第101話
『とりあえず、貴様の死体の前でヒルデを犯してやろう!!』
そんな声が聞こえた。同時に黒い影が触手のようにヒルデに伸びてくる。
(体は重いが……生きてるか……)
間に合ったようだ。
とはいえ、血を流し過ぎてるし、それ以上に魔力が枯渇している。
このまま疲労感に抗うことなく眠っていたいが、そんなことをヒルデが許してくれるとは思わない。
カズヒコの触手を斬り払いながら「早く起きろ! 貴様っ!!」と怒鳴っていた。
「わかったよ……やるよ……」
言いながら立ち上がる。
そんなテオドールに気づいたのか、カズヒコの動きが止まった。
『な……んで? 生きてるんだ、貴様ぁぁぁぁぁっ!!』
「お前に言われたくないわ」
答えながら
(うん、体が重い。スタミナも切れてる。このまま戦ってもじり貧だな……)
だが、やりようが無いわけではない。
(俺の封印魔術は内側からは絶対に破れない仕様だ)
特定の魔力に対してのみ確実に反発するような術式だった。そして、魔力というのはその者の魂にヒモついた精神力であり、十人十色だ。双子など一部例外を除き、二人と同じ魔力を持った者は存在しないし、魔力の質を変化させることはできない。
魔力の質を変化させるということは魂の形を変えるということと同義である。そして、魂は肉体とも密接につながっている。魔力と魂と肉体は、どれか一つを変質させようとすると、全てが変質してしまう。
よって、成長と共に時間をかけて変質することはあれども、瞬間的な変容はありえない。
そう思っていたから、カズヒコの魔力に設定した封印魔術を構築したのだ。
それが内側から破壊されたということは、すなわちカズヒコは己の魔力を変質させたということに他ならない。
(まあ、現状、肉体を持たない存在なのだから、できないこともないんだよな……)
さすがに、そんなイレギュラー中のイレギュラーな能力まで想定することなどできなかった。
(逆説的に考えれば、肉体を持たないあいつの魔力は――)
カズヒコの触手が伸びてくる。
テオドールは無造作に触手をつかみ――
(――外からでも俺の魔力と同じモノに変質させられるってことだよな?)
――魔術式を奔らせ、触手を消失させた。
『ぐあっ!!』
痛かったのだろう。無理も無い。強引に魔力を変質させられ、奪われたのだから。
「うん、成功した。これなら、行けるな」
魔力切れの頭痛も和らいでいく。
『なにをした、テオ!!』
教えてやる道理はないので、挑発するように手招きする。
『舐めるなぁぁぁっ!!』
繰り出された触手をつかみ、今度は先ほどの十倍以上の魔力を略奪した。テオドールが触れた箇所から砂が崩れるような崩壊が始まり、カズヒコの体にまで至る。
『ぎゃああああああっ!!』
崩壊を止めるためか、触手が体をこそぎ落とすように斬り飛ばした。
『なんだ、今のは!! お前、なにをしたテオドール!!』
叫びながら極太の
手を伸ばし、魔術式を構築した瞬間、光が霧散した。
「よし、勝ち目が見えてきた」
カズヒコの弱点を完全に理解した。
肉体を持たないから物質的に破壊できない不死ではあるが、肉体を持たないが故に魔力も脆弱で、外部からの影響を受けやすい。
それこそ、普通の生物に対してできない魔力の簒奪ということさえ可能なのだ。
(わかってしまえば、これほどの弱点も無いよな……)
既にテオドールの魔力は七割ほどまで回復している。
「ヒルデ! ここはもういい! アシュレイと一緒にリリアたち救出に向かってくれ!」
ヒルデは呆れたような顔でテオドールを見てからため息をついた。そして、嘲るような笑みをカズヒコへと向ける。
「アレが我々西部騎士の中でもバケモノ扱いされる小鬼殿だ。貴様も憐れだな、転生者、あんなものと敵対することになるのだから」
『黙れぇぇぇぇぇっ!!』
振り下ろされた触手をヒルデは軽やかに躱す。
「私の分までいたぶって殺せよ、アルベイン! でなければ、唇を奪った件、その命で支払ってもらうからな!!」
頬を紅潮させながら睨まれる。そのままヒルデは脱兎のごとく戦場を離脱した。その背中に向けて放たれた
「さて、決着をつけようか、カズヒコ様」
『なんなんだ、貴様ぁぁぁぁっ!! 死んだはずだろ! 殺したはずだろ!! どうして生きてるんだぁぁぁっ!!』
触手を棘に変え、四方から貫く。だが、テオドールの体に触れた瞬間、ボロボロと崩れ落ちた。
「心臓抉ったくらいじゃ人は死なん。殺すなら首を刎ねろ。慢心するから、こういうことになるんだ」
『死ぬだろ普通!!』
「いや、あんたは首刎ねても死ななかったじゃないか」
今ので魔力は満タンだ。失血で奪われた体力も
「本気で来い。本気で行く」
先ずは動きを止めるため
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