤竜を眷属に置く我が主人だ。

マリー様も私も人間の慣習には習わない」

ラーラはそこまで言うと、赤いオーラを放ち始めた。

部屋中を圧迫する大きな力が漂う。


私とラーラ、ナーラ、サーラ以外はその場に立っているのが精一杯という状態だ。


「貴様が王族なら、このオーラの意味は分かるな」

オーラを消しながらラーラが言った。


「お、お主は赤竜か」

「そうだ」

「安心せい。元より、私はマリー嬢に首を垂らさせたりするつもりはない。

寧ろ、頭を下げるのは私の方だ」

王様が言うと、ラーラ達は席に戻り、何事もなく座った。


王様の護衛達は武器を下ろすと、その場に腰を抜かした。


「お前達とメイドは1度部屋から退出してくれ」

護衛達は何かを言おうとしたが、赤竜以上の護衛はいないと観念したらしく、部屋を出て行った。


今部屋には、王様、メレディスさん、カルラさん、イグニスさん、アイリスさん、アイラ、ラーラ、ナーラ、サーラと私だけだ。


にしても、ラーラ達はまったくもう。

私は日本人だから、周りに合わせてきっと跪いていただろうけど、あんな啖呵切らなくても。

まぁ、赤竜の誇りもあるんだよね、きっと。



「改めて、私は国王のメイズだ」

私達も軽く自己紹介をした。


「今回、赤紙召集したのは、隣国、カノサヴァ王国のことだ」

もちろん、私は初めて聞く国名だ。


「カサノヴァ王国の国王カサノヴァ、名前に自分の国の名前がついてる傲慢なやつなんだが、どうやら国民を奴隷にしているらしいのだ」

「元々彼の国は奴隷をぞんざいに扱うことで有名だったのですが、ここ最近は酷くなる一方で」

メイズ国王とメレディスさんが頭を抱える。


「一応、我が国にも奴隷はいる。

ただ、それは借金が返せない者や職や住む場所を失った者が自らの意思でなるものだ。

そして、法律によってぞんざいな扱いは禁止している」

「カサノヴァは自国の法律を改正し、奴隷を王国の指名制度にしたんです」


酷い

気に入らなければ奴隷にする

要はそう言うことだ


「しかも、奴は奴隷指名制度を反対した自分の娘まで幽閉しよった」

「カサノヴァの娘、ルミナーラは私の幼い頃からの友達でして、幽閉されたと聞き、謁見に向かったのですが•••」

「カサノヴァめ、国に着く前にメレディスを襲いよった」


もしかすると

あの時襲われていたのは


私はメレディスを見ると、彼女は頷いた。


「マリー様に助けていただいた後、20人の野盗を調べたのですが、全員、カサノヴァ王国の騎士でした」

「まさか、隣国の姫君を狙うなど、正気の沙汰ではありませんわ」

アイリスさんが言う。


「あれ以降、私を狙い続けているという情報もあります」

「もしかして、こいつらもそうかな?」

私は牢屋収納の入り口を開いた。

まだ全員、ぐっすり眠った状態だ。


ラーラ、ナーラ、サーラ以外が全員驚いてその場に立った。


「マリー様、これは一体」

「ここに来る途中の街道に隠れてたから捕まえたんだよ。

あの時と同じで、格好は盗賊だけど、何か違うから、こいつらもカサノヴァと関係があるのかな、と思って」

私はメレディスさんの問いに答えた。


「後で話を聞く必要がありそうだな。

カルラ、イグニス、こいつらを運んで尋問しろ」

「はっ!!」

2人は返事をすると他の護衛を呼び、20人の男達は運ばれて行った。


「先程の者どもも、カサノヴァの刺客かもしれん。礼を言う」

メイズ国王が言うと、メレディスさんも頭を下げてきた。


「いいえ。まだ分かりませんし。

それより、さっきアイリスさんも言ってましたけど、姫を狙うって、戦争でもしようとしてるんですか?」

「確かに変ですね。ドラゴンでも仲間にできない限り、人国の戦力にさほど差はないはず」

私に続いて、ラーラが言った。


「メレディスのことは奴隷にしたいのか、人質か、ルミナーラの説得役か、目的は不明だ。

だがな、奴らが強気なのは、魔王国ヴィニシウスと手を組もうとしているからだと、そういう情報がある」


魔王国

この世界に魔王がいるのか

私に魔神スキルをくれたラソ•ラキティスもそんなことを言ってたような?


「魔王国って、どこにあるんですか?」

私が小声でアイリスさんに聞くと、それを見ていたメレディスが答えてくれた。


この世界は陸続きのひとつの大陸

(と言われいる。船もなく、他は調べたことがないのが事実)

大陸の左半分を魔王国の4カ国が占め、

大陸の右半分の7割を人国の20カ国が占め、

大陸の右半分の3割が未開の地らしい



「魔王国となると、迂闊に手は出せん。

ルミナーラや無実のカサノヴァ国民、戦争となれば我が国の民すら守ることが•••」

メイズ国王は、憤る気持ちを押し殺しながら言った。


「そこで私は、マリー様に協力を得たいと思い、書状をお送りしたのです」

メレディスさんは私の目を真剣に見つめてくる。


「勝手なお願いであるのは重々承知しています。危険もあるかと思います。

ただ、あの時のマリー様の姿を見て、私は成功の可能性ではなく、成功を確信してしまったのです」

「わしからもお願いする。

ルミナーラと民を救って欲しい」

メレディスさんとメイズ国王が頭を下げる。


それを見たアイリスさんとアイラは、王族2人が頭を下げている状況に驚き、そのまま固まっている。


「簡単に引き受けられないのは分かっています。

もし、成功報酬に私を望まれるなら、喜んでこの身を捧げます」


な、何言ってんだろう

私は女の子だよ

えっ

私、男の子だと思われてる?


「分かりました。

引き受けますから、頭を上げて、そんなこと言わないで下さい」


「誠に引き受けくれるのか?」

「はい。ただ、ルミナーラ姫と街のみんな、罪のない人は救いますけど、後は容赦しませんよ。

それと、作戦は私とラーラ、ナーラ、サーラで考え、実行します」

「了解した。情けないことに、私達には策すらないのだ」

メイズ国王が力無く言った。



「それにしても、可笑しな話だな」

「魔王国は人国のことを嫌い、干渉はしないか、もしくは叩きのめすかのどちらか」

「余程の条件を出されたのか•••」

ラーラ、ナーラ、サーラが言う。


「カサノヴァが魔王国ヴィニシウスの魔王へ献上した菓子とやらを偉く気に入ったようだ」


ん?

菓子?

瑕疵?

歌詩?


「菓子とは何ですか?」

アイリスさんが聞く。


「菓子とは、蜂蜜と小麦粉を混ぜて焼いた食べ物のことらしい」


あっ

菓子なんだ


「今日、密偵から手に入れることができた。

ちょうど昼食の時間だ。食事の最後にでも出すとしよう」


王宮のご飯、これは楽しみだ。

しかし、この世界にお菓子があったとは。

もしお菓子が美味しいなら、カサノヴァ王国、なかなか侮れないかもしれない。


私は人とは異なる観点から

気を引き締めるのであった



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