第17話 お預けと、王都
私は渋々立ち上がり、携帯ハウスのドアを開けた。
「朝から申し訳ありません」
そこには恐縮するアイリスさんの執事、ガイスさんの姿があった。
「とりあえず中へどうぞ」
「いいえ。恐れ入りますが、直ちに出発の準備をする必要がございますので、アイリス様、アイラ様、屋敷までお戻り下さい」
お、私は関係ないのでは
「マリー様、ラーラ様、ナーラ様、サーラ様も準備を整え、直ぐに屋敷までお越しください」
ふっ、そうだよね
「事情は屋敷で話しますので、何卒お急ぎ下さい」
ガイスさんはそこまで言うと、強引にアイリスさんとアイラの手を引っ張り、去って行った。
アイリスさんとアイラが連れ去られながら、ずっとホットケーキを見ていた。
私はホットケーキをアイテム収納に格納した。
アイテム収納なら出来立てを維持したまま仕舞って置けるけど、そうじゃない。
今、食べたいんだよーー
女子中学生が5日もスイーツなしなんて
どんな仕打ちなの•••
ラーラ、ナーラ、サーラも、目の前でホットケーキが消え、ナイフとフォークを持ったまま悲しんでいる。
いや、これは怒ってるな
3人の体から赤いオーラのようなものが漂ってる。
もしかしたら、私も出てるかもしれないけど。
「とりあえず、準備して行こうか」
「は、はい」
ラーラ達に昨日出した私服を渡すと、一気に表情が明るくなり、3人に抱きつかれた。
少しだけ、機嫌は良くなったようだ。
因みに、想像通り私はセーラー服だよ。
準備を終え、携帯ハウスを仕舞って屋敷に向かう。
屋敷は未完成だが、外に地下室に通じる入口があり、私達はそこから中に入った。
地下室は想像以上の広さで、個室も整備され、トイレ、お風呂もあるみたいだ。
確かに、ここなら充分暮らせる。
私達が地下に着くと、ガイスさんが出迎えてくれた。
「お越しいただき、ありがとうございます」
そう言われ、応接室に案内された。
ガイスさんがお茶の準備をしていると、メイドに付き添われたアイリスさんと、アイラが来た。
2人とも見事にドレスアップしている。
あれ?
ラーラ達も普段のドレスの方がよかったのかな?
私が考えていると、席に座ったアイリスさんが話し始めた。
「ラミリア王国の王宮から書状が届いたの」
ほう、ラミリア王国?
「そこには、私とアイラ、マリーさんに早急に王宮に来て欲しいと書いてあるわ。
もちろん、護衛としてラーラさん達にも同行してもらうことになるから、全員ね」
「あのー、アイリスさんとアイラは領主様で貴族様だから分かるんですけど、何故に私まで呼ばれるんですか?」
アイリスさんは首を横に振る。
「そこは分からないけど、ラミリア王国の姫君直々の指名なの。あと•••」
「あと?」
「この書状は赤色でしょ?これは特急を指していて、どれだけ早く王宮に着けるか見られているの」
アイリスさんは赤色の書状を見せながら言った。
「王宮側の想定より早く着けば、貴族位の向上、そしてあまりにも到着が遅ければ犯罪者よ」
な、何それ
勝手に送ってきて
行くのが遅ければ犯罪者扱い
「だからこそ、この赤い書状は滅多に送られて来ない。私自身受け取ったのは初めてよ」
「お母様、余程のことが王都で起こっているのでしょうか」
「そうね。けど、姫様直々にマリーさんを指名したと言うことは、姫様の行方不明は解決したということかしら?」
アイリスさんが首を傾げる。
「マリー様は、その姫君と面識はあるのですか?」
ラーラが訪ねてくる。
「いや、知らない。どこかで聞いたような気もするけど•••」
「それは奇怪ですね。青龍殺しの件は、まだ王国まで情報が届いていないか、もしくは届いたにしても書状が来るのが早過ぎます」
「マリー様の存在をどこで知ったのでしょうか?」
ラーラとナーラが、最もな疑問を口にする。
「考えていてもしょうがないわね。赤紙が届いた以上、直ぐに出発しましょう」
アイリスさんはそう言うと、ガイスさんに馬車の準備を指示した。
「あの、アイリスさんとアイラは、高いところ平気ですか?」
2人は首を傾げる。
そして今
「お母様ー、景色が綺麗ですー」
「本当ねー、街があんなに小さく見えるわ」
ドラゴンに変化したラーラの背中で、2人ははしゃいでいる。
私はナーラの背中にサーラと2人で乗っている。
流石に空路で向かえば、犯罪者になることはないだろう。
ラミリア王国の王都ラミリアへは、通常馬車で5日はかかるらしい。
ドラゴンならスピードを落として進んでも数時間で着く。
「あの、マリー様。先程から私の背中が少しむず痒いのですが」
ナーラが首を横に傾けて聞いてくる。
「あっ、ごめんね。今、パンを作ってるんだよー」
ドラゴンの背中で
パンを作る女子中学生
ふふ
自分で考えて少し笑ってしまう
「パンとは、あの固くてお腹を膨らませるためだけに食べる物でしょうか?
「違うよー。パンは外はカリッとしてて、中はフワフワで美味しい物だよー」
「失礼しました。きっと同じ名で違う食べ物なんでしょう」
この世界は美味しい食べ物があまりないらしい。
あまり、というのは、この世界に来た初日にラーミアさんに作ってもらったご飯は美味しかったからだ。
ただ、みんなの話を聞くと、美味しいご飯は稀らしい。
幸福度最下位の理由のひとつかな
MAPスキルを使って、王都ラミリアの近くまで来たことを確認。
「ナーラ、あの平野に降りてもらってもいい?」
「畏まりました」
ナーラが下降すると、ラーラも続いて下降してくる。
ドラゴンをこれ以上王都に近づける訳にも行かないので、少し離れた場所に降りることにした。
無事着陸すると、私は『空間収納スキル』を発動し、中から馬車を2台出した。
『空間収納スキル』は、『牢屋収納スキル』と同じで中に空気があり、圧倒的に『牢屋収納スキル』より空間が広い。
馬車から執事のガイスさんとメイドさん達が出てきた。
「す、すごい。これは王都の近くの平野です」
メイドさん達が驚いている。
「いやはや、馬車事空間に入った時は生きた心地がしませんでしたが、これで赤紙召集は問題なさそうです」
ガイスさんはそう言うと馬車の準備を始めた。
ラーラ達は人型に戻ると、私に声をかけてきた。
「近くの街道横に20人程の野盗がいますね」
「そうだね。馬車で移動する前に片付けた方がいいね」
私はナーラとサーラにアイリスさん達の護衛を任せ、ラーラと一緒に野盗の元に向かった。
『判別スキル』で盗賊とはでないものの、『魔眼スキル』では真っ黒だった。
一度話を聞こうとも思ったが、私とラーラは一気に奇襲することに決めた。
私は左から野盗を次々と倒し、ラーラは右から私と同じように殴っていく。
奇襲にあった野盗のボス(らしき人)は驚き、「奇襲だー。構えー!!」と言ったが、
答える部下はいない。
「残りはお前さんだけだが」
ラーラが野盗ボスに近づきながら言う。
「我々にこのような事をして、どうなるか分かっているのか」
ラーラは人型のままドラゴンの咆哮を放った。
野盗ボスは、下半身を濡らして気絶した。
ラーラはお構いなしに野盗ボス、野盗部下から武器を取り上げる。
「マリー様。戦利品です」
うえぇぇぇぇ
変なの付いてないよね?
私は渋々戦利品をアイテム収納に仕舞う。
後は、『拘束スキル』を使って野盗を縛り上げ、『牢屋収納スキル』で収容した。
私とラーラはアイリスさん達がいる場所まで戻り、安全になった街道を馬車で移動を開始した。
馬車で移動中、私はナーラの背中でコネ終わったパン生地をホームベーカリーに入れ、『空間収納』に仕舞った。
不思議なことに、ホームベーカリーは電気がなくても動く。
神様パワー??
小さいことは気にしない
大事なのは、あと数時間でパンが食べられるということ
ふふふ
王宮での用事をチャチャっと終わらせて
おやつにホットケーキ
夜はパンを食べよう
ニヤつきながら顔を上げると、私以上にニヤつくみんなの姿があった。
馬車で30分程移動すると、王都ラミリアに着いた。
ガーネットの街とは比較にならない程大きく、街を覆う外壁も20メートル以上ある。
アイリスさんが門番に赤紙と自分の身分証を見せると、表情が強張り、近くにいた兵士に指示を出した。
兵士は馬に乗って街の中に消えて行った。
「アイリス様。今王宮に到着を知らせに行かせましたので、このまま馬車で王宮まで向かって下さい。
先導及び護衛は、私達、王都騎士が責任を持って努めます」
そう言うと騎士は2台の馬車の前後中央にそれぞれ2人づつ付いた。
「赤紙の影響ということもありますが、ここまでの丁重な扱いは初めてです」
「いつもじゃないんですか?」
私はアイリスさんに問いかける。
「いくら貴族と言っても、いつも護衛はつかないの。上位貴族でもつかないんじゃないかしら。
今回は相当な貴賓扱いね」
貴賓扱い
後が怖いなー
嫌なことを考えながら
私は荷馬車に揺られて行く
そんな気分になった
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