精神の薄明
一方でユウキは、
これまでとは異なるものを目にした。
「これ、凍ってる?」
土に付いた足跡を見て
違和感を覚えた彼は、しゃがんで触れてみた。
辺りを見ると、
何処からか続いている足跡の一部だと分かった。
「向こうまで続いてる……」
少し迷ったが、覚悟を決めた様子で——
「よし、追いかけよう」
無謀だと分かっていても、彼は進んだ。
とても冷静とは言えない、
目的に支配された狂気的な挑戦である。
「さ、寒い……えっと、左に続いてるな」
不自然な気温変化に気付きながらも、
やはり止まることなく進んでいく。
まるで何かに導かれるかのように、
盲目的に駆ける。
角を曲がると、見知った騎士二人と、
氷のバケモノを見つけた。
「あっ——‼」
一歩近づいたその時、
ツヴァイがバケモノによって飛ばされた。
だが、彼が驚いたのは、ツヴァイの事ではない。
探し求めた首飾りが、
すぐ目の前に落ちてくるという、
運命的な出来事の為である。
「ユ、ユウキ君⁈」
「ぐ……な、なぜ来た‼」
日長石の首飾りを拾い上げる少年。
その姿を見たアインズとツヴァイが言った。
その問いに、うってかわって
妙に落ち着いた彼が答える。
「もう、嫌なんだ。何もできないのは。何もしないのは」
「だからって! ここは危険よ、城に戻りなさい!」
「決めたんだ‼ 僕は戦う、戦うんだよ!」
「な、何をバカなことを! 君は民間人なのだぞ⁈」
二人の警告には耳を貸さず、
拾った首飾りを自分にかけた。
ゆっくりと目を閉じ、日長石を握りしめた。
——っ‼
特別激しい拍動が一回。
その一瞬、景色が全て消えた。
……?
真っ暗闇の空間。
何かに群がる大人たち。
それを背後から眺める少年。
記憶に新しい悪夢であった。
罵詈雑言を飛ばす彼らに少年は——
「夢……? いや、違うか」
それは、記憶。
それは、トラウマ。
「邪魔だ、どけ‼」
右手を左から右へ払う。
すると、前を塞いでいた
大人たちの幻影が晴れた。
「——リオ」
綺麗な巫女衣装に身を包んだ少女が振り返る。
彼女の向かう方向には、まばゆい太陽。
ユウキは、彼女に向かって右手を伸ばした。
少女は、それに呼応するように、
少年に向かって笑顔で手を伸ばした。
「……あっ」
だが、二人の手が接触することは無かった。
代わりに、日長石が激しく輝く。
その光はやがて闇を照らし、
景色はブライトヒル王国の街に戻った。
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