第23話 ニチアサのメインイベントは、プリキュア!
彼はこの後、ホテルの自室に戻り、早めに寝床に着いた。
そう言う限りは、ごく普通のことのように聞こえる。
だが実態は、酒に酔って倒れ込んだだけ、ともいえなくは、ない。
かくして、久々の酒に大いに酔ったせいか、眼鏡をベッドの上に投げ置いたじょうたいになっていた。その結果、寝ている間に自分の体重で壊してしまった次第。
ただし、2本の脚の片方だけだから、全く使えないわけじゃない。
それが、救いと言えば救い。
朝6時前に起き出した彼は、さっそく、テレビをつけた。
主たる目的は、8時30分から放映される、プリキュア。
なぜか彼は、この番組を観ることに血道を注いでおり、そのためには前日夜には既に携帯の電波も切ってさえいる。そして、某SNSに「亡命」と称して、8時になるとチャンネルを変えてプリキュアをひたすら待つ。
なぜ彼がそれを亡命などと評しているかというと、とある裏番組の「左寄りの偏向報道」に抗議をしている人物である、という意味が込められているとのこと。とか何とか、わけのわからない理屈を用いて「理論武装」ともつかぬ「言い訳」にもなっていないようなストーリーを彼はあちこちで披露している。
やがて、プリキュアが始まる。
彼はそこから30分、1週間の全精力をここに傾けて、「御意見番」と称して作品の論評を某SNSに書込み、その後、編集して自分の運営するブログで公開するという「ルーティン」を実行している。
彼にはどこか「お祭り野郎」的な要素があり、日常不断に同じことをきちんとこなしていく能力にいささか欠けているところがあると自認しているのだが、この日曜朝だけは、彼は確実に行うべきルーティンととらえ、実行している。
これは約4年近く「皆勤(!)」で実行されていることで、どこに居ようともこの時間はパソコンを立上げつつ、テレビの画面に向かうこととしているのである。
ついでに言えば、全国には一部この時間帯に地上波で放映されない地域があるとのことだが、そのような地に日曜朝を挟んだ出張を、彼は「エヌジー!」としている。それはもちろん、プリキュアをリアルタイムで観られない場所に行くということは、そのルーティンを達成できないこととなるからである。
さて、プリキュアのリアルタイム放送も終わり、その後の仕事も終えた彼は、テレビの電源をオフにし、それに代えて、携帯電話の電波を再びオンにする。
かくして、これからいよいよ、彼の1週間が本格的にスタートする。
要は1週間の始まりの儀式として、彼は「プリキュア」というアニメを活用しているのである。と、そのように言えば聞こえはいいのだが、何のことはない。
彼の「趣味」の一つであるという、ただそれだけのことを、かくも大げさな話にしているだけのことなのである。
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