第36話 お昼休み
「平民たちは杖購入が厳しいのか」
「はい。そもそも杖は魔道具ですからね。高額なものです! なので数年前から、平民は自分の杖を作るために
「え、ええー……」
昼休み。
パティが作ってくれたお弁当を持ち、ランディオススメのお弁当エリア——学院内の公園の小丘で昼食タイムな俺たち。
平民たちの杖事情を、ついさっき知ったばかりなのでランディたちの学年の平民たちはどうしているのかと聞いてみたら、これだ。
とんでもねぇ無茶振りすぎでは!?
「それって死人出ないのか?」
「最初の頃は出ていたそうですが、最近は騎士団の中で休みの者が同行するようです。それでも危険ですが……」
「うーん……晶魔獣討伐は三年生以降だろう? 生徒も同伴するのか?」
「の、ようですね。自分の杖は自分で用意しろ、とのことです」
「なんつー……」
そもそも聖殿の意向で平民を入学させるようにしたのに、面倒は一切見ないっていうのがなー。
王家で面倒を見ようにも、そんな金ないし。
土地が狭まって、民の人口自体が減少傾向。
税収も当然下がる一方なんだよなぁ。
せめて食糧生産だけでもと思うが、それも相変わらず下がる一方だし。
そして食糧は聖殿が四割も持っていく。
聖殿には聖女候補がいるから、という主張だ。
まーね! そーね!
聖女あってのお国ですからねー!
「わたしが同行してはいけないでしょうか……? 晶魔獣を討伐するのでしたら、国境付近に向かうのですよね? 結界を強化してくれば、強い晶魔獣は現れないはずですし……」
「ぼくも例の計画用の素材集めに、
「そうか。俺たちにとっても行く価値があるんだな。じゃあ行くか」
「「ええ!?」」
パティとランディにはびっくりされたのだが、もちろん平民たちが嫌がらなければな、の話だ。
研究塔のおかげで想像以上に多くのことが試せそうだし、素材集めはどのみち行く気だったし。
ただしばらくはおとなしくしてないとまずいかなー、とは、思ってただけで。
「平民たちの護衛という
「なるほど! さすがは殿下!」
「じゃあ今日の授業が終わったら、平民たちに提案してみよう。あちらに断られたら、最初の計画通りレナの結界修復護衛のため、とか視察のため、とかにしよー」
「はーい」
「そうですね」
「わかりました! このランディ、いつでも馳せ参じます!」
しかし、平民とばかり仲良くするわけにはいかないし、貴族連中にもなにかおやつをあげておかないといけないな。
同級生もほぼ聖殿派とはいえ、中立派や王家派がいないわけではない。
将来的に一緒に仕事するのはそういう者たちだ、蔑ろにはできないわけですね、ハイ。
「ランディ、知恵を借りたいのだけど」
「はい! なんなりと!」
「今日俺とジェラルドは割と平民贔屓にも見えることをしていたので、貴族連中たちからの好感度が全然上がってないと思うんだよな。どうしたらいいと思う?」
「——、……でしたらお茶会を開催してはいかがでしょうか? 入学したばかりではお忙しいと思いますので、自分にお任せいただければと思います。その代わり、二、三年も参加する規模の大きなものにしてもよろしいでしょうか? 四年生より上の学年は手を出すにはまだ早いかと思いますので、ひとまずは」
「お茶会かぁ」
昨日のパーティーでの胡麻すりヨイショを思い出して、気が滅入る。
でも母上に「お茶会や夜会で婚約者を探す者も多いから、社交界シーズンはできるだけ出かけるといいわ。人間関係がよく見えて、学ぶことが多いわよ」と笑ってない目で微笑んでいたからなぁ。
ぶっちゃけ腹の探り合いは俺もレナも大の苦手なのだ。
特にレナは聖女なので、人の悪意が見え隠れする場所は向いてない。
しかし、王妃教育の賜物か、苦手を顔に出さないようにする訓練は受けている。
そのおかげで幼い頃よりはマシになっていると思う。
それに、貴族同士の派閥争いは王家にとって無関係なことじゃないんだよなぁ。
「よし、そうしよう。本当に任せていいのか? ランディ。大変じゃない?」
「大丈夫ですよ。アダムス侯爵家のお力をお見せしましょう!」
「え、あ、う、うーん、う、うん? でも俺もなにかするから……なにもしないわけにはいかないし、なんでも言ってくれよな?」
「は! しかしここはこのランディにどうぞお任せを!」
うーん、不安だけど、ここは高位貴族のランディに任せるとするか。
なにかあれば相談してほしい、と一応念押ししておくけど。
……それにしても、王族ってただ偉そうにしてればいいだけじゃないんだなぁ。
平民にも貴族にもヘコヘコ気を遣って、この世界では聖殿にも気を遣って……。
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