第157話 北のハニュレオ
ハニュレオ国。
北西にある、元カネス・ヴィナティキ帝国首都のあった国。
ディアスなナルミさんに聞いたところ、セドルコ帝国は元々レネエルという国があった場所で、レネエルはカネス・ヴィナティキに取り込まれ、その後
トニスのおっさんの事前調査で聞かされたハニュレオ、現在は王制。
ソードリオ・ハニュレオという国王が治めているが、現在77歳。
しかし、初恋を拗らせ、60歳の時にようやく成人した妻を娶って子をなした。
それまで貴族たちに勧められるまま娶った妻は十八人。
その中の一人が長男を産んでおり、ソードリオ・ハニュレオ直系の子どもは長男エドワード・ハニュレオと長女マロヌ・ハニュレオという二人のみ。
エドワード・ハニュレオは俺と同じ15歳。
マロヌ・ハニュレオは7歳の幼女。
普通に考えればエドワード・ハニュレオが王太子と思いきや、ソードリオ陛下は初恋の相手との子どもであるマロヌ・ハニュレオを立太子させた。
正直、元気なじいさんだな、としか思わんが当然のことながらそれは火種となったようだ。
まず母親の身分の差。
エドワード王子は侯爵家の令嬢の息子。
年齢的にも彼が立太子すべきであろうという、貴族の大半は彼を支持している。
マロヌ姫は城の侍女の娘らしく、その侍女も伯爵家身分。
なにより歳の差がやばい。
あと、7歳女児に立太子は俺もちょっとどうかと思う。
しかし、その愛らしさとソードリオ陛下の無駄に一途な恋を応援する支持層は平民だけでなく貴族女性たちからも分厚く、なによりマロヌ姫には聖女の素質があった。
その素質が開花した時に
中でも、オズという男は非常に有能で、マロヌ姫の補佐、護衛、実務、生活に至るすべてを完璧にサポートしている。
そのため、ソードリオ陛下もマロヌ姫を立太子させても問題ないと判断したらしい。
しかし、それに反感を持って異母妹に手をあげたエドワード王子。
いやいや、手を上げるのはダメでしょ。
俺もそう思うのだから、娘を溺愛するソードリオ陛下はもっとそう思ったに違いない。
なんとエドワード王子を城から追放してしまったという。
可哀想だけど自業自得では?という感想しか持たん。
だって7歳の妹に嫉妬して殴ろうとするとか、人としてダメでは?
歳も同じだし、仲良くしたかったけど追放されてるんじゃあ会えないかな〜。
——なんて思っていた時期もありました。
「反乱?」
「はい。せっかくコルテレとソーフトレスを避けてきたのに、申し訳ないのですが。かなり規模が大きくなっている模様です」
「むう」
ルオートニスから出発して二週間。
ハニュレオが近くなってきて、トニスのおっさんと
地面に降りないままハニュレオの偵察結果を聞いたところ、なかなかに面倒くさいことになっているみたいだ。
ルオートニスから西にはミドレ公国があり、そのさらに西にはコルテレ、その隣国がソーフトレスという国。
しかし、この両国は現在交戦しているらしい。
正直国土が狭まっているのに戦争をして他国から略奪するより、自国の生産性を高めた方が建設的だと思うんだけどなぁ。
まあ、そんな感じで戦争している国には容易く入れまい。
つーことでミドレ公国と同じく孤立していたハニュレオを選んだわけだが——まさか内紛とは。
せっかく二週間かけて来たのに、面倒な時に来てしまったな。
でもラウトが神格化してうちの守護神になり、
晶魔獣は健在。
ラウトにも晶魔獣がなぜ生まれて人を襲うのかは、わからないらしいし。
「遅かれ早かれ内紛になるのなら、まだなっていない今のうちに現政権と交渉した方がいいかな」
「エドワード王子とは交渉なさらない方向でよろしいですか?」
「しない」
ワイバーンに晶魔獣使役の首輪を着けて、それに乗っているトニスのおっさんにキッパリ告げた。
あくまで俺はルオートニス王国の使者として行くのだ。
王太子でもない——妹に手を上げるようなやつとは正直話にならないと思う。
「おっさんから見て、そのエドワード王子は交渉する価値があると思うのか?」
「いやぁ」
にや、と笑って濁すが、もうその反応でお察しではないか。
「……ぶっちゃけソードリオ王の判断は正しいと思いますよ。ここから成長してくれるのなら、希望はありそうですが。ちょっと短気すぎますね。あと、周りの大人の言うことを信じすぎるし聞き入れすぎる。ヒューバート様と同じく幼馴染に聖女がいるのですが、彼女もかなり気が強い」
「へぇ」
聖女の幼馴染。
しかし、平民出身らしくてエドワード王子の周りの大人たちからは軽く見られているようだ。
そのせいなのか聖女もエドワードに傾倒しており、エドワードの言うことをなんでも聞くらしい。
気が強くて貴族には反発するようだが、相手にされないのでますます孤立してエドワードに依存しているんだって。
「マロヌ姫も聖女の素質があるので、正直エドワード王子と聖女スヴィアを重用する必要がない。オレが薦めるまでもなく、ヒューバート様のご判断は正しいと思いますよ」
「うん、わかった。長く調べてくれてありがとう。もう少しだけ先行してくれるか?」
「ええ、もちろん。給料分は働きますよ」
「よろしく」
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