第100話
ヒルデは必死になって
「死ぬな、アルベイン!!」
テオドールが死ねば、リーズレットが悲しむし、癪ではあるが、カズヒコを倒せる可能性があるのはテオドールだけだ。
テオドールの死は、すなわちヒルデやリーズレットの死に直結する。
(私に
それだけ高位の魔術だ。
「クソ!! 死ぬな!!」
叫んだ瞬間、テオドールの手がうなじまで回された。その勢いのまま抱き寄せられ、唇を奪われる。
(なっ!!)
気でも狂ったか? と思った瞬間、舌をからませられた。かみちぎってやろうと思った瞬間、脳髄を焼く快楽に襲われる。
「んっ!」
思わず声が零れる。体が弛緩し、抗う意思を奪われた。
(これ……は……)
頭に注ぎ込まれる莫大な情報に目の奥がチカチカと発行する。己の境界線が無くなるような快楽はオーガズムにも似た忘我の極地だ。
(
「んんんっ!!」
体が震える。屈辱だと思うのに、この快楽には抗えない。脳が書き換えられていく。
嫌悪や憎悪でさえ、快楽に消されていく。
『死に際にぶっ壊れたか!? いいザマだな、テオドール!! ハハハハハ!! 盛った猿みたいじゃないか!!』
盛ってはいるかもしれないが、壊れてはいない。
テオドールは今もまだ生き抜くことを考えている。
(こちらの意図を見抜かれないようにしなければ……別れを惜しむ恋人同士だとでも思わせておけばいい。あのクズは、そういうのを見た後に絶望をくれてやるとか、そういうのが好みだろうしな……)
しかたがないので、ヒルデも求めるようにテオドールの唇をむさぼった。
(屈辱……んふぅぅぅ!!)
目の前が白くなる。ヒルデも
唇を離す。互いの口にかかった唾液の橋には血がにじんでいた。
失血で真っ青になったテオドールが「頼む」とか細い声で言う。
『別れは終わったか? なら、次は俺の相手をしてくれよ、ヒルデ』
ここでテオドールの意図を無視したら、彼は死ぬだろう。
それはそれで痛快だとも思った。
だが、快楽のせいで脳が焼き切れてしまったのか「惜しい」と思った自分に気づき、戸惑う。屈辱である。男にここまで感じさせられたなど、認めるわけにはいかない。
「その首、私が必ず刎ねてやる……」
口元を乱暴に乱暴にぬぐい、唾を吐き捨てた。
「だから、私が殺すまで死ぬことは許さん」
言いながら胸の傷口に手を添える。
「――
詠唱と同時に魔術が発動した。
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