第34話 属性検査

 

「で、では次は魔法属性の検査を行います。魔力は基本無属性ですが、使い手は八つの属性のどれか、を持ち得ます。地、水、火、風、雷、氷、光、闇です。稀に二つの属性の適正を持つ方もいますが、相反する属性は不得手なものとなります。自分の得手不得手を、しっかり把握して今後に活かしましょう」


 ちらり、と後ろの方に固まる平民たちを見る。

 皆一様に落ち込んで俯いていた。

 空気悪。

 だがそれも仕方ない。

 貴族の子息令嬢が平均魔力量値4なのに対し、平民はほぼ1。よくて2。

 でも仕方ないのだ。

 魔力は使わなければ増えない。

 ジェラルドのような生まれつきチートでなければ、俺やレナやランディのように努力で増やすしかない。

 平民にそんな知識もなければ、魔法を魔力が枯渇するほど使う機会もないのだから。

 スタートダッシュが違う。

 貴族たちはそうして落ち込む平民を見下してニヤニヤしているが、お前らのどの辺に偉ぶる要素があるよ?

 ジェラルドの破格っぷりを見たあと、下を見て落ち着きたい感じ?

 げろ……。


「お前たち、落ち込んでいる暇があったら魔法属性測定を真面目に受けろ! 自分の得意属性を伸ばすことで、魔力量はいくらでも増えるのだからな!」

「! は、はい、殿下……!」

「あ、ありがとうございます……!」


 俺も前世は庶民だ。

 平民たちの気持ちはよくわかる。

 つーか、純粋に俺をヨイショしてくるくせに、平民を嘲笑う連中が嫌い。

 生理的に受付けねー。

 だからつい、平民に声をかけた。

 すると今度は「平民にお声をかけてやるなんて、ヒューバート殿下のなんとお優しい」「慈悲深いわ」「素敵!」と、胡麻擦りが始まる。

 だんだん貴族連中は貴族連中で大変だなぁ、と優しい眼差しになる俺。


「ヒューバート殿下からですよ」

「俺とジェラルドとレナはすでに申請していると思うのですが」

「は、はい。ですが後天的に別の属性に目覚めることもありますので」

「なるほど?」


 それは興味深い。

 ということで水晶玉に手を当てる。

 属性検査水晶という魔道具で、触れるとその者の適正魔法属性を教えてくれるものだ。

 魔法は基本的に八つの属性を持つと言われているが、父上は「聖殿が認めないだけで“無属性”や“聖属性”というのもある」と言っていた。

 無属性は[ステータス]や[鑑定]、[分析]、[記録]、[探索]など。

 聖属性は主に聖女の魔法のことだ。

 なぜ聖殿がこの二つを正式に認めないのかと言われれば、無属性は幅が広すぎて把握できない上、一言に地味だから、らしい。

 そして聖属性は『聖女の魔法』として神聖化、特別視されるよう属性として認めないんだってさー。

 父上と母上も「まあ、聖属性は聖女しか使えないし」とどうでもよさそうにしてたけどな。

 ちなみに俺はというと——。


「おお……? や、や、闇属性、でございますね……」

「なにか問題でも?」

「いいえ! とんでもない! 珍しい属性ですので、はい」


 黒い靄が水晶玉の中に現れ、周りもザワザワする。

 光属性と闇属性は確かに珍しい。

 しかし、闇属性は名前からしてあまりいいイメージを持たれないのだ。

 実際には攻守に秀でた属性で、光属性同様サポートの種類も豊富。

 使いこなせればかなり有能。

 使いこなせればな。

 フッ、いかにも悪役王子っぽいよなぁ。


「ヒューバートの闇属性魔法かっこいいよねぇ」

「はい! かっこいいです!」

「えへへー」


 ジェラルドとレナが褒めてくれるのでやはりなんの問題もない!

 厨二心をくすぐる属性だし、やはり問題なし!


「で、では次。ジェラルド・ミラーくん」

「はぁーい」


 やはり成績順なのか。

 先生たちまた腰を抜かさなければいいけど……。


「!? こ、これは!」

「こんなバカなぁ!?」


 今度は生徒たちも口を開けたままぽかーーーん、とはいかなかった。

 先生の一人が腰を抜かして……なんなら顎も外れてしまったようだ。

 ざわつくのも無理ない。

 ジェラルドの属性は地、水、火、風、雷、氷、光。

 闇以外全部。

 ちなみに一番最初に現れた適正は雷だった。

 この四年で闇以外は全部適正を得たのだ。

 闇だけは「ヒューバートが闇だから覚えなくていいかなぁって」というゆるい理由で適正そのものを得ようとしてない。

 神よ、なぜ俺ではなくジェラルドにチート能力を与えたもうた——そう、思わないわけではない。

 でもまあ、別にいいよ。

 ジェラルドだし。


「もういいですかぁ?」

「あ、あ……」

「先生たち大袈裟だねぇ」

「うーん」


 事前に申し送りがいってるはずなんだけどなぁ?

 と、呑気に首を傾げる俺とジェラルドとレナ。

 先生たち、職務怠慢じゃない?

 まあ、俺の時に言われたように、後天的に別の属性が現れることもあるしね。

 でもジェラルドの破格っぷりは、事前に共有されていると思っていたんだが……だって城の騎士団では有名だし。

 魔法騎士団の方には「卒業後、是非我が騎士団に」って騎士団長直々に土下座で勧誘が来たほどだし。

 情報共有してない学院が大丈夫か?

 それとも学院って俺が知らないうちに結構聖殿寄りになってしまったのだろうか?

 だとしても聖殿は情報戦弱すぎでは?

 勢力図優勢だからって余裕こきすぎでは?


「他の皆さんは地、水、火、風のどれかの方が多いですね」

「まあ、一般属性って呼ばれてるのはその四種だしね」

「わたしも聖属性以外の属性に目覚めていないでしょうか……!」

「どうかなぁ」


 ワクワクしてるレナには申し訳ないが、聖女が聖属性以外の属性魔法を使える、という話は聞いたことがない。

 不思議な話なのだが、聖女は他の属性を使えないらしいのだ。

 体内に結晶魔石クリステルストーンを持っているからではないか、という説が有力らしい。

 案の定、レナの検査結果は『なし』だった。

 ショックを受けてるレナも可愛い。


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