第86話 羊の返り血(1)
「やったー! 耐久実験、百点満点だぜー!」
「わ〜い!」
「お兄ちゃんやったー!」
「さすがはヒューバート殿下!」
「おめでとうございます! ヒューバート様っ!」
「やりましたね! ヒューバート殿下!」
翌日の放課後、ジェラルドの
つまり、結晶化していない。
結晶化耐性、あり!
それが立証されたわけだ。
「これで父上にいい報告ができる……もとい、予算がもらえる……!」
「すごい生々しい」
そうは言うけどな、ラウト。
王家の予算はびっくりするほど少ないんだぜ。
レオナルドの養育費なんて、半分くらいメリリア妃の実家から出てるぐらい。
でもこの
魔石が増えれば魔道具も増やせる。
人々の生活は豊かになるから、それすなわち物流と物価に多大な変化……要するに儲かる!
リーンズ先輩大活躍の予感——⭐︎
「よっしゃあ! せっかくだから
「わあ〜! 賛成賛成〜!」
ジェラルド、複数の
というわけで狙うのはそこそこでかいやつ。
晶魔獣じゃキッツイやつも、採掘となれば話は別だろう。
魔法で少しずつ削り出せばきっと上手くいくはずだぜ!
「よーし、[探索]魔法ででっかい
「おーぅ!」
ジェラルドはノリノリだが、他のみんなはあまり乗り気でなさそう。
なんで?
「殿下、それは後日にいたしましょう。お夕飯に間に合わなくなりますよ」
「ウグゥ……そ、そう言われると……」
「そうです、ヒューバート様! 明日も授業があるんですよっ」
「ううう」
「寝坊して遅刻したら、品行方正なヒューバート殿下の評価に傷がつきますよ! それに、そんな無様な遅刻理由を、レオナルド殿下が耳に入れたらがっかりしてしまうかも!」
「ウグワー!」
ランディとレナもど正論だったが、パティの一撃が一番効いた。
せっかくいつでも会えるようになったのに、レオナルドに軽蔑の眼差しで見られるのはイヤだー!
「わかった、今日は大人しく帰ろう……」
「え〜っ」
「ジェラルド、お休みの日にまた来ような。あ、次は東の結界外に行ってみよう、な?」
「東側かぁ。東は確かに行ったことないもんね〜」
よかった、落ち着いてくれた。
あーあ、魔石ガッポガッポで大儲けする計画も先延ばしかぁ。
ん?
「みんな待て」
「「「?」」」
最近暗殺者も仕向けられないな、と思っていたが、俺の暗殺を諦めたわけではなかったらしい。
馬車が凄い勢いで近づいてくる。
殺意と敵意の詰め合わせだぜ……やだなー。
「追いついたぞ、悪魔どもめ!」
しかしまあ、馬車は急には止まれない。
なかなかの大きさである馬車は、六頭の馬を繋いでようやく走らせているタイプ。
ゆっくり停車し、中から若干馬車酔いしている。
「はぁ、はぁ……さ、探しましたぞ、ヒューバート殿下」
「えーと、誰かな?」
「お、お、お初にお目にかかりますかな? ヨレーン・コモードルでございます」
「ヨレーン・コモードル……伯爵か」
「はい!」
コモードル伯爵といえばバリバリの聖殿派。
後ろに乗っている数名の者は私兵らしいな。
ええ? そんなわかりやすい作戦上手くいくとか思ってる?
いや、勘ぐりすぎかもしれない、落ち着くんだ俺。
いくら[索敵]魔法にバリバリ敵意と悪意が反応しまくっているからと言っても、さすがに俺たちを迎えにきたふりをして馬車に乗せ、私兵を使って拘束、殺害して
ありえないありえない。
「えぇと、それで、伯爵はなぜここに?」
「ええ、それはもちろん、殿下がお出かけになったと聞きお迎えに参りました! 実は、聖殿の新聖大教皇帝閣下が、ぜひ殿下とお夕飯をご一緒したいとのことで!」
「……しんせいだいきょうてい……」
やばい、また聖殿のトップの名前が新しくなってる。
足の引っ張り合い好きすぎだろお前ら。
挨拶したってすげー速度で頭がすげ変わるんだから、いちいち覚えていられねーよ!
「申し出はありがたいのだが、これから帰寮しなければならない。明日も授業があるので、日を改めてもらえないだろうか。聖殿の新たな長にご挨拶する分には、こちらとしても願ったりだがなにぶん急すぎる」
「お夕飯だけでございます! ささ、殿下こちらの馬車へ!」
「いや、だから——」
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