第1話-2.呪いの宝石、接客をする

 来店した女性は二十代半ばくらい、長そうな金髪を後ろでまとめた、目つきの鋭い美人だった。

 背が高く、がっしりと引き締まった印象を受ける。男物の軍服で腰には無骨な剣を提げているが、普段から着慣れているようで不自然さは無かった。

「見たことのない顔だが、君はここで何をしている? トワルはどうした?」

と、その女は尋ねた。

 どうやらトワルの知り合いのようだ。

 フィオナはこれまで初対面の人間から敵意を向けられることが多かった。

 そのため必要以上に警戒し、その目は女の剣に釘付けになった。

 あの剣で切り付けられたら今の私は果たしてどうなるんだろう。

 通常の自分ならば物理攻撃など効かないので気にすることはない。しかし今は御札の力でこの身体は実体化してしまっている。それならば剣の攻撃も通るのでは?

 なんだか怖い顔の人だし、私が人間に害を為す呪いだと知られたら斬られるかもしれない。

 フィオナは勝手に考えを飛躍させて勝手に青ざめた。

 フィオナが返事をしないので女は怪訝な顔をして、

「どうした?」

 フィオナは我に返ると慌てて答えた。

「あの、私トワルに店番を頼まれていて……でも、何もわからないので、ごめんなさい。お客さんの対応はできないです」

 出直してください、と暗に伝えたつもりだったのだが、女は何故か逆に目を見開いてツカツカとフィオナに歩み寄った。

「あのトワルがこの店の番を頼んだだって? すると何か、君はあの子の友達なのか?」

 予想外の食い付きに、フィオナはたじろぎながら思わず相槌を打った。

「は、はい」

「そうかそうか。トワルもついに同年代の友達ができたのか。しかも女の子とは。あいつも中々隅に置けないじゃないか」

 女は嬉しそうだった。「君、名は?」

「名前ですか? フィ、フィオナです」

「フィオナか。良い名だ。それに可愛らしい。――トワルは色々あったせいで少々気難しいところがあるが、本当は根は悪い奴じゃないんだ。これからも仲良くしてやってくれ」

 随分ぐいぐい来る人だが、裏表のない性格なのだろう。話していて気持ちがいい。

「はい、わかりました」

 フィオナは自然と笑顔で頷いた。

 女も満足そうに頷く。それから、

「ところで、さっきから気になっていたんだがその札は一体何だね」

 フィオナの額の札のことである。

「ああ。このお札なら、さっきトワルに貼られて取れなくなってしまって――」

「なんだと?」

 途端に女は鬼のような形相になった。「女性の顔にそんなことをするなどあいつは何を考えている。こうしてはおれん、探し出してとっちめてやらなければ」

「いえ! そんなことしなくていいです、私も悪かったので!」

 大股で出ていこうとする女をフィオナは慌てて呼び止めた。

 良い人だと思ったけどやっぱり怖い。

 誰だか知らないがトワルに親身なようだし、トワル経由で私が呪いの化身だとばれたら本当に斬られるかもしれない。

 フィオナは必死に女の気を逸らそうと、

「ところで、あなたは……」

「ん? ああそうか、すまない。名乗るのを忘れていた。私はアンブレ。この街の自警団の副団長をやっている。トワルとは長い付き合いでね。あの子の友達と聞いてつい気分が高揚してしまった」

「そうだったんですね。よろしくお願いします、アンブレさん」

「よろしく、フィオナ」

 握手をしながら、フィオナはふと思った。

 ……この状況、使えるのでは?

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