第117話 庇われるということ

 

 神々しいと言われれば確かに神々しい。

 見るからに重装備の近距離タイプ。

 ん? 胸のところ、穴? 砲口?

 いやいや、あんなでかい砲口、ヤバすぎだろ。

 でもギア・フィーネならありえる、のか?

 ありえそう。

 サルヴェイションを見たあとだと、なんでもありな気がする。


「この国の守り神であると言い伝えられておる。貴殿が乗ってきたものと、大きさなどが似ている気がするのだが」

「そうですね……」

「なにかの参考になりそうか?」

「もう少し近くでご覧になった方がいいのでは?」

「え? あ、は、い?」


 大公閣下ではなく、ハルオン殿下が俺を促す。

 え? 待って?

 [索敵]魔法にめちゃくちゃ引っかかってるよ? ハルオン殿下。

 俺にだけ向けられる悪意、敵意、殺意。

 顔は笑っているけど、俺には通じないんだよなぁ!

 どうしよう? 仕掛けてくるかな?

 ミドレ公国にとって俺とことを構える利点は、一つもないんだが。

 ランディの方を振り返ると、ランディの方の[索敵]にも感知されているっぽい。


「ヒューバート王子?」

「あ、いえ。そうですね……確かに我が国の“遺物”に、とてもよく似ていますね」

石晶巨兵クォーツドールは“遺物”を参考にしているのではないのか?」

「いえ、確かに構造は手本にしております。我が国に残っていた設計図をもとに、内部は特に手を加えていますね。今後も操作性などは“遺物”を参考にしていくつもりです。ですので、こちらの“遺物”を見せていただいたのは非常にありがたい」

「おお、それはよかった!」


 大公閣下からは『悪意』『敵意』『殺意』は一切感知できない。

 むしろ、その逆——『好意』のようなモノが感じ取れた。

 この人とは仲良くやっていけそうなのだが……。

 騎士団長の周り——岩陰にも十人ほどの『殺意』が感知できてる。

 やばい、囲まれてるな。

『悪意』や『敵意』ならそれほどでもないけど、『殺意』ともなれば実行力が伴う。

 散々暗殺未遂されてきたから知ってるんだ。

 仕方ないからこっそりバフ盛って体を硬く、防御力高めにしておく。

 けれど、もしもこれが俺だけでなく大公閣下や大公妃を巻き添えにしても、構わないという類だとしたら厄介だ。

 トニスのおっさんも姿は消してついてきてもらってるけど、伝える術がない。

 俺はレナを最優先するが、大公たちはどうやって守るべきか。

 [ブラックシールド]は二つしか出せないから、背後に回すか。


「ところで——大公閣下」

「ん? なんだ」

「俺は比較的、狙われることが多いので、死ぬことはないのですが、大公閣下はいつもどうされているんですか?」

「……なに? どういう——」

「殺せ!」


 大公と大公妃は本気でわからないという顔。

 つまり、この二人は本当に白。

 真横でハルオン殿下が先ほどとは別人のような顔で叫ぶ。

 悪意——いや、殺意たっぷりの合図。

 向けられた杖からは氷属性の魔力。

 宙に氷柱がいくつも浮かび、俺と大公、大公妃のところへと飛んでくる。

 驚いたな、自分の父親ごと殺そうっていうのか。


「[ブラックシールド]!」


 特大サイズ!

 全部防いだが、背後からハルオンの部下が飛び出してきて魔法で攻撃してきた。

 それらはランディとラウトが防ぐ。

 いつもやっていることと、たいして変わらない。悲しいけれど。


「ランディ、ラウト! 無効化だ!」

「了解いたしまし——殿下!」

「え」


 上か!

 階段の、天井ギリギリのところから“殺意”。

 見上げた時、弓矢を放つ男の姿が見えた。

 [ブラックシールド]は二つともハルオンに向けているから、俺が大公たちを守らなければ!


「ヒューバート王子!」


 叫んだのは大公妃だろうか。

 俺は防御力を爆上げしてるから、ちょっとやそっとのことでは傷つかない。

 怪我もしない。

 しかし、迫り来る矢は魔力を帯びていた。

 多分、貫通魔法が付与されている。

 その上、色がえげつない紫。

 毒付与!

 殺意高すぎだろ。

 でも、毒耐性の高い俺なら——!


「っ——」


 まあね?

 レナの死にそうな表情で、「あー、また無茶してごめんなさい」とは思いましたけども。

 目の前には赤い髪。

 俺の側近の制服。

 大公と大公妃を庇いに前へ出た俺を、ランディがさらに庇ったのだ。

 階段の上の方にいた狙撃者は、ミドレ公国の騎士たちに取り押さえられた。

 すべては一瞬。

 時間にして十秒もないだろう。

 逃げようとしたハルオンも騎士に頭と腕を掴まれ、地面に押し倒される。

 レナが駆け寄り、前屈みに倒れたランディに[解毒]魔法を施すが、[索敵]魔法で見たランディの毒状態は癒えない。


「そんな、どうして……いつもなら……!」

「俺の時と同じ……? ランディ! しっかりしろ! 大丈夫か! トニスのおっさん! 解毒薬かなにかないか!」

「なんの毒かわからんのに、解毒薬は飲ませられませんよ。逆に悪化したらどうするんです? ちょっとお見せなさい。……[解毒]魔法が通用しないということは、かなり珍しい毒が使われているはず。狙撃者を吐かせた方が早い」

「っ!」


 見上げると、騎士たちが頷いて捕らえた狙撃者を連れて降りてくる。

 その時間さえも惜しい。

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