第152話 16歳になりまして(3)

 

「…………どう思う?」

「提案者はディアス様かと」

「やっぱりか……」


 どういうつもりなのだろう?

 振り返ってディアスを見ると妖艶に微笑んでおられる。

 やめてほしい、その顔。

 かっこよさと美しさと妖しさで俺が変な扉開きそうになる。

 けど、ディアスの顔を見てなんとなく言いたいことはわかった。

 聖殿は今、王家の力が戻ったことでかなり失速している。

 それにとどめ——上下関係をしっかりと思い知らせることにしたのだろう。

 現聖殿トップはどうしても招待しなければいけないから、そのトップを黙らせる。

 国の守護神となったラウト、もしくはディアスが言えばさすがの聖殿トップも従わざるを得ない。

 それさえも蹴り飛ばそうというのなら、直に切り捨てて新たにこちらの都合のいい頭を据えればいい。

 けど、その都合のいい頭にレオナルドはちょっとどうなんだ?


「しかしながら、レオナルド様に聖殿の権限が渡るのは王家として最適解かと」

「え? そう? 大丈夫か?」

「はい。自分の実家——アダムス侯爵家は自分がヒューバート様に命を救われてから完全に王家派です。中立だった兄たちも、殿下のこれまでの功績に敬意を評して王家派になっているのです。聖殿派の一角としてそれなりの貢献をしていた叔母も、ライモンド様のご生誕で立場がありませんから——」

「ふーん。……ああ、そうか」


 俺がランディの命を救ったって部分は審議が必要な気もするけれど、側室として国王の寵を得られないばかりか王太子の座も俺に決まり、さらにライモンドを正妃である母上が産んだことでレオナルドはメリリア妃同様立場が微妙だった。

 いくら目に見えて俺に傅いていたとしても、周りの貴族からすればあの母親の子どもとして猜疑の目を向けられる。

 聖殿のまとめ役を任じられたとなれば、これまでの複雑な立場が明確になるし、レオナルド自身が己の有用性を周囲に証明するよい機会となるわけか。

 聖殿の中に色濃く残るであろう反王家派の甘言を、レオナルドが受け入れるとは思えないが、貴族たちからすればいい試金石となるわけだ。

 歳若いからこそ、聖殿の中でレオナルドは多くの敵と見える。

 その中でどう成長していくか。

 あるいは、容易く呑まれるか。

 俺はとっても心配なんだけど、レオナルドはもっと不安そうな顔をしているから困る。

 ディアスとしては完全に俺を贔屓して動いたのだろうけれど。


「レオナルド様もそろそろ側近を決めねばならない時期ですから、今が最適かと」

「あーーー、うーーーん。そうか」


 俺にはランディとジェラルドがいるけれど、レオナルドは婚約者も決まっていない。

 声がけは多いのだが、レオナルドはなにがなんでもマリヤと結婚したいと息巻いているからだ。

 ……マリヤとの仲も、なんとかしてやりたいんだが……うーん。


「レオナルド様に任せて問題ないと思いますが」

「まあ、うん、そう、だよな」


 ディアスがにこっと笑とているので、レオナルドと聖殿はディアスが好きなように改変するつもりなんだろう。

 主に、俺が動きやすいように。

 ナルミさんに聞いた話だと、ディアスは元々アスメジスア基国の高位貴族だったらしい。

 意外と貴族社会の根回しとか得意なのかなーと思ったら、そんなことはなく。

 そういうのが得意なのはナルミさん。

 パーティーが始まる前に「政敵? 根回しして全部始末しておこうか?」と笑顔で言われたけれど怖すぎて首を横に振りましたよね。

 そういうのハニュレオとかミドレとかの外交の時に発揮していただいていいですか?って感じで。


「凄まじい。ヒューバート殿下はあのような神の試練に受かったのか」

「結晶病の神なのだろう?」

「いや、戦神とのことだぞ」

「なに? 私は怒りの神と聞いているが」


 横でそんな会話を聞き、うん、とランディに頷く。

 ランディも俺の顔を見て頷き返してくれた。

 戦神。いいね、それ。

 ディアスは医神。

 ラウトは戦神兼結晶病の神。

 うちの国ではそのように祀るとしよう。


「ヒューバート様、会場の中が騒がしかったのですが、なにかあったのですか?」

「レナ、お友達とはたくさん話せたのか?」

「あ、はい。久しぶりに色々な話ができました!」


 あ、ちなみにレナは俺がエスコートして連れてきたあと、怒涛の挨拶タイムに突入したので同級生とお話ししておいで、と放流していた。

 最近色々忙しすぎて、学院の友人たちと話もろくにできていなかったからな。

 まあ、それは俺もなんだけど、俺の場合はランディとジェラルドがいるから。

 でもさ、やっぱり女子には女友達とのガールズトークってやつ?

 そういうの大事だと思うんですよ。

 前世の母さんも今世の母上も、お茶会でよく女友達と定期的に会ってるし。

 そういう日ってスッキリした顔してるから、きっと喋ることでストレス解消とかになっているんだろう。

 現にレナもツヤツヤしたお肌がさらにツヤツヤになっている。

 表情も生き生きしているし、お喋りってすごいんだな。

 こんなにわかりやすく変わるとは。


「それで、なにかあったんですか?」

「いや。まあ、想定通りな感じ」

「え? はあ、そうなんですか?」

「うん。なにも問題なし」

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