第89話 羊の返り血(4)
「思わなくはないが、
「ええええええっ!? ど、どういうことなんすかねぇ!? オタクの国、セドルコ帝国には何度も侵略戦争ふっかけられてるでしょうよ!?」
まあ、そういう歴史もありましたようですねぇ。
最近は国交断絶してますしねぇ。
「それが気に食わない」
「え」
「
情報がほしい、一つでも多く。
別の技術で作られたヒントがあるなら、俺はそれが喉から手が出るほどほしい!
「……戦争になるとはお考えにならないんですかい?」
「セドルコ帝国が
「わかりませんよ。今の皇帝はともかく、皇子、皇女はなかなか血の気の多い自分勝手なやつが多いですから。あの国は元々侵略国家です。オレは元々あっちを主な活動地域にして、皇族も何人か殺しましたからね。お恥ずかしい話、しくじったのはヒューバート王子が初めてですよ」
「……ふぅん」
確かに手口はセドルコ帝国の蜂だったりと、あっちに寄りけりだったけど、マジでこの人暗殺者なのか。
というか——。
「おじさん、セドルコ帝国にも行ったりできるの?」
「おや、他国の情報は高いっすよ〜?」
「なるほど。じゃあそれは追々」
「……本当に肝の据わった王子様だね。オレは高いっすよ?」
「だろうな。でもそれでもいいよ。あと一年か二年もすれば、新しい食糧生産の目処が立つ。そしたら俺の懐も少しは潤うと思うし、
「むう」
しかし、セドルコ帝国の世代交代か。
確かに陸続きだから警戒しておくべきだろうな。
レナの結界でも、馬や人間、魔法攻撃は阻めない。
相手は軍事国家だし、食糧生産の目処が立ったらその情報も売って逆に儲けるか?
「殿下、暗殺者をあまり信用されるべきではありません!」
「そうだよ、ヒューバート。こいつはヒューバートのこと二回も殺そうとしたんだよ」
「まあ、けど失敗したから解雇されたんだろ?」
「ですよ。あれで死なないとか嘘でしょって思いましたよね」
それはそうだろうなぁ。
「じゃあいいよ、もう。それより俺は晶魔獣を操る魔道具のことを知りたい」
「器がでかくでらっしゃる。ええ、いいですよ。そんなら。でもあの人型魔道具はいりません」
「え、いいの?」
「でかいし動かせる自信がありませんからね。その代わり、王子殿下のご依頼を例の魔道具の製作者に聞いてみます。殿下の最終目的が
「本当か!? ありがとう!」
「あり……」
ヒクッ、と顔を引き攣らせたおっさん。
俺なんか変なこと言った?
「ちなみに、ヒューバート王子は
「そうだなぁ、
「……なるほど」
そして俺も!
無事に回避できるかわからないから、可能性は少しでも減らしたいんだ。
マルティアを見て「可愛いな」程度で済めば御の字。
でも、もしも物語の強制力とかがあって、俺のレナへの気持ちが冷めたりマルティアに向いたりしたら……ヒィィィィイイイィ!
生き残りたい。
「ではそのように伝えます。そうですね……半月ほどお待ちください。半月後にまた王子殿下の御前に見参いたしますよ」
「わかった。よろしく頼む」
できればこのおっさんとの繋がりはこれ以降も継続したい。
外国の情報はほとんどないから、密偵として。
でもお金かぁ〜。
お金……どの世界でもお金は大事だね。
「……本当によかったの〜?」
「うん。それより次はこいつらだな」
「ひっ!」
おっさんが突如消えて、次に考えるのは馬車の中のコモードル伯爵たち。
怪我人もいるし、まずは治癒してから城に届けるとしよう。
「羊の返り血のおっさんの方がよっぽど怖かったなぁ」
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