第138話 深淵のナルミ(2)
「ヒューバート、覚えておきなさい。俺が負けたらここの四体を起動させ、ラウトを倒す方法を探すんだ。世界を救うことを決して諦めるな」
「そんな……」
それほどまでに、絶望的なのか?
デュラハンとサルヴェイションでも、ラウトと五号機は強敵すぎると?
もう一度四体の“ヒューマノイド”というものを見る。
姿形が四体ともよく似ている、人間の四兄弟のような、そんなものが。
『それにしても、四号機じゃなくて五号機がギア5に到達したかもしれない、なんて信じられないな。歌い手の力もなく? 本当にそんなことできるのかな?』
「どういう意味だ?」
『ギアンは私の弟のようなものだけど、アレは偏屈というか捻くれ者というか天邪鬼というか』
とにかくとんでもなくねじれ曲がっているやつであるということは伝わってくるな。
『だからなにがなんても、登録者独りでギア5に到達させるとは思えないんだよね』
「あの時ラウトに助力した歌い手がいると?」
『当時の戦闘データだと近くにあのクズが……いや、デュレオがいたはずだよ。アイツならラウト・セレンテージの憎しみを利用して、無理矢理ギアを上げるよう“歌う”ことも考えられる』
「あの状況で? あの場には俺もいたが、デュレオ・ビドロは見当たらなかったぞ?」
『朴念仁の君の話は、あまり信用に足るものではないね』
「うっ」
ストレートにデュラハンに朴念仁って言ったな……。
デュラハンもそれで引き下がっちゃうのかよぉ。
『それとも、僕が思っている以上にラウト・セレンテージは君のことが大好きだったのかな?』
「? なぜ俺の話になる?」
『ラウト・セレンテージをロストしたのは君が死んだ直後だからだよ』
「はあ?」
デュラハンでなくとも、よくわからないことを言う。
困っていると『もういいよ朴念仁』で話題が強制終了された。
ひどくない?
『でもラウトとギア・フィーネ五号機がギア5に達しているのなら君は負けるよ、ディアス・ロス。現代の歌い手の影響を事前に調べておくことをお勧めする。少しでもギアを上げておくようにしないとね。それでも負けるだろうけれど』
「そうだな。レナ、頼めるだろうか」
「え、あ、は、はい! もちろんです!」
『君が負けたあとと言わず、二人くらい連れて行く?』
「……いや、
それ、とは目の前の水槽の中の四体の子どもの姿をした“ヒューマノイド”。
俺もデュラハンが負けるなんて、今のところ思えない。
サルヴェイションのスペックを知っているし、正直こんなにデュラハンたちが負けると断じるのが信じられなかった。
『知らないよ。ここも焼け落ちるかもしれないんだよ?』
「その時はその時だ」
『ハァー、この朴念仁』
「い、今俺が朴念仁なのは関係ないだろう」
『“私”をインストールした一体を連れて行ってもいいんだよ?』
「尚更要らん」
あ、さっきから時々違和感があると思ったら、一人称がブレブレの人なのか。
『じゃあもういいよ。さようなら』
「……ああ、今まで色々ありがとう」
「デュラハン……」
「構わん、行こう。これの起動の判断はお前がすればいい」
そう言って俺に丸投げ。
……丸投げというのは多分違うけど、そう感じるんだよ、デュラハン。
拗ねたようなナルミさんの声も、多分、デュラハンのことを心配して……。
「…………一体でも連れて行けば、デュラハンは勝てますか? ラウトを助けられますか?」
「ヒューバート?」
『へぇ……』
俺がそう天井に問うと、ガコン、と音がして左端の水槽から水が落ちていく。
え、待ってあの、俺聞いただけで連れていくとは言ってない!
「!」
水が抜け落ちると、白かった髪が黒に変わっている。
目を開けると金色の瞳が紫色に変化した。
ガラス扉が開くと、立ち上がったその個体が表へ出てくる。まっぱで。
「わーー! これ! 着てください!?」
「おやおや紳士だね。好きだよ、君みたいなウブな子は」
「……出てこいとは言っていなかっただろう?」
上着を脱いでその子に被せると、デュラハンが不満そうな声で話しかける。
口調は天井から聞こえてきた音声のそれだ。
もしかして——。
「どういうつもりだ、ナルミ」
「別にいいじゃないか。千年も眠っていたんだろう? 今の時代の情報収集をしたいと思ってたんですよ。戦力にはならないけど、私の演算はすごいよ?」
「あ、あの、こちらで下も……」
「おや、ありがとう赤毛の坊や」
ランディがマントを外して下半身に使ってもらおうと差し出す。
俺の上着とランディのマントがスカートみたいになっている。
これなら、まあ、ギリ……マジギリ……。
「研究塔をたくさん上手に使ってくれていた子たちだろう? これからはお姉さんもサポートをしてあげよう」
「お姉さん?」
「お姉さんだとも」
「お姉さん……」
なんでデュラハンが一番ドン引きしてるんだろうか。
「えっと、でも、その、いや、よ、よろしくお願いします、ええと」
「ナルミでもシランでもカガでも他の名前を新しくつけてもいいよ」
「じゃあ、ナルミさん……」
「よろしくお願いします」
「よろしくね、現代の“歌い手”。君の双肩に世界の命運がかかっていると言っても過言ではないのだから」
「え!」
いきなりレナに重圧かけてきた!?
この人本当になんなんだー!?
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