第130話 もう一つの研究塔(1)

 

 九階。

 俺たちが研究に使っているフロア。

 そこにはジェラルドがギギと最終チェックを行っていた。

 デュラハンにジェラルドが量産型の設計図と、ミドレ公国で得た[魔力蓄積]の魔道具——通称『魔力炉』が馴染み、燃費が大分良くなっていることなどの説明を受けている。


「俺は機体の専門家ではないが、燃費が上がった分の冷却装置は必要なのではないか?」

「冷却装置?」

光炎コウエンを長時間運用して、過熱したりしなかったのか?」

「えーと、そういう時は水魔法をここの回路に流して冷却していました。装置とかは……」

「なるほど、この時代ならではだな。ザード・コアブロシアが見たらブチギレそうだが」

「誰ですかぁ〜?」

「お前の先祖だ」


 ああ、ジェラルドにそっくりだというジェラルドのご先祖様。

 名前難しいな。


「手首より上に指をつけなかったのは?」

「武装できないようにしました〜。晶魔獣と戦闘になる場合は、足で押し潰しで結晶魔石クリステルストーンを回収できるように調整してあります〜」

「なるほど。では、ここにワイヤーを仕込めるようにして、荷馬車を引けるようにしてはどうだ?」

「あ、それはいいですね!」

「なるほど、に馬代わりの労働力はいいですね。馬も希少になっていますし」


 すっかり話に花が咲いてきてしまったな。


「農具として利用できるようにするのもいいな」

「あ、それはこちらの方ですね」

「これは?」


 ジェラルドが見せたのは、俺考案の農具型石晶巨兵クォーツドール

 農具型というか、モデルは農業機械。

 畑を耕したり、種を撒いたり、農薬を撒いたり、収穫したり、収穫後の藁を畜産用の飼料にしたり。

 田舎のじいちゃんばあちゃんちに行った時、田植え機を見ていたので思い出したのだ。

 いくつかの機能を一つにして運用できないか、現在試行錯誤中である。


「なるほど! このような使い方もあるのだな。これは民が喜ぶ。いいことを考えた」

「でしょ〜! さすがヒューバートだよね〜」

「そうか、これもヒューバートの発案か。よしよし」

「も、もううぅ……」


 デュラハンに頭を撫で撫でされる。

 くっ、嫌じゃない。

 デュラハン、顔がいい。声もいい!


「あ、デュラハン、レナが“歌い手”のことを聞きたいと言っていたのですが」

「あ! は、はい! 詳しく教えていただけませんか? ラウトと仲直りするのに、役に立つかもしれないなら……」

「! ……そうか」


 レナはラウトが記憶を取り戻しても、前のように仲良くできると思っているのか。

 俺も前みたいに、みんなでワイワイできたらと思う。

 でも、ラウトのあの冷たい瞳。

 とても同じ人間とは思えないほど、怒りや憎しみに満ちていた。

 説得したら、帰ってきてくれるかなぁ?

 この一年、デュラハンに話を聞きながらずっと考えている。

 千年前の、世界を滅ぼしかけた戦争に未だ囚われているラウト。

 彼をどうしたら、憎しみの連鎖から救い出せるのか……。


「では一階に戻ろう」

「「え?」」


 なんで?


「ジェラルドたちはどうする? 来るか?」

「行っていいんですかぁ? 行きまーす!」

「わたくしめは農具型の方をもっといじり倒したいので遠慮いたします」


 リーンズ先輩がいじり倒すといいものができそうだけど、その分なんかこう、怖いな……。

 まあ、リーンズ先輩だから大丈夫だろう。

 よろしくお願いします。


「えっと、では……」

「はい。でも、どうして一階に?」

「行けばわかる」


 そう言われて俺とレナ、ランディ、ジェラルドはデュラハンについて受付のある一階に降りた。

 なにをするのかと思えば、デュラハンはノザクラと呼んだ研究塔入り口のAIに「○○○○」と……聞いたことのない言語でなにかを話す。


『ギア・フィーネ一号機登録者パイロット、ディアス・ロスの申請を承認しました。鳴海紫蘭ナルミシラン研究フロアへのアクセスを許可いたします』

「だ、誰の研究フロアですか?」

大和タイワの知り合いだ。この研究塔を作った人物だな」

「この研究塔を……!」

「言っておくが俺の知る中でこの上ない曲者だ。あの女より曲者はいないと思う。王苑寺ギアンと血縁らしいから、無理もないというか」

「ヒェ……」


 もうそれを聞いただけでヤバそうな人だな!?

 とか思っていると、受付カウンターが突然二つに割れた。

 割れて壁の中に消えていく。

 えええええ、そ、そんな機能がー!?


「こちらだ。ついてきなさい」

「ち、地下が……」


 地下もあるのはエレベーターのボタンにあったけど、多分別枠の研究フロアだ。

 こんなところがあったなんて。

 デュラハンが迷わず楕円形に開いた穴の階段を下っていく。

 俺たちも意を決して下へと降りた。


「おわぁ……」


 デュラハンが下りていくと、その段よりひとつ前にある壁が光って足下を照らす。

 青い光に包まれた、水族館みたいなフロアが広がっていた。


「鳴海紫蘭という女は、あの時代において特別な立ち位置だった」


 突然語り出したデュラハンは、少しだけ、少しだけ懐かしそう。

 ゆっくり足音が先へと進む。

 迷いのない足取り。

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