第131話 もう一つの研究塔(2)
「鳴海紫蘭という名前も、本名ではない。
「え……」
人の死を、言い当てた?
めちゃくちゃ怖い……!
「ラウトが乗っているギア・フィーネは、元々ナルミの婚約者だった男の弟が発見したものだと聞いている。ナルミは婚約者の弟の死を予言してその通りになった。婚約者の男の死も予言して、その通りになった。俺はその婚約者の男と話したことがある。気さくないい男だったが、遺伝性の病を患っていて治療薬が間に合わなかったのだ」
「そんな繋がりがあったんですか……」
「厳密にはもっとややこしい」
「や、ややこしい」
千年前ややこしい多すぎない?
「ナルミは
「なるほど、ややこしいですね」
「もっと言うとその男、ミシアのギア・フィーネ、二号機登録者の実兄でもあった。三人兄弟だと」
「…………」
お、おげろ……。
「二号機は——ラウトの父親を殺した仇と聞いている」
「っ!」
「ナルミの婚約者はいい男だった。優しくて気さくで、敵国のラウトにも俺にも気を使う。ラウトも憎からず懐いていたと思う。素直ではなかったから、ツンケンした態度だったが。……だから二号機が彼を殺した時、暴走状態になる程怒り狂った」
「え?」
殺して……?
待て、待て、本気でややこしくてこんがらがる。
この研究フロアの主、ナルミさんって人の婚約者がミシアの名士で? 三兄弟?
次男は中立機関の代表で、偉い人?
三男がギア・フィーネ二号機の登録者。
ああ、そこまで聞くと、
ギア・フィーネという圧倒的な武力と、繋がりが欲しかったのだ。
だと言うのに、ミシアは中立機関の次男を殺してギア・フィーネを奪おうとしたのか。
確かにサルヴェイションみたいなやつが二機あったら無双の俺TUEEEモノだろうな。
しかし強欲というか。
弟を殺されて祖国を見限った長男の気持ちが、少しわかる。
俺だってレオナルドを殺されたら、理屈はわかるけど納得はできない。
……殺したのか、国を裏切った兄を。
ギア・フィーネ二号機の、登録者は。
ラウトはそれを見て、怒ったのか。
偶然とはいえギア・フィーネとラウトの出会いをもたらしたのは、その人だから?
父親の仇というのもあるだろうけど。
「あの時の話を聞いたら、ナルミは『そうなると思っていた』と言っていたよ」
「…………」
言葉が出てこない。
婚約者なのに?
「な、仲悪かったんですか?」
「いや。愛し合っていたと言っていた。少なくともナルミは、イクフ・エフォロンが遺伝性の病で永くないのも知っていて婚約していたそうだ」
「……し、死んでしまう病気だったんですか……!?」
「ミシア——というかミシアを中心とした共和主義連合国軍という組織は、人の体に細胞活性化のナノマシンを入れて兵を強化していた。ノーティス、と呼ばれていたな。その弊害が急速な細胞劣化や人体奇形化、遺伝性の病の発症など未完成と言わざるを得ないものだ。あの男はブラッディ・ノーティスシリーズという、母胎の中にいる時から母親のナノマシンと強化特質を遺伝させるという研究の“サンプル”だったと聞いている」
「は? そ、それって」
強化人間ってやつ?
マジでそんなアニメみたいなことやってたのか!?
……え、なにそれ、ちょっとマジで吐きそう。
サルヴェイションの最初の登録者の幼女が毒を投与された話も胸糞だったけど、千年前クソのクソがクソすぎない?
おえぇ……!
「二号機の登録者が薬漬けと言ったのを覚えているか? 彼も兄と同じくブラッディ・ノーティスシリーズの被験者だ。治療薬がなければ永く生きられない」
「っ!」
「ここにある水槽の中身はノーティスナノマシン。人間を強化したノーティスになるための施設。……その副作用を抑える、治療薬の研究施設だ」
「!」
長男の人や、二号機の登録者の治療薬を作ってたってこと?
……ああ、それは……。
「俺は遺伝学を専攻していた医者だったから、ナルミの研究には協力していた。この研究塔を再稼働させた理由も、この研究を完成させたかったからだ。あとは、もう一つ」
己の首を指でなぞる。
あれ? そういえば……研究塔に来た日、ギギが研究塔を再稼働させた人の目的を言っていたような……?
「死ぬ方法を探していた。俺はこの時代の人間ではない。すでに千年前に死んでいる。なぜ今もこうして生きているのかわからないが、俺はこの時代に生きていていい人間ではないだろう。ヒューバート、レナ——俺がラウトを迎撃する。すべてが終わって俺がまだ生きているようなら、どうか『聖女の魔法』で俺の結晶病を治してくれないだろうか? それですべてが終わるはずだ」
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