第153話 ジェラルドの相談事

 

 俺の誕生日も終わり、ルオートニスの守護神たちと弟ライモンドのお披露目も終わって数週間後。

 国内の様子もだいぶ落ち着いたのを見届け、俺は荷物をまとめていた。

 数日中に、ジェラルドとランディ、そしてレナとトニスのおっさんを連れてハニュレオに旅立つのだ。

 トニスのおっさんには、すでに斥候としてハニュレオに向かってもらっている。

 で、学院の俺の部屋で荷物を詰め詰めしていたら、ジェラルドが会いに来た。

 相談があるらしいのだ。

 兄弟同然のジェラルドに相談と言われて、悪い気なんてするはずもない。

 なんでも相談しろよ、と気軽に受けた数分前の俺を殴りたい。


「え! ジェラルドに婚約者!?」

「っていうか申し込みが来てるんだよね〜。マルティアっていう平民の子から」

「!!」


 マルティアァ!?

 予想外の名前に入れようと思ってた服を落っことしそうになった。

 そもそもジェラルドは子爵家とはいえ貴族。

 平民が求婚できる相手ではない。

 だがマルティアは別だ。

 なぜなら彼女は『聖殿の聖女』だから。

 くっ、聖殿め。

 俺はダメ、レオナルドもダメなら身分的にギリ届くジェラルドを狙ってきたかっ!

 しかもマルティアは結構な面食い。

 ラウトに見惚れていたからそれは間違いない。

 ラウト顔綺麗だからわかりみが深いけどな。

 それに、ジェラルドもラウトに劣らず相当な美貌を持っている。

 俺はジェラルドの声も割と好きだが、もしもっと歳を重ねて今より低い声帯になったら多分その都度腰を抜かす自信がある。

 なぜなら俺は面食いだけでなく割と声フェチなので。

 いや、元々は女性声優さん好きだったよ?

 でもさ、俺の周りイケメンとイケボが多すぎるんだわ。

 そりゃ元から好きなんだから、そっちにも反応するよになるのは仕方なくない?

 レナの声も好きだよ、可愛くて。

 っていうか最近は天使の声だと思ってるよ?

 レナの声帯は多分天使。

 じゃ、なくて。


「……ど、どうするんだ?」

「あんまり興味ないから、父さんに聞いたんだけどね」

「あ、うん」


 ミラー子爵家の現当主はジェラルドのお父さんだもんな。

 確かに当主に従うのは当然か。


「伯爵家に陞爵しょうしゃくの話が来ているから、待ちなさいって言われた」

「マジで!?」


 俺それ知らない。

 ミラー子爵家を陞爵って、そんな権限あんの父上だけじゃん?

 俺なんにも聞いてませんよ、お父上!

 ——とは思うけど、普通に考えて石晶巨兵クォーツドールの開発を技術面主体で行っているのはジェラルドだ。

 俺より石晶巨兵クォーツドールの内外に詳しい。

 リーンズ先輩と共に、技術責任者と言っても過言ではあるまいて。

 ジェラルドの姉、パティもレナの護衛件侍女頭。

 二人揃って重役も同然だ。

 正直子爵家という家柄で担うにはちょっとアレだろう。

 陞爵はむしろ必要。

 うん、その辺異論はありませんね。


「……なんか乗り気じゃなさそうだな?」

「だって領地運営とかさ〜、ぼくにできると思う〜?」

「それを言われると……」

「だからお父さんは、領地運営もできそうなお嫁さんがいいと思ってるみたい〜。そうなると結構学歴の高いお嬢様じゃなきゃ無理だろうって〜」

「なるほど。確かにそうだな。それに陞爵が確定してるのなら、伯爵家以上のご令嬢が好ましい」

「そうなんだよねぇ〜」


 陞爵して直後の格下の家柄の嫁はあり得ない。

 多少無理をしてでも格上の家との縁を繋いでおかないと、妬み嫉みのやっかみでなにをされるかわからない。

 幸いジェラルドもパティも見目麗しい姉弟だ。

 今の仕事ぶりから今後の出世も期待大。

 引くて数多なのは間違いないだろう。

 問題は——この姉弟というかミラー家が出世欲ゼロなところだろうか。

 どちらにしてもマルティアはいくら『聖女』であって、聖殿の後ろ盾を持っていても“今の”聖殿では力不足。


「ランディんちは全員男の子だったしなぁ。パティならアダムス侯爵家から婿をもらうのもアリじゃないか?」

「でも姉さん、トニスさんが好きなんだって」

「へーーー……………………え? トニスのおっさん?」


 危うくまた詰めようとしていた服を落っことしそうになった。

 なんて?

 誰が誰を?

 パティがトニスのおっさんを?

 は? マ?


「強くてかっこいいよね、って。わかる〜」

「マジで!? マジで!? マジで!?」

「なんでそんなに聞くの〜? マジだよ〜。薬に毒にもすごく詳しいし、絡め手の魔法たくさん知ってるし、剣も魔法も身のこなしもすごいし〜、ぼくもトニスのおじさまなら姉さんにぴったりだと思うな〜」

「マ、マジで!?」


 姉弟揃って趣味がすげぇなミラー家ぇ!

 いや、まさか貴族でないところを持ってくるとは思わないじゃん!?

 一応死者の村がルオートニスの一部になり、その名を神守の村に改められてからトニスのおっさん始め、村の者は全員我が国の国民に登録したけどね?


「……それならトニスのおっさんに名誉男爵の爵位あげようか」

「え! いいの!?」

「いいと思うよ。それだけの働きは何度もしてくれてるし、今もハニュレオへの斥候任されてくれてるし、実力は申し分ないし」

「わあ〜! そしたらうちに婿入りしてくれても大丈夫だもんね!」

「その代わり、ジェラルドは伯爵家以上のお嬢さんと結婚しないとだぞ?」

「うわぁ……」


 そこでテンション下がるんかーい。


「なんか自分が結婚って全然想像できないんだよねぇ〜」

「気持ちは分からんでもないけど、支えてくれる女性が側にいてくれるのは心強いよ」

「ヒューがそう言うと説得力あるぅ」

「ははは、そうだろうそうだろう」


 しかし、ジェラルドもランディもこんなにイケメンなのに婚約者がまだいないんだもんなぁ。

 それでもいつか、俺を支えてくれるこの二人にも、レナのような素晴らしい女性が寄り添ってくれるといいな、と思う。

 やれやれ、仕方ないからハニュレオから帰ってきたら俺から二人に似合いそうな女性を探してみようかなっと。


「で、ジェラルドは荷物詰めたのか?」

「あ」

「すぐ詰めてこい! 出発明日だぞ!」

「は、はぁ〜い!」

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