第7話 身分と味方(2)

 

「ヒューバートの立場が、王家の立場があやういのは知ってる。だからこそヒューバートががんばらなきゃいけないのも知ってる。僕もお母さんもお姉ちゃんも王家の味方。お妃様には“きんせんてき”に“しえん”していただいてる、恩がある。ぼくはヒューバートのきょうだいみたいなものだし」

「ジェラルド……」

「ぼくにはぼくにしかできないことがあると思う。ヒューバートは、ぼくよりできることが多いけど、まだ味方が少ない。でもだいじょうぶ。ぼくはヒューバートを信じてる」


 顔を少し上げて、ジェラルドを見上げた。

 くそ、いいヤツ。

 無条件で味方してくれる、俺の“きょうだい”。

 ヤバい、泣きそう。


「がんばって」

「うん、わかった」


 ……漫画のヒューバートは、どうして道を誤ってしまったのだろう。

 こんなに優しい“きょうだい”がいたのに。

 やっぱり側近がランディだったからなのかな。

 それでも、ジェラルドがいたら道を踏み外すことなんてなかったんじゃないかな、って思うんだが。


「ジェラルド」

「うん」

「おれ、王家の立場を立て直したい」


 それが無理なら潔く、俺が『最後の王』となって国を穏やかに終わらせたいと思う——は、言わないけど。

 王家の立場を立て直し、レナと婚約破棄せず結婚して国を守れたら最高。

 それが理想だ。

 でも正直、どうすれば王家の立場を立て直せるのかよくわからない。


「味方を増やさなければ、というのはわかるんだけど……他になにしたらいいと思う?」

「うーん、味方を増やすのは“ひっす”」


 必須か。

 だよな。


「ヒューバートが言ってた『聖女の“ふたん”を減らせる魔法』は、王家の立場を立て直すのに、十分可能性がある」

「!」

「だから“やくわりぶんたん”。ね?」

「……う、うん! そっか、わかった!」

「うん。ヒューバートも、夢を教えてくれてありがとう。ぼくも手伝うね」

「うん、ジェラルド、ありがとう」


 話をまとめてから剣の素振り練習を一時間。

 魔法の練習を二時間やって解散した。

 味方がいるって素晴らしい。

 俺、前世は一人っ子だったから“きょうだい”がいるのもなんかこう、ウフフってなる。

 まあ、マジで血の繋がった兄弟——レオナルドとは、ほとんど会えないんだけど……。


「無理やり会いに行ってみるか?」


 聖殿の力が強くなっているんだし、いくらレオナルドの母親が聖殿派とはいえ破滅が待ち構えているのは同じだしな。

 陽も傾いてきたし、今日はやめておこうか。

 いや、思い立ったが吉日だ!

 後宮西側に赴き、レオナルドの様子だけでも見てこよう。

 明日の件の稽古に誘うのもいいな。


「!」


 後宮は男禁制。

 女の声がして、思わず柱に隠れた。

 なぜならその女の声は側室のメリリア妃。

 俺にとっては継母であり、聖殿派。

 誰と話してるんだろう、と柱の影からこっそり覗き込むと……ラ、ランディ〜!?

 レオナルドを側室のメリリア妃が手放さないので、十歳未満の子どもはお目溢しされているから、いるのはギリギリセーフだが……。


「なにをやっているの! 本当に無能ね! どうしてお前しかいないのかしら。義兄さんの息子は優秀な者が多いのに……ああ、よりによって一番味噌っかすなアンタがヒューバートに一番歳が近いなんて!」

「……も、申し訳ありません、叔母上……」


 え!

 ランディとメリリア妃って親戚だったの!?

 おば、ってことは宰相とメリリア妃は兄妹!?

 し、知らなかった!

 貴族の相関図とかまだ習ってないけど、こりゃ急ぎ目で教わった方がいいかも!

 それにしてもなんか険悪というか……メリリア妃がランディを叱りつけてる?


「いいこと、お前みたいになんの才能にも恵まれなかった塵にも、義兄さんは役目を与えてくれたのよ! ありがたく思ってヒューバートを懐柔なさい! レオナルドが王太子になるのが理想だけれど、お前がヒューバートを操れればアレを引き摺り下ろすこともできるもの」


 は……?


「だいたい、なんで伯爵家のヒュリーが正妃で侯爵家のわたくしが側室なのよ。その時点で間違ってる! あんたもそう思うでしょ!」

「は、はい、叔母上!」

「そうよ! 間違いは正さなきゃいけないわ! レオナルドが次期国王になるのが正しいの! だってレオナルドは由緒正しいアダムス侯爵家の血を引いてるんだから! 我が家から王を出すのは、悲願なのよ!あと一歩、あと一歩なの! いい! 失敗は許されないわ! これ以上無能を晒すのなら、義兄さんに頼んで折檻してもらうんだからね! わかった!?」

「は、はい! わかりました! 二度と失敗しません! だ、だから鞭は……鞭はお許しを……!」

「気安く触るな!」


 ベシッと音を立てて、ランディがメリリア妃に叩かれて倒れる。

 震えが止まらない。

 メリリア妃、片手の数しか面識がない、俺の継母。

 聖殿派だとは、知ってたけど……なんという性悪女!

 ランディはまだ9歳だぞ!?

 子どもを殴るなんて!

 しかもあんなに罵って、無能? 味噌っかす?

 できなければ折檻? 暴力を振るうのか!?

 子どもに!?

 ……信じられない……なんてヤツだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る