第116話 御神体

 

 翌朝、朝食を摂ってからすぐに大公から御神体を見に行くかと誘われた。

 興味深かったし、一回見れば満足するだろうしとご招待に預かることにする。

 ハルオン殿下は——機嫌悪そうにしてるなぁ。

 ラウトを睨みつけたりしている。

 どうしよう、大公にチクった方がいい? これ。

 でもせっかく心穏やかそうになっている大公に、あんまり心労をかけたくはないよね。


「おっさん、おっさん」

「なんですかーい?」

「昨日の件って大公閣下に言わなくてもいいよな?」

「うーん、態度があからさまですからね。今後長く付き合っていくのなら、今上に父君である大公閣下と大公妃殿下がご健在の時に、釘だけ刺してもらっていた方がいいんじゃないんでしょうか。あのお二人が他界されたら、今後はあの殿下が大公閣下ですからね」

「あ、な、なるほど。……どうやって切り出そう……」


 言いづれぇ〜、と頭を抱える俺に、おっさんがやれやれと言った様子で俺の頭を掴む。

 顔、近。


「ハルオン殿下は側室をお考えですか、って切り出すといいっすよ」

「側室? なんで?」

「その流れで昨日の話をして、ラウト坊やは男の子、って伝えておくんですよ。病気のやつもいますけど、そういう性質の場合もあります。どっちにしろ自分自身でなんとかできるもんじゃありません。特に位の高い我慢弱いタイプは」

「!」


 つまり初犯じゃねーよ、と。

 で、それとなーく「声かけられたんですけどうちの子は男の子なんですよ〜」って世間話風に報告しておけば、波風立たずにチクることができる!

 ………………。


「え? でも治らないんだよな?」

「治るもんじゃないですからね」

「え? じゃああんまり意味なくない? わざわざ波風立てる必要なくない?」

「釘を刺しておくだけでだいぶ違うと思いますよ。大公閣下は昨日の威圧的な殿下を見ておりますし、食糧支援や石晶巨兵クォーツドールの件でかなり下手に出ていますが、ヒューバート殿下が頑張って偉そうにしているところをハルオン殿下は見ていませんからね」

「む、むう……」


 つまり今からハルオン殿下にも偉そうモードで接しないといけないのか。

 ちらりとトニスのおっさんを見上げると、ニコリと見下ろされる。


「殿下はもっと強気に出てもいいくらいっすよ。頑張ってください」

「わ、わかったよ〜」


 ハルオン殿下にこの先もラウトへ手を出されるのは困る。

 ラウトが手を出さない自信がないと言っていたし、ハルオン殿下のためにも釘は刺しておくべきか。


「ヒューバート王子、こちらです」

「え! あ、はい!」


 大公閣下、暇なのか?

 他に仕事がないのか、地下への案内は閣下が自ら行ってくださるらしい。

 閣下だけでなく妃殿下、聖女のリセーラ殿、ハルオン殿下、騎士団長ロイドや数名の騎士、技術者が同行する。

 ちょっと人多すぎない?

 ……あれ、ハルオン殿下の奥方は来ないのか。

 娘さんたちもいない。

 まあ、昨日しれっとお断りしたしね。


「階段で下りるのですね」

「ああ、かなり下りるぞ。御神体はかなり大きい」

「へえ。……レナ、大丈夫か? 足下気をつけて」

「はい、ありがとうございます」


 俺たちも表で石晶巨兵クォーツドールを守る者以外は全員で御神体を拝見することにした。

 レナは聖女リセーラ殿と色々話をしている。

 この国はリセーラ殿より力の強い聖女候補はいないそうだ。

 そのことがミドレの人々の諦めに繋がったともいう。

 悲しいかな、人々の希望である聖女も、ここまで侵食が進んでしまうと期待もされなくなるようだ。

 でも彼女もかなり頑張ってきたはず。

 レナの存在は人々に諦められた彼女にとって、どんな存在に映るのだろうか。


「見えてきたぞ」

「え? あ、おお……?」


 巨大な空洞だ。

 岩が円形に削られた、数十メートルほどの縦穴。

 なぜか非常に明るいのだが、ほわほわと丸い小さな光が床から天井へ向かって浮かび漂っている。

 [蛍火]の魔法か。


「ヒューバート様、御神体って——」

「うん」


 レナが驚きの声を上げる。

 守護神の御神体とやらの全体図が見えてきた。

 前世、西洋のランス——モン○ンとかで出てくる手元に向かうにつれて太さを増すやつ——と、本体よりも巨大な盾を持つ、全体的に西洋の騎士のような機体。

 色は純白。

 兜や鎧、盾やランスのふちは黄色く、形容するのなら『白騎士』。

 大和タイワの疑似歩兵前身兵器ではない。

 そういうタイプではないと、一目でわかる。

 別の国の疑似歩兵前身兵器、だろうか?

 いや、この雰囲気は……。


「まさか」


 床に降りる。

 近づくと、やはり。


「……ラウト、その……見覚えは、ある、か?」


 恐る恐る振り返る。

 じぃ、と見上げていたラウトは答えない。


「見覚え、あるような、ないような」

「そうか」


 曖昧な答え。

 でも、今はそれで十分。

 多分、まず間違いなくこれはギア・フィーネ。

 何号機かはわからない。

 メメはうるさいから光炎コウエンの中に残してきたから、ちょっと失敗だったな。


「どうだ? 神々しい姿であろう?」

「は、はい」

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