第十一章……雨降る日に湧くモノ
第58話 スコーラー駆除の依頼
しとしとと雨が降り、風が木々を揺らし、地面に水たまりができる。少しばかり
肌寒くじめっとした日でも冒険者はギルドに集まっていた。窓から見える雨模様にうんざりしたような声が聞こえてくる。
マルリダは此処数日、雨が降っていた。恵みの雨として農家では喜ばれているけれど、冒険者としてはあまり嬉しくはない。雨の日の害獣駆除や魔物退治、護衛依頼などというのは視界の悪さや地面がぬかるんでいたりなど危ないのだ。
依頼というのは晴れの日だろうと雨の日だろうと入ってくる。けれど、できれば天気の悪い日というのは外に出たくはないと思ってしまう。それはどの冒険者も考えてしまうことだが金には代えられないので依頼をこなしていくのだ。
そう分かっていても雨というのは気分も落ちるのか、マルリダのギルドの奥のテーブル席でアロイは頬杖をついて、「湿気が鬱陶しぃ」と愚痴っていた。ブリュンヒルトも雨の日はあまり好きではないようで、「晴れないですかねぇ」と呟いている。
ルールエは毛が湿気でうねるようで髪の毛が跳ねていた。シグルドやフィリベルトは特に気にしている様子もなく、「こういう日もある」とのんびりしている。クラウスは雨の日が嫌いではないので何か愚痴ることはこれといってないが、どの依頼を受けるかを選別するのが難しいなと頭を悩ませていた。
今は朝食をとりながらいくつかの依頼書を掲示板から持ってきてフィリベルトにどれがいいだろうかと相談しているところだ。他のメンバーにも意見を聞きながらクラウスは依頼を絞っていく。
「天候が雨だからあまり難しいことは避けたいところだ」
「そうだな、ルールエやヒルデはまだ慣れていないだろうからその意見に私も賛成だ」
「なら、これはどうだリーダー」
いくつかの依頼書の一つをシグルドが指さす、それはドロネズミの駆除だった。大型犬ほどの大きさの泥を纏ったネズミの魔物だ。雨の日になると活発に動き、家畜や畑を荒らす害獣でこういった連日雨という日にはよく来る依頼だった。
マルリダは周辺に森があり、さらりその奥には山があるのでこういった害獣が下りてくることがよくある。内容も悪いものではないのでクラウスもフィリベルトもこれならと依頼を決めた時だった。
「B以上の冒険者で手が空いてる奴いるかー?」
ギルドの受付のほうから大きな声が聞こえた。なんだなんだと何人かの冒険者たちが顔を上げて振り返るとそこには二人の冒険者と農夫が一人立っていた。
軽鎧の男と魔導士服に包む女は受付嬢に話しを通しているのか、「B以上の冒険者いるかー?」とまた大声で問う。それに答えるように「Bランクだけど」と二つのパーティが手を上げたので、クラウスも「こちらも」と答える。
「三つのパーティか、これならなんとかなるかもしれないな」
「どうしたんだ」
「実はマルリダからクリーラ・ラプス・イルシューラの三つの町と都に繋がる商業道にスコーラーが湧いたんだ」
スコーラーと聞いてブリュンヒルトが「なんですか、その魔物」と首を傾げる。そんな彼女に「スコーラーとは蛙のような姿をした魔物の事だ」とフィリベルトが答えた。
スコーラーは灰色が混じった水色の身体にいぼいぼとした突起がいくつもあり、中型犬から羊ほどの大きさの蛙の姿をしている。体中からべとべととした粘液を出して悪臭を放っている魔物だ。
雨が続く日などに森や山から下りてきては畑や家畜を襲うので、ドロネズミと同じくらい面倒な害獣に指定されている。そのスコーラーがどうやら商業道に湧いているらしい。
「思った以上の数でな、三つに別れて駆除作業をしてくれるパーティを探しているんだ」
「報酬はどうなんだよ」
「それいくつかの商人たちが合同で支払うことになっている」
別のパーティのリーダーの質問に軽鎧の男が答える。ただ、それほど多くはないので各パーティの取り分は少ないだろうと言われて、リーダーの男は悩むような仕草をみせた。
「でしたら、こちらで多少出しましょう」
そこにギルドの受付嬢が提案する。ギルド長からの許可が下りたらしく、商業道は商人だけではなく生活する中で重要なものであると判断したようだ。説明を受けたパーティは「それなら」と依頼を受けることを決める。
クラウスはどうするかとフィリベルトを見遣ると、「ヒルデとルールエには無理をさせなければ問題はないだろう」と言われた。
「ルールエのことはシグルドが見てくれる。ブリュンヒルトとアロイは後方支援のセットだから彼に任せればいい」
「それなら問題がないな」
「ヒルデの嬢ちゃんのことは任せてくれー」
「無茶はしません!」
アロイとブリュンヒルトの返事にクラウスは問題ないだろうと、軽鎧の男に「こちらも問題ない」と返した。軽鎧の男は「助かるよ」と安堵したように息をついてから、集まってくれと三つのパーティを手招いた。
「あたしはシグルドお兄ちゃんと一緒にいればいいの?」
「そうそう。ルールーちゃんはシグルドの兄さんの援護、前にはでなければいいはずだぜ」
「ルールーはオレが守ろう」
「頼もしいねぇ」
ルールエと組めるのが嬉しいのか尻尾を振っているシグルドの様子にアロイは苦笑する。ルールエは気づいていないのか「頑張るよー!」とやる気満々だ。ブリュンヒルトもフィリベルトにスコーラーのことを聞いているので、勝手なことをやらかすということはないだろうとクラウスは判断して軽鎧の男の元へと向かった。
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