第172話 結晶病の可能性(1)

 

 手を差し出されて、その手を握り返す。

 しわくちゃの顔が、穏やかに微笑んだ。


「和平条約と不可侵条約。そして石晶巨兵クォーツドール非武装の契約と技術協力、是非に行わせてもらおう。ぜひ我が国のよき友となってほしい、ルオートニスの若き王子よ」

「ありがとうございます!」


 よっしゃー!

 ハニュレオ王国との友好関係ゲットー!

 おずおずと椅子から降りて、父親の隣にやってくる。


「今後ともよろしくお願いします、マロヌ姫」

「は、はい。よろしくお願いします、ヒューバート王子……」


 手を取り合い、その後は書類をまとめて平和条約と不可侵条約を締結した。

 技術協力を行うので、この国の技術者にも会う約束をして、その日は終わり。

 晩餐をご同伴預かり、城の中の部屋を借りることとなった。


「っていうわけなんだけど、ラウトとシズフさんはどうしますか? 一緒に城に泊まるのなら、ランディとジェラルドと同じ部屋になると思いますけど」

「俺は機体の中で寝る」


 城の前にしゃがんでいる機体を、このままにするわけにもいかないんだが……。

 ラウトは割と機体への愛着が強いのか、結構離れるの嫌がるしまあいいか。


「シズフさんは……寝てるしね」

「叩き起こすか」

「うーん、そうだね?」


 降りてきてもらったのに早々に寝てるってどういうことなの。

 機体の脚に寄りかかって、腕組んで目を閉じてカッコいい寝方してんなぁ。


「っておぉい!!」


 なにを思ったかラウトはシズフさんを起こすと言いつつ銃を構える。

 銃は千年前の“遺物”だ。

 現代は弾が作れないのと、本体の手入れの仕方がわからないのと、魔法で似たようなことができるため完全に過去のものとなっている。

 ラウトが持っているのはギア・フィーネの操縦席に設置してある付属品の拳銃。

 四角くて見た目より軽いが、銃弾がビームという殺傷能力高すぎる代物。

 操縦席の下の方にあり、ギア・フィーネからエネルギーを充電して使用する。

 俺? 俺は当然銃の扱いもノーコンなので「結界の中で十分に練習してから、外の的で練習しような……?」とディアスに肩を叩かれ、「ひとまず的に当たるようにしてからカカシを的にしろ」とラウトから割と同情的な目で見られた。

 自動でターゲットロックしてくれる魔法の優秀さを見習えよ、千年前の拳銃!

 って、まあ、八つ当たりしましたよね。

 そんなものをラウトはシズフさんに向けるし、迷わず撃つ。

 いや、もちろん外してくれたけれども。

 カン、と脚の装甲に当って消えたけど。

 ビームだから銃弾が跳弾してどっか飛んでくことはないけど。


「ほんとに撃つやついるぅ!? なにやってんだよ!」

「このぐらいしても起きないとは」

「え! 嘘!?」


 見ればマジで寝てる。

 シズフさん、あなたはちょっと怖すぎませんか。

 銃で撃たれて普通に寝続けるとか。


「ならば——」

「え」


 殺気?

 ラウトを見た途端、ラウトの首筋にナイフ。

 速すぎて見えなかった。

 シズフさんが起きてラウトの首にナイフを押しつけていたのだ。


「起きたぞ」

「ん?」

「待って待って待って! 普通に話を進めないで! なにこの人たちほんと怖い!?」


 イカれすぎてんだろ、なんだこいつら!

 シズフさんを起こすために殺気を放つのもどうかと思うし、その殺気に反応して即座に相手の首にナイフを押しつけるシズフさんもマジどうかしてるわ!

 そのまま話を進めるのも、頭おかしいだろう!


「び、びっくりしました」

「千年前の世界ではこれが普通なのか?」

「治安悪〜い」

「何事かと思いましたわ」


 よかった!

 俺の感覚は正しかった。

 レナたちもびっくりしている。

 ですよね。


「ゴフッ!」

「ウワーーーーッ!」


 そしてシズフさんは起きたと思ったら間髪入れずに吐血。

 ハニュレオ城の騎士たちも驚きの展開すぎて「え、え」「え!? え!?」ってもう言葉が出なくなっとる。

 ……俺もだけども。

 口元を咄嗟に押さえてくれていたが、指の隙間から血が滴っている。


「……?」

「だ、大丈夫ですか!?」


 突然血を吐いて、手のひらについた血を不思議そうに見下ろしているシズフさん……強キャラすぎやしないか。

 だが、そんなことを言ってる場合ではない。

 俺は一つ忘れていたことがある。

『二号機の登録者は、健康問題から薬を国に支給される形で延命していた』という点だ。

 彼の国はすでに滅び、その薬は多分、ない。

 ディアスやナルミさんなら作れそうだけど、材料が残っているかも調べてもらわねば。

 少なくとも今、ここにはないのだ。


「どうしよう、治癒魔法とか効くかな……!? 今、ジェラルドに治癒魔法をかけてもらいましょう!」

「いや……石が出た」

「なんて?」


 石が出た?

 は? どこから?

 もうこの人なに言っちゃってんの?

 天然に見せかけた不思議ちゃん系?

 しかし、血で濡れた手のひらを差し出されると、確かに石が載っている。

 親指の第一関節くらいの小さな石。


「……魔石?」

「え?」


 食いついてきたのはジェラルドだ。

 俺の横に来て、一緒に覗き込む。

 手に取っても?と一応断りを入れてから、シズフさんの吐いた石を摘んで見てみる。

 やはり……! これは結晶魔石クリステルストーン

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